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クラスメイトは『大切な人を救うために死に戻る能力者』  作者: 破れ綴じ
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[23:07] 見られて……ない!

「冬休み一日目の朝早くに済まないんだが、いくつか質問していいか」


『勿論です。瀬尾さんの疑念には極力応えるのが規則ですから。どうぞ』


 僕の疑念に極力応えるのが規則、ね。

 一つ間違えれば膨大な機密情報を漏洩する危険性があるというのに。対象の信頼を稼ぐために協力的な姿勢をアピールしようとする、WPPOのこのスタンスには相変わらず畏敬の念を抱かざるを得ない。

 そして何より、朝7時に突然電話を掛けられたというのに、嫌な声色一つせず僕の無茶ぶりに答えてくれる……この献身ぶりには頭が下がるばかりだ。


 何はともあれ、こうしていつでも事情を確認できるのは好都合。

 僕がこの数日間まともに活動できるかどうかは九条ノドカの回答にかかっているのだから。


「まず、冬休みの間だが。君の調査はどうなるんだ」


『別動隊含め、私達は他の学生と同様に休暇をいただいております。上からの指示がない限り、出動することはありません。友人としてのお誘いであれば歓迎しますが』


「そうか。君の監視が恋しくなったら是非そうさせてもらおう」


 ふむ、相変わらずの福利厚生だな。

 結果を急ごうとしないWPPOにとっては、年末年始に職員を無理やり働かせるよりも、通常通りの休息を取らせる方が効率的だと。

 実際、調査をするだけなら、必然的に接触する機会がある期間に限定する方が職員のモチベーションにも都合がいいだろう。護衛任務も、未来予知で僕に危害があった時のみ出動すればいい。未来の僕に何も異常が無ければついて回る必要はない訳だ。


 つまり今から4日間、僕はWPPOの目を気にすることなく活動することができる。

 警戒が緩む時期にループが起こったのはせめてもの幸運か。


「次だ。今この街に、指名手配犯が現れるような予知は出ているか」


『……何か危険な未来が視えたのですか?』


「僕は能力者じゃない。駅前の掲示板で見て気になっただけだ。それで答えは?」


『何も聞かされていません。もっとも、もしそんな未来が視えていたとして、末端の私に知らされることはありませんが』


 ……聞くまでもなかったな。


 あわよくばと思って聞いてみたが、やはり無駄足だったか。

 もしここで「今から4日のうちに影中トオルという指名手配中の能力犯罪者の逮捕作戦が実行されます」とでも返してもらえたら話は早かったんだが。彼女が必ずしもそういった作戦に携わるとは限らないし、もし携わっていたとしても当日でなければ通知されないか、あるいは予知の結果を変えないためにそもそも知らされない可能性が高い。

 僕達がこの周で通報に成功しようと失敗しようと、彼女がそれを知っているとは限らない訳だ。


 僕自身分かっていたことではあるが……ここで何も得られないことも想定済み。

 早く切り替えよう。僕達がやるべきなのは影中トオルの発見、ただそれのみ。


「もし匿名で通報があればどう処理される」


『内容に合わせて未来予知が実行され、その結果で対応が決定されます。しかし、未来予知に一切映っていなければ対応は見送られるでしょう』


「証拠の有無はどれだけ影響するんだ」


『ほぼ影響しません。どちらにせよ未来予知の結果で判断が下されます。通報自体は一日に何十件も届きますし、能力者に対し敵対的な思想を抱く方が行き過ぎた正義感で通報することも少なくありません』


「……もし、同じ内容の通報がいくつもあれば? 信憑性は変わらないか?」


『関係ありません。内容が同一なら照合も一度きりです。かつてそういった手法でWPPOの注意を分散させ、攻撃を仕掛けられた前例も存在します。当然、未遂に終わっていますが』


 なんて余計な事を。

 こっちも予想出来てはいたが……もし可能なら「証拠は一切ないけど指名手配犯が現れるから」という内容で一応通報できたかもしれないのに。

 というか、能力差別主義者がいらぬ通報をしたり、WPPOの意識を逸らさせてテロを行おうとする野蛮な事例まで存在するのか。はた迷惑な集団のせいで僕という一般市民の声が無視される状況に至っているんだが。


