第五章 凱旋 上 前編
三度目の調停が終わってしばらくした頃、夏がやって来た。
とにかく暑い。
日差しは痛いほど強く、まるで肌に突き刺さるようだった。
そして週末を迎える。
ただの週末ではない。三連休だ。
最近の僕は、少し元気がなかった。
暑さのせいなのか、精神的なものなのか、自分でもよく分からない。
ただ、この二、三週間はとにかく疲れていた。
調停も終わった。
色々あった。
そろそろ、いいだろう。
――アレをしよう。
そう、トラベルだ。
そう思うと、まず瞑想する。
目を閉じ、自分が本当に行きたい場所を思い描く。
最初に浮かんだのは、やはり家族だった。
子どもたちと訪れた場所。
一緒に歩いた景色。
笑い声。
思い出が次々と頭をよぎり、少しだけセンチメンタルな気分になる。
だが、その時ふと思いついた。
――そうだ、美術館に行こう。
僕の地元には、大きな美術館がある。
展示されている作品の多くはレプリカだが、その完成度は驚くほど高い。
正直なところ、僕には美術品の本物と偽物の違いなんて分からない。
その程度の人間だ。
それでも、世界各地の名画や彫刻が一堂に集められていて、見応えは十分にある。
そして何より、その場所には少しだけ特別な思い出があった。
以前この美術館を訪れた時は、子どもたちも一緒だった。
あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。
途中で飽きてしまったり、別のものに興味を引かれたり。
それはそれで楽しい時間だったが、作品をじっくり鑑賞する余裕はほとんどなかった。
だから今回は違う。
誰にも急かされることなく、自分のペースでゆっくり見て回ろうと思った。
地元は海が近い。
せっかくなら美術館だけではなく、帰りに美味い海鮮でも食べてこよう。
そう考えると、少しだけ気分が高揚した。
そうと決まれば、まずはホテルを予約する。
地元とはいえ、実家には帰らない。
理由は単純だ。
面倒なことになるからである。
久しぶりに帰れば、あれこれ聞かれるのは目に見えている。
最近どうなんだ。
子どもたちとは会えているのか。
調停はどうなったんだ。
今後はどうするんだ。
悪気がないのは分かっている。
心配してくれているのも分かっている。
だが、今はそういう話をする気分ではなかった。
だから実家はスルーだ。
今回は誰にも気を遣わない。
自分のためだけの、小さな旅にしようと思った。




