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クラスメイトは『大切な人を救うために死に戻る能力者』  作者: 破れ綴じ
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51/55

[23:07] 偶然! 偶然です!

「──という推論を立ててみたんだが」


「…………ちょっと待って。よく考えてみる」


 言われなくても黙るさ。


 君はきちんと約束通り資料を提示してくれた。手書きの地図に、時系列のメモに、ポスターの縮小コピー、WPPOが公開している影中トオルの情報まで。走り書きの束かと思えば周ごとに分けて綴じてある、妙に几帳面な代物を。昨日の夜からたった一晩で、しかも一人で準備したというのだから驚きだ。

 それに対し僕ができるのは昨晩考えた推論を発表することだけ。しかし、僕の推論が正しいかどうかは実物を見てきた君にしか分からない。

 だから、君の思考の邪魔はしない。注文したドリアでも食べながらゆっくり待つとするよ。


 それにしても、冬休み初日のファミレスがここまで戦場とは。

 どの席も家族連れと学生ばかり、早めに席を取れたのはかなり幸運だったか。どこもかしこも賑やか極まりないし、おかげでこっちの物騒な検討も届かない訳だ。

 指名手配犯の名前を口にしても、雑踏が全部飲み込んでくれるからな。奥の四人席を即決した僕の判断は正しかったぞ。


「……確かに、そうだったかもしれない」


「何がだ」


「アイツ、ルナを襲った時。暗い場所からじゃなくて、既にある影から奇襲してた。明かりの届かない場所には近づかなかったし……そういうこと?」


「そういうことだろうな」


 よく自分が死ぬ直前の目まぐるしい戦況の様子を思い出せるものだ。正直感心する。

 しかし、おかげで僕の仮説はほぼ正解であることが証明された。


 つまり、影中トオルが潜り込める影は「光によって生まれた影」。光が当たらない故に暗い場所には潜り込むことができず、普通に歩いて通過することになる。

 これは大きな発見だ。この事実が分かった以上、もし4日以内に影中トオルが見つからなかったとしても──第二段階、直接戦闘時の対策を練ることができる。

 基本的に迎撃することをメインに6周を過ごしてきた辻セイラでは生まれない発想だ。彼女も僕という客観的な意見を取り込むことで初めて気づいたんだろう。


「だから、何でもいいから明かりが存在する場所に限定すればいい。月明かりすら当たらない場所は潜伏場所から除外される」


「あー……いざという時逃げれないと困るのね、賢い」


「君も素直になったな。普段の授業もこれぐらいの熱意で受けてくれればいいのに」


「あぶな。馬鹿じゃないのアンタ」


「露骨な好感度調整が入った……」


 きちんと徹底してくれて嬉しいよ僕は。


 ということで、影中トオルの存在を見張る場所はかなり絞ることができる。

 君の記録と目撃が無ければ一歩も動けない推論だったが、おかげで実になりそうだ。


「じゃあ私、とりあえず怪しい場所をリストアップするから、一つずつ調べてく?」


「そうだな。僕は周囲の稼働している建物や去年のイルミネーションの配置を調べよう」


 近くに人がいて電気がついている建物があれば影ができる。近くでイブのイルミネーションが光っていれば影ができる。

 それで分かった情報を辻セイラがリストアップした地点と一つ一つ照合し、条件を満たさないものは可能性が低いとして排除していけばいい。

 イルミネーションも、去年から大々的に内容が変わっているということは無いだろう。過去の記録を調べるだけで大まかな光り方は見当がつくというものだ。


 三好ルナの家の南だとすると……一番可能性が高いのは、この『旧市街ウィンターイルミネーション』か。12月24日の17時から23時、時間もこっちの想定と相違ない。

 僕達の目は四つしかないんだから、見張る場所は少なければ少ない方が良い。


「数はどれぐらいまで絞る想定だ?」


「できれば12までに絞りたい」


 12? 結構多いな。

 僕と君の二人でどうやってその数の拠点を見張るんだろうか。連絡しかしない使い捨ての協力者が数名いるとか? 