『あの、どうしてこんな質問を? よければ理由をお尋ねしても?』


「いや。防止率100%を誇る組織でも取り逃がす『指名手配犯』が気になっただけだ」


『……あれはあくまで防止に限定された話です。我々が重視するのはあくまで被害を未然に防げたかどうかであり、原因の確保は相対的に優先度が下げられます』


「なるほど?」


 そうなのか。

 通報を受けたことは「=存在する被害は確実に防ぐ」、であって「≠それを引き起こした犯人も確実に逮捕する」ではないと。勿論、可能であれば逮捕できるように尽力するんだろうが……相手が能力者であれば無理な捕獲はさらなる被害を生みかねない。

 だから、指名手配にはなるが取り逃がしてしまう人間が出てくるんだな。


『犯行がこちらで知覚できないパターンも存在します。誰にも知られないまま終わる被害や知っている人がいても口外されない被害をWPPOは認知できません』


「100%というのは、表向き明らかになる被害についての100%ということか?」


『その通りです。ですので、そういった目を掻い潜られる可能性も存在するのです』


「……そんなこと僕に伝えて良かったのか」


『開示可能な情報のレベルが上がったんです。瀬尾さんにはお見通しみたいなので』


 ……えぇ? 


 言いたいことは分かるぞ。

 能力により人が殺害されたが、戸籍に登録もされておらず、死体も永久に見つからない。その現場を目撃した者が存在するが、諸事情によって誰かに口外しない。

 そういった事例であれば予知が使えようが知覚することはできない。だから、「世間が認知できる被害」であれば確実に阻止するが、そうでないものは見逃してしまう可能性があると。


 しかし、そんな事実を僕に伝えるべきではないのでは。

 一般市民はWPPOの100%という数字に大きな信頼を寄せているのに、数えられない例を分母から外しているだけ──「本当にすべてを防げている訳ではない」と一般に知られればパニックが起こりかねない。それでも十分すぎるほどなんだが。


 いつ口を滑らせるか分からない僕にそのことを教えるのは得策ではないと思うぞ。

 あるいは、こういった世間へのダメージを考えられる時点で、僕に伝えても口外しないであろうと踏んでいるのか。強力な未来予知能力者の疑いが強いから、いずれ知られる情報を先んじて教えることで信頼を稼ごうとしているのか。


『どうでしょう? 世間話として楽しめましたでしょうか?』


「ありがとう、助かった」


『いえいえ。規則ですので……ね?』


「信頼してほしいならあんまり規則規則言わない方がいいぞ。じゃあな」


『えっ。それを貴方が──』


 よし。


 さて、これで聞きたいことはあらかた聞けた。

 九条ノドカは休暇中で、予知に映らない場合は虚偽と見なす。死に戻りが起こる以上、現場当日の状況は予知で確認できず、そういった通報ではWPPOが動くことは無い。

 なら、逆に「犯人という現物」があればそれは未来に映る動かぬ証拠となる訳だ。やはり影中トオルを事前に見つけられれば解決する。活動の方針が間違っていないことは確認できた。

 そしてこの4日間、僕を見張る存在はいない。


 次にやるのは、辻セイラとの待ち合わせ場所に向かうことだ。






 *






 昨日、辻セイラから与えられた情報は非常に有用なものだった。

 流石既に6周もしているだけあるというか。彼女が死ぬ気で集めた情報だけあるというか。実際死んでいるというか。


 ──『まずは、見た目ね』


 ポスターの写真は2、3年前のものであり、今の本人はそれよりも痩せているという。指名手配以降、潜伏しているのならそれまで通りの生活もできないだろうし、見た目が変わっているのは当然だろう。

 だが、彼女の証言によれば、髪はさらに伸びて後ろで束ねられ、無精髭で、上下とも黒っぽい服──それが襲来時の恰好だという。清潔とは言えないが、浮浪者と呼ぶほど荒れてもいない。


 そして、清潔ではないが、荒れてもいない。

 つまり、体と服をどうにかできる程度の水と、洗濯の手段があるということだ。

 3年も逃げている人間が、野宿と公園の水道だけでその状態を保てるとは思えない。屋外生活ではないんだ。屋根と壁のある場所──建物の中に住んでいると見ていい。


 ──『次に、方角』


 あの男は三好家の南側から現れて、南側へ消えたとのことだ。行きと帰りが同じで、それが周をまたいでも変わらない。偶然と呼ぶ方が無理だろう。拠点は南だ。


 ──『時刻は、24日の21時台』


 襲撃にしては妙に早い時間だが、三好ルナは毎年イブを家族と過ごすというから、彼女が確実に家にいる時間帯を狙っていると考えれば一応の説明はつく。


 ──『それから、経緯。恨みとかいう動機の中身』


 辻セイラが調べたところによると、影中トオルは3年前に市内で能力を使った加害を計画し、WPPOに阻止されたという。計画が露見したきっかけは、不審な行動を目撃した中学生の通報であり……辻セイラが三好ルナに心当たりを聞いたところ──彼女が確かに通報者であると確認が取れた。

