第四章 オンリーロンリーゴールデンウィーク(ORGW)中編
その日の江ノ島は、とんでもない荒れ模様だった。
波は激しく、風も強い。
砂浜では舞い上がった砂塵が容赦なく目に飛び込んでくる。
正直、かなり痛い。
もしスカートなんて履いて来ようものなら、一瞬でボーナスタイム突入である。
そんな暴風の中、僕は江ノ島へ上陸した。
まず向かったのは、メインのアーケード通りだった。
両脇には土産屋や海鮮系の飲食店がずらりと並んでいる。
とりあえず、まずはタコせんべい。
観光地に来たなら、とりあえず名物は食べておきたい。
タコせんべいを平らげると、今度は中腹へ向かって一直線に進む。
江ノ島は、とにかく坂が多い。
登る。
登る。
ひたすら登る。
途中、神社を見つけては参拝しながら進み、気づけばかなりの速度で頂上付近まで到達していた。
そして今度は下り。
途中で昼食を取ることにした。
せっかくなら生しらすを食べようと思ったのだが、今日は大しけの影響で漁に出られなかったらしい。
残念だったが、代わりにしらすのかき揚げを注文した。
これが、めちゃくちゃ美味かった。
サクサクの衣としらすの塩気が絶妙で、気づけばあっという間に完食していた。
腹を満たした後は、さらに江ノ島の先端へ向かう。
だが、そこはもう完全に暴風地帯だった。
波しぶきは映画のオープニングみたいな勢いで飛び散り、岩場へ立つと身体が風に押される。
せり出した岩肌に立った瞬間など、風が強すぎて、マイケル・ジャクソンのあの斜めポーズができそうなレベルだった。
たぶん、小さい子どもなら飛ばされる。
そんな暴風の江ノ島を満喫したあと、僕はこの江ノ島最大の目的地へ向かった。
――キャンドルタワー。
江ノ島の頂上にそびえ立つシンボルタワーだ。
展望フロアからの景色は圧巻だった。
海。
街並み。
そして遠くには、またしても富士山。
――最高だ。
そう思いながら、その勢いのまま屋外展望台へ出た。
そして、少し後悔した。
風が、強すぎる。
向かい風ではまともに目も開けられない。
全身で暴風を浴びながら、僕は思った。
――今の僕、完全にTMレボリューションだな。
そんなテンションで景色を楽しみ、満足してタワーを後にした。
……あとから思い返すと、あのタワー、少し揺れていた気がする。
後に分かった話しだったが、その日のニュースによると、横浜周辺は記録的な強風だったらしい。
江ノ島からの帰りは、もちろん江ノ電を使った。
せっかく湘南まで来たのだ。
やはり一度は乗っておきたい。
頭の中では、某バスケ漫画のあのシーンが流れていた。
海沿いを走る電車。
青春。
ノスタルジー。
そして脳内BGMでは、あの有名な曲が流れている。
――そのはずだった。
だが、現実は非情である。
ローカル線とは思えないほどの乗車率だった。
満員。
とにかく満員。
たぶん乗車率二〇〇パーセント近くあったのではないかと思う。
車内は人でパンパンだった。
青春もノスタルジーもない。
あるのは、圧迫感だけである。
窓の外に広がる湘南の景色を優雅に眺める余裕など、一切なかった。
ほうほうの体で、なんとか鎌倉へ辿り着いた。
江ノ電の洗礼を受けた僕は、若干の疲労を感じながらも、とりあえず食べ歩きを開始する。
観光地に来たなら、まず食である。
まずは、有名だというチーズメンチカツ。
揚げたての衣がサクサクで、チーズはトロトロ、肉汁もしっかりしていて美味い。
続いて、なんとなく美味しそうに見えたはんぺん。
旅先での食べ歩きというものは、だいたい“雰囲気”で決まる。
そして、その判断は大抵正しい。
さらに鎌倉ビールを片手に、僕は鶴岡八幡宮へ向かって歩き始めた。
観光客で賑わう通りを抜け、ゆっくりと進んでいく。
そして、鶴岡八幡宮へ到着した。
境内の空気は、それまでの喧騒とは別世界のように静かだった。
手を合わせる。
願ったのは、無病息災。
世界平和。
そして――この調停が、少しでも良い形でまとまること。
我ながら、最後だけ急に現実的だった。




