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僕の物語― それでも、前へ ―  作者: シロイルカ
第四幕 孤独な抗戦
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第三章 黄昏

長らく投稿してなくてすみません、色々考えながら書いてたらかなり遅れました。

再び呼ばれて部屋に戻ると、子どもたちの生活費として月七万円の婚姻費用で、相手側は納得したと伝えられた。


だが、こちらが求めていた面会交流については、何ひとつ進展はなかった。


相変わらず向こうは、「怖い」の一点張りだった。


その後、調停官から“誓約書”の話が出た。


しかし、それを弁護士は即座に拒否した。

いや、“拒否した”というより、“蹴った”という表現の方が近かったかもしれない。


後で聞けば、その誓約書にこちらが署名してしまうと、もし調停が決裂して離婚裁判へ進んだ際、不利に働く可能性があるらしい。


つまり、承諾することは、DVを認めたと受け取られかねないということだった。


なるほど、と僕は思った。


そして同時に、この問題は簡単には終わらないとも悟った。


出口の見えないトンネルに、一歩足を踏み入れてしまった。


そんな気分だった。


それから先の話は、どこか単調だった。

今回の調停内容の確認と整理が行われ、次回と次々回の調停日程が決められていった。


次回は六月、そしてその次は七月。

一体、どこまで続くのだろうか。


その時、頭に浮かんだ言葉があった。


――消耗戦。


まさに、それだった。


消耗戦の後に残るのは、焼けた国土と疲弊した経済。

そんなイメージが頭に浮かんだ。


互いに傷つき、削られ、長い時間をかけた末に残るものは何なのか。


強いて言うなら、得られるものは“教訓”くらいなのかもしれない。


そんなことを、ぼんやりと思っていた。



今回の調停は、ひとまずそこまでだった。


この後、“陳述書”なるものが送られてくるらしい。

親権判断にも関わる重要な書類だと説明を受けた。


そこまで弁護士と話をして、僕は裁判所を後にした。


帰宅してシャワーを浴びた後、馴染みの居酒屋へ向かった。


酒を飲みながら、今日一日のことを頭の中で整理していた。


いわゆる――戦況分析だった。


今の状況。

こちらの戦力。

相手側の主張。


そして、今後どう動いてくる可能性があるのか。

そんなことを、ひとつずつ考えていた。


その中で、まず最初に引っかかったのが、面会交流の件だった。


正直、そこさえ認めてしまえば、今回の調停はかなり収まりがつく。


少なくとも、ここまで長引く理由は薄くなる。

なのに、なぜそこまで頑なに拒むのか。

なぜ、そこだけは絶対に譲ろうとしないのか。


面会交流をすることに、何かデメリットでもあるのだろうか。



ジョッキの中のビールの泡を眺めながら、僕はそんなことを考えていた。



まず思い浮かんだのは、妻が「怖い」と言っていることだった。


子どもたちとの会話の中で、通っている小学校や普段の生活の様子から、居場所がこちらに知られることを警戒しているのかもしれない。


だが、その可能性を考えても、どこか腑に落ちなかった。


仮に場所が分かったとしても、こちらから会いに行くつもりはない。


そんなことをすれば、こちら側にとっても不利になる。


何より僕は、「探すつもりはない」と再三伝えている。


だから理由として無くはない。

だが、決定的な理由としては少し弱い気がした。


次に考えたのは、本当に子どもたち自身が怖がっていて、会いたくないと思っている可能性だった。

しかし、それも違う気がした。


仮に上の子たちがそう思っていたとしても、一番下の娘だけは別だ。

少なくとも、娘が僕を怖がっているという話は聞いていない。


なら、娘とすら会わせない理由にはならない。

じゃあ、なぜなのか。


そこまで考えた時、不意に“勘”が働いた。


――ああ、この感覚を僕は知っている。


以前にも、同じ感覚を味わったことがあった。

今回のすべての発端になった、あの時だ。


胸の奥で、何かが繋がった気がした。

そして僕は、ひとつの仮定を立てた。



それは――妻が、まだ彼と会っている可能性だった。


もしそうだとしたら、面会交流を避ける理由にも説明がつく。


子どもたちと会えば、何気ない会話の中から生活の情報が漏れる可能性がある。

そして、その中には“彼”の存在を匂わせる何かが含まれてしまうかもしれない。


そう考えた瞬間、いくつかの点が頭の中で繋がり始めた。


さらに、その仮定を後押しする要素があった。

今日は平日だった。


上の子二人は小学校へ行っている時間だ。


だが、一番下の娘はまだ幼稚園に通っていない。

それなのに、今日の調停の場に娘の姿はなかった。


なら、あの時間、誰が娘を見ていたのか。


妻には、こちらで頼れる人間なんてほとんどいない。

少なくとも、僕が知る限りでは。


――彼以外には。


そこまで考えた時、バラバラだった話が、ひとつの線になった気がした。


その考えを否定するために、僕はスポーツジムのウェブサイトを開き、彼のシフトも確認した。

すると、その日はシフトに入っていなかった。


まるで、仮定を肯定する材料ばかりが揃っていく。



ジョッキの泡は、いつの間にか静かに消えていた。



もし、まだ彼と会っているのだとしたら――。

それは、彼が僕との示談内容に違反していることになる。


そうなれば、追加で百万円を支払う義務が発生する。

さらに、残っている示談金も即時一括払いになる。

そう考えれば、面会交流を頑なに拒む理由としては十分だった。



そこまで考えたところで、僕は思考を止めた。


……いや、違う。


止めることにした。

所詮は仮定に過ぎない。

証拠があるわけでもない。


考え続けたところで、答えが出る話でもなかった。



すっかり泡の消えたビールを飲みながら、僕は小さくため息を吐いた。



結局のところ、面会交流さえ実現すれば、いずれ分かることだ。


もし本当にそうなら、その時に考えればいい。

今ここで答えの出ないことを考えても、仕方がない。

今は、とりあえず一つの節目が終わったことを労おう。


そう思いながら、僕はジョッキを静かに飲み干した。

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