 目撃して、通報した。それだけのことで、どこからどう見ても正しい行動だ。それが3年越しの殺意で返ってくるというのか。なんてやつだ。


 ──『最後に、能力』


 それは『自分の体を影に変える能力』。

 移動・防御・攻撃・潜伏、どれをとっても厄介極まりない能力だ。

 影に潜り込んで、影を伝い接近。影である間はこちらの攻撃など意に介さないし、足元の影から実体化して奇襲を仕掛けてくる。そして影さえあれば自由に潜り込んで逃げられる。

 昨日は「勝てない」という結論だけ受け取ったが、こうして分解すると、勝てない理由が何重にもなっているのがよく分かってしまうな。






 しかし、何故襲撃が24日なのか。






 3年だぞ。

 3年恨みを抱え続けた男が、なぜ今日でも明日でもなく、わざわざ12月24日を選ぶんだ。


 夜も一応影のはずだ。ヤツが影の中を自在に移動できるなら、どの夜でも条件は同じはずだろう。

 もしかしたら今よりずっと遠方にいて、思いつきで三好ルナを襲いにやって来て、12月24日に丁度到着した……そんな風にも考えられるが、恨みがあるならそんな突発的な行動は取らないだろう。場所を変えられてもタイミングをずらされても6周全部が同じ日で、それで計画的でないというのは無理がある。

 偶然ではあり得ない。


 つまり、この能力は「光が当たることでできる影」を行き来できるが、「光が当たらないから暗い影」は影とみなすことができないという特性を持っているということだ。もし、後者も適用可能なら、思い立った夜に行けば済む話だからな。

 この読みが正しければ、あの男の行動範囲は光源の分布に縛られていることになる。街灯の並び、点いている窓、看板の明かり。光の届く筋しか通れなくて、光の絶えた一帯は、あの男にとってただの通れない壁だ。


 そして、12月24日。

 イブの街は、一年で一番光源が増える夜だ。イルミネーション、店先の装飾、普段は早く消える家々の窓も、あの日だけは遅くまで点いている。街中に、あの男の通り道が敷き詰められるんだ。移動も、攻撃も、逃走も、あの日だけ格段に楽になる訳だ。


 つまり、これは計画的な作戦。

 通報され、潜伏するしかなくなった男が自分を通報した少女を逆恨みし、一年で一番動きやすい夜の一番明るい時間帯を狙って動いている。


 残り時間は4日しかない。人手は僕と辻セイラの二人。

 高校生二人が、4日で、街のどこかに潜む一人を見つけなければいけない。総当たりなんて論外だ。二人分の足で街全体を当たるのは物理的に不可能で、それでも一軒ずつ潰しにかかるなら、それは「探す」ではなくもう「祈る」だろう。

 仮に1日10時間歩けるとして、4日で40時間。二人合わせても80時間だ。その中には資料の読み合わせも、移動も、飯も入る。街の建物が何千戸あると思っているんだ。一戸あたりに割ける時間を割り算した瞬間に答えが出る話だぞ。


 だから、やるべきなのは探すことじゃない。絞ることだ。


 幸い、絞るための材料なら揃っている。

 あの男は3年間、逃げながらでも生活してきたんだ。生活には条件がある。そして条件というのは、場所を選ぶものだ。逆に言えば、この周の成否は絞り込みの精度でほぼ決まると言っていい。


 1. 光が入る場所。

 ただ暗いだけの廃墟には潜めない。あの男にとって、光の入らない建物は隠れ家ではなくただの箱だ。窓から街灯なり月明かりなりが入るか、すぐ外に光源がある──そういう建物しか隠れ家にならない。


 2. 人目につかない場所。

 無人か、それに近い建物。住人や管理人が日常的に出入りする場所に、3年も住み着けるはずがない。シャッターの下りた空き店舗、取り壊し待ちの空き家、使われていない倉庫……その辺りが本命だろう。


 3. 物資を調達できる距離。

 食料と水は絶対に要る。もし食事と水を取っていなければ、「少し痩せた」程度で肉体の変化が済むはずがない。洗濯の読みが正しければなおさらで、完全な孤立地では暮らせない。