 しかし、12でいいのか。もっと絞る可能性も考えていたが、12ならいけそうだ。

 外光が入る。無人か、それに近い。徒歩で食料と水に届く。掲示物が更新されていない一帯。これに『三好家の南側』を足して五つ。

 一つ一つは平凡な条件だ。

 だが平凡でも、五つあれば立派な包囲網になる。それがそのまま残り4日の勝率になるんだから、気を抜くことはできない。


 特に、掲示物が更新されていないというのはかなり区画を限定できる。

 本人がポスターを剥がしている可能性もあるが……それ自体が人の目を引く上、特定のポスターが無くなっていればなんらかの思惑があると感づかれるのは確実。最初から、顔を見られてもそこまで影響のない場所を拠点にしていると考えた方が都合がいい。

 再開発待ちで管理者が居ないとか、町内会が機能していないとか、巡回の区域から外れているとか。理由の候補はいくらでもある。


「場所が決まって、ご飯も食べ終わったらさっそく下見に行くからね」


「全部となると時間がかかりそうだな。回る時は君の鞄持とうか、重いだろう」


「いいよ、私の荷物だし。今日はササッと見て良さげな場所だけ探すだけだから」


 ……? 

 良さげな場所? 


 ああ、影中トオルが潜伏しやすそうな場所ということか。

 次回以降見張る時に、「それらしい拠点」は絞れたものの、「どこを見張ればいいか分からない!」なんてことになったら本末転倒だからな。


「もし影中トオルが見つからなければどうする?」


「次は捜索範囲を広げる。あるいは、考え方を変えるか……」






「(あんなにプリント広げて……セイラとマコっち、何話してんだろ)」


「(ウチと同じでただの勉強会? でもランチしながらなんてある?)」


「(このままじゃ帰れない。もうちょっと、声が聞こえる程度まで近づけば……)」






 *






「これで一周した?」


「そうだな。12か所全部見て回ったと思う」


「ん。意外と早く終われて良かった」


「本当に見て回るだけだったな……」


 僕としてはもう少し測っておきたかったんだが。

 本当に下見だけで終わってしまったぞ。


 僕はてっきり、光の入る方角とか、時間帯による変化とか、隣接する光源との距離とかも調べるものだと思っていた。なのに彼女は「大丈夫大丈夫」と関係ない場所ばかり見つめて、足早にどんどん進んでいくし。

 一応一通り、影中トオルが現れそうな場所には目を通し、「もしここを拠点にするならどこを確実に通る必要があるか」みたいなものは当たりをつけられた。

 しかしどうなのだろう。こうも時間が余ったのだし、絞る過程で零れ落ちてしまった他の候補も回るべきだったのでは。

 明日からはこの12箇所を二人でぐるぐる回って警備するのだから、多すぎてもリソースが分散され過ぎるという問題もあるにはある。一つ一つを見張る時間が短くなりすぎて、一番重要な瞬間を見逃してしまっては本末転倒だからな。


 とにかく、今日の下見はこれで完了か? 

 じゃあ、今度はどういう形式でこれらの地点を見張っていくかを決めることになるが……。


「そういえば瀬尾」


「ん? なんだ?」






「私、今日カメラを12台持って来てたんだけど、全部落としちゃったみたい」






 ……。


 ……ん? 

 何言って……。


 ……。


 ……は!? 


「あー今から探しに行ったら夜遅くになっちゃうか。回収は明日じゃないとダメかも」


「……まさか!」


 ──ガバッ! 


「あっ、なんでカバン取るの」


「……っ!」


 か、空箱、空箱、空箱……! 

 軽い。重そうに見えたのに──軽い! 

 この女、重そうな鞄の中身は全部カメラの空箱だ! 

 しかも、この商品名……。


 ……『電池超長持ち・防水 屋外センサーカメラ』! 

 しかもそれが×12……! 


「き、君……こ、これは」


「せっかくお小遣い全部つぎ込んで12個も買ったのに。高かったんだけど、コレ」


「よ、よくもまあそんなぬけぬけと……」


「最初は消費者金融も使って限界まで買うつもりだったんだけど、高校生は無理みたいで」


「当たり前だ!」


 抜かった、この女! 

 まさか、最初からそれが狙いだったのか! 


 下見はただの名目。本当の目的は、影中トオルが出現しやすそうな場所に「偶然落とした」という体でカメラを設置すること。

 だから下見があんなにもあっさり終わったんだ。塀の低いところや植え込みの奥ばかり見ていたのもそれだ。僕が街灯を数えている間、君は置き場所を選んでいた。

 ということは、「良さげな場所」というのも……ああ、「影中トオルが潜伏するのに適した場所」ではなく「監視カメラを仕掛けるのに適した場所」か! 

