幕間 ホルモン
最近、気分の落ち込みが激しかった。
悲しい日もあれば、妙に気分が軽い日もある。
まるで感情の波に振り回されているようだった。
最初は精神的なものだと思っていた。
だが、ある時ふと思った。
本当に精神的なものだけなのだろうか。
もしかすると、肉体的な原因もあるのではないだろうか。
そう考えて調べてみると、「男性更年期」という言葉に辿り着いた。
どうやら三十代後半から四十代頃にかけて起こることがあり、ホルモンバランスの乱れによって様々な症状が現れるらしい。
気分の落ち込み。
憂うつ感。
やる気の低下。
イライラ。
不安感。
集中力や記憶力の低下。
不眠。
そして強い疲労感。
記事を読み進めるうちに、僕は思った。
――これ、今の僕じゃないか。
しかも強いストレスをきっかけに発症することもあるらしい。
心当たりなら山ほどあった。
むしろ無い方がおかしい。
僕は半ば確信を持って専門のクリニックを訪れた。
問診を受け、血液検査を受ける。
そして数日後、結果を聞くため再び診察室へ向かった。
医師は検査結果に目を通しながら言った。
「まったく問題ありませんね」
思わず身を乗り出す。
つまり、どういうことだろうか。
男性ホルモンが少ない訳ではないのか。
数値が低かったりしないのか。
医師は淡々と続けた。
「健康そのものです」
そして、とどめの一言を放った。
「不調の原因は、完全に精神的なものですね」
その瞬間、僕は思わず笑ってしまった。
そうですか、と。
男性更年期でもなかった。
ホルモンバランスでもなかった。
数値上の僕は、驚くほど健康だった。
だが現実には眠れず、気分は落ち込み、疲労感に悩まされている。
精神的なものというのは不思議だ。
身体に異常がなくても、人をここまで不調にできるらしい。
診察室を後にしながら、僕は改めて思った。
数値上の僕は驚くほど健康だった。
眠れなくても。
気分が落ち込んでも。
毎日のように悩みを抱えていても。
身体だけはしっかり動いている。
どうやら僕の体は、僕が思う以上にタフらしい。




