第三章 斯く戦えり
次に話し始めたのは、調停官のゴジラ好きなおじさんだった。
議題は前回から引き続き、婚姻費用についてだ。
調停官という立場上、どちらか一方の肩を持つことはないらしい。
だが、なんとなくこちらの事情も理解してくれているような気がした。
話によると、本来の算定表や計算に基づけば、僕が支払うべき婚姻費用は月十五万円を少し超える額になるらしい。
しかし双方の主張や現状を踏まえた上で、月十四万円を着地点として話を進めたいとのことだった。
僕は弁護士と目を合わせた。
その視線は、「ここが落としどころだ」と語っていた。
正直、安い金額だとは思わない。
だが、この数字を巡ってさらに数か月を費やす未来も見えていた。
そして、その先にあるものを考えれば、ここで終わらせるという選択肢も十分に現実的だった。
僕は小さく頷いた。
弁護士も同じ考えだったのだろう。
それで承諾することにした。
次は妻側の意向を確認するとのことだった、その中で調停官のおじさんは最後にこう言った。
「説得してみます」
僕たちは一旦退室し、再び待合室へと戻った。
待合室の椅子に腰を下ろしながら、僕は最後の言葉を反芻していた。
――説得してみます。
調停官としては何気ない一言だったのかもしれない。
だが、僕には妙に引っ掛かった。
なんとなくだが、あの場の空気が少しだけこちらに寄っている気がした。
もちろん、気のせいかもしれない。
何度も期待して、何度も肩透かしを食らってきた。
だからこそ、そんな都合の良い考えは簡単には信じられない。
それでも――。
少しずつ何かが動き始めているような気がした。