 荷物を僕に持たせなかったのも、そういう理由だったのか。


 数が12に限定されていたのも、二人で回れる上限が12だったからじゃない。買えたカメラの数が12だったからだ。

 12箇所を回れる根拠だって持っていて当然、最初から足で回るつもりが無いんだから。

 しかもセンサー式。畑の獣害対策で使う、工事も配線も要らない、電池だけで放置できるタイプ。常時録画じゃなく、動体を検知した時だけ数十秒回る方式の……。

 食料と水が必要な以上、一日中ずっと潜伏している訳もないし、翌日回収したカメラに何か映っていれば、彼が「いつどこに現れるのか」具体的に特定して通報することだってできる……! 


 ご、合理的……確かに合理的だが。


「もしかしたら、回収したカメラには『偶然』何か映ってるかもね」


「……映っていなかったら?」


「次の周で別の12箇所に行くだけ。そこでも偶然カメラを落としちゃうかも。文句が?」


 あるに決まっているだろう! 

 どう考えても犯罪じゃないか! 


 最近の僕はどうも「二度とフィクションを楽しめない辻セイラ」に同情して気が緩んでいたのかもしれない。

 必要以上に落ち込んでいるはずの彼女の邪魔をしてはいけない、できる限り協力的でいてやらないと、あまりにも可哀想……そう思ってしまっていた。

 だが、考えてみれば既に彼女はもう27日近くをループしている。前回のショックなんて既に完全に振り切っていたんだ。油断していると一気に加速してしまうのが辻セイラだった。


 そしてこれを僕に伝えなかったのは、「悪いことをしている自覚」があるから……。

 作戦を伝えれば僕が邪魔をするかもしれないが、カメラを配置してしまった以上もう阻止はできない。しかも、何処に置いたか知っているのも辻セイラだけだから、僕が勝手に回収することもできない……。


 確かに、辻セイラは影中トオルに恋愛感情やそれに起因する恨みを抱いてはいない。

 いや、恨み自体はあるかもしれないが。一応、ストーカー規制法における「つきまとい」の内容に触れることは無い。常習性も無い。


 だが……。


「……電柱、ガードレール、標識、他人の塀。どこかに固定して設置したのか」


「そんな目立つところに落としてたら気づくに決まってるでしょ。してない」


 ……そうか。


 道路上の工作物に固定すれば道路占用許可や管理者の許可の問題になるし、打ち込んでいれば器物損壊が成立する。壊すことだけが損壊じゃない。貼った跡が残れば、それも物の効用を害したことになる。

 電柱は電力会社、ガードレールと標識は道路管理者、塀は家主。それぞれに管理者が居て、裏を返せば、許可なく手を加えた瞬間にそれぞれ咎める権利者が現れることになっている。


 ……だが、置いただけなら。

 他人の物に対する加害が、そもそも一つも存在しない。


「置いた場所は。柵の内側や、立入禁止の敷地に入ったか」


「そんなところ入ってたらアンタが止めるでしょ。覚えてないの?」


 ……確かに。今日一日、僕は君の隣にいた。

 もし入っていれば軽犯罪法どころじゃない。施錠して管理されている空き家は刑法百三十条の邸宅で、その敷地も同じ扱いだ。三年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金。管理者のいない土地に立入禁止の表示だけがあるなら軽犯罪法一条三十二号に該当するが……そんな場所にまで入り込もうとしていたら僕が止めない訳がない。

 今日一日、君は一度も僕に止められなかった。それはつまり、止める理由が一度も発生しなかったということだ。

 結果として、カメラをそういった場所へ設置することはできない……。


「画角は。他人の住居の内部、玄関、窓は映るか」


「映んないよ。そんな方向に向いたこと無かったし」


 ……そうか。

 ここが一番際どいと思っていたが。


 民法七百九条の不法行為として争われる領域では、判断基準は撮影の必要性と方法の相当性、そして被撮影者が受ける不利益の比較衡量になる。

 防犯目的で設置したカメラが隣家の玄関を継続的に映していたという事案で、撤去と慰謝料が認められた例がある。


 だが、映っているのは無人の建物の外観と、誰も通らない路地。被写体のどこにも「私生活」は存在しない。

 ……当然、そこの『影』に不法に潜り込んでいる不審者の私生活は含まないものとされるが。


「大きさは。通行の邪魔になるか」


「ならない。小さいし、手のひらサイズ」


 道路交通法七十六条三項。交通の妨害となるような方法で物件をみだりに道路に置いてはならない。

 つまり問題になるのは、通行を妨げる規模の話。小型の機材一つならそこには届かない。自転車一台でも問題になる通りはあるが、それは通行量あっての話。


 条例は……うちの県の迷惑防止条例が規制しているのは公共の場所での撮影行為だが、あれは人に向けた撮影を想定した条文だった。無人の建物と誰も歩かない通りでは、規制の趣旨から外れる。

