第五章 凱旋 上 中編
出発は日曜日の朝だった。
まだ七時を少し過ぎたばかりだというのに、太陽はすでに本気を出していた。
ギラギラと照りつける日差しは、まるで燃えるような勢いで地上へ降り注いでいる。
最高のお出かけ日和だ。
朝のテレビでは「危険な暑さになりますので、外出時は小まめな水分補給を」と言っていた。
誰かが夏を刺激してしまったのかもしれない。
僕は身支度を整え、家を出た。
いつも通りの軽装だ。
リュックの中には靴下とパンツ、それに替えのTシャツが一枚。
荷物はそれだけ。
一泊旅行なんて、その程度で十分だった。
車に乗り込み、ETCカードをセットする。
ナビを起動し、エンジンをかけた。
目的地は地元。
だが今回は帰省ではない。
旅だ。
僕はアクセルを踏み込み、ゆっくりと走り出した。
今回の移動手段は車である。
好きなタイミングで休憩できるし、寄り道もできる。
何より、一人旅にはよく似合う。
ラジオから流れる音楽を聴きながら、高速道路を目指した。
最初の目的地は、明石海峡大橋を一望できる
サービスエリア。
まずはそこを第一チェックポイントとする。
道は驚くほど空いていた。
三連休だから多少は混んでいるかと思ったが、拍子抜けするほどスムーズだった。
信号を抜け、幹線道路を進む。
やがて前方に高速道路の入り口が見えてきた。
旅が始まる時の、あの独特の高揚感。
まだ目的地までは遠い。
それなのに、なぜだか少しだけ楽しくなってくる。
僕はウインカーを出し、料金所へ向かって車を走らせた。
高速道路の加速車線をめいっぱい使って加速する。
エンジンが唸りを上げる。
窓の外の景色が一気に流れ始めた。
――最高の気分だ。
旅路は順調だった。
渋滞らしい渋滞もなく、二時間ほどで最初の目的地であるサービスエリアに到着した。
まずはトイレを済ませる。
少し小腹が空いていたので、名物らしい玉ねぎのはんぺんを頬張った。
揚げたてで美味い。
続いてコーヒーショップでアイスコーヒーを買う。
真夏の暑さの中で飲む冷たいコーヒーは格別だった。
短い休憩を終え、再び車に乗り込む。
ここから目的地までは、およそ一時間。
ラジオを流しながら、のんびりと車を走らせた。
しばらくして県境を越える。
ーー凱旋だ、心の中でそう呟く。
見慣れた景色が少しずつ変わっていく。
やがて高速道路の出口が見えてきた。
僕はウインカーを出し、高速を降りた。
時計を見る。
時間は午前十一時。
途中で休憩もしたし、かなりのんびり来たつもりだったが、思ったよりいい時間だった。
僕はそのまま美術館へ向けて下道を走る。
すると、ふと気になることがあった。
海岸線沿いに、やたらと人が多いのだ。
カメラを構えている人。
椅子を出して座っている人。
堤防にも人影が見える。
最初は気のせいかと思った。
だが、しばらく走っても同じ光景が続く。
どう見ても多い。
――何かあるのだろうか。
少し気になったが、ひとまず僕はそのまま車を走らせた。