 個人情報保護法も関係ない。あれは個人情報取扱事業者に課される義務であって、私的な活動には適用されない。高校生が小遣いで買ったカメラを一日置いただけなら、条文の外だ。


 そして、明日には回収する。1日分の様子を見張るために。

 本人がきちんと回収する意図を示していて、今すぐできない理由は、そんなことをすれば未成年が夜遅くまで徘徊することになるからだ。青少年保護育成条例に触れないための判断だと言われれば、僕は反論できない。

 明日の回収は可能な限り最速の行為であり、得られた映像を悪用するつもりもさらさらない……。


 うーん……。





「ならいいか」


「切り替え早……」






 そうかそうか、そうだったのか。

 あまりにも無理やりな状況ではあるが、彼女の主張をそのまま受け取るなら問題はない。


 1. 設置の段階で他人の物を壊していない。器物損壊は成立しない。

 2. 設置した場所で他人の権利を侵していない。邸宅侵入にも軽犯罪法三十二号にも触れず、占用許可の要る工作物にも手を付けていない。

 3. 撮影の画角に特定個人の私生活が映っていない。不法行為として構成する材料がない。

 4. 通行を妨げる規模ではない。道路交通法七十六条三項の要件に届かない。

 5. 回収の意思と時期が明確で、投棄にも当たらない。


 第一、公道や公共空間の撮影それ自体は違法じゃないんだ。禁じられているのは、そこに付随して発生する侵害の方であって、撮ること自体が罪になる訳じゃない。

 そして侵害が一つも発生していないなら、残るのは「無人の建物を撮った小型カメラが12台、一晩だけ路上に置かれている」という事実だけだ。それを罰する条文は、僕の知る限り存在しない。


 この女は「偶然落とした」と言っている。当然、嘘だ。故意に決まっている。

 だが、故意であることが違法性を生むかというと、生まない。故意が問題になるのは、そもそも違法な行為をした場合の話であって、適法な行為を故意にやったところで適法なままだ。落とし物として届け出る義務があるかとも考えたが、遺失物法が想定しているのは他人の物を拾った場合であって、自分の物を自分で置いた場合には適用がない。

 嘘をついていることそれ自体も、僕に対する嘘であって、行政や司法に対する虚偽申告じゃない。


 ……つまり、この女は嘘をついた上で、その嘘に法的な意味を一つも持たせていない。

 言い訳が全部、問われない場所にだけ置かれている。


 モラル的には大外れだ。

 友人の死を回避するためとはいえ、やっていることは他人の生活圏に無断で機材を撒く行為で、もし僕が今日ここにいなければ、どこかで一線を越えていた可能性は十分にある。

 だが、現状、こういった状況で誤って公共の空間を撮影した人間を逮捕する法律は存在しない。

 存在しない以上、僕に止める権限はない。


 ルールに則っているのなら、そうだな。

 これは極めて合理的な手段。別に問題はない。以上だ。


「勿論、今後もこのような行為を繰り返すようであれば問題だが……」


「ルナが殺されないようにするためなんだから、別にいいでしょ」


「君な。いくら三好ルナの命を救うためとはいえ、そういった考えは非常に良くな──」


 ──ガサッ


 ……ん? 






「──ルナの、命……?」


 えっ。






 ……な。

 なんで桐島ミオが、ここに? 


「待って待って待って。ごめん、ちょっと無視できない」


「ミオ、なんで、いや、その、これは、私……」


「……桐島ミオ。どうしてここに」


「い、いや、ウチは偶然にいただけで……てゆーか、それよりも! 今、ルナがどうこうって」


 マズイ、全然気づかなかった。

 いつからだ。いつから聞いていた。ファミレスからか、それとも今の会話だけか。

 誰もいないような場所だからといって、二人とも完全に油断していた。

 偶然とは何だ。こんな場所に偶然でも来る用事があるとでもいうのか。


 そして、その偶然のせいで、今の会話が……聞かれてしまった、と。


「ね、ねえ。セイラ、マコっち。どういうこと」






「『ルナが殺されないようにするため』って……なに?」

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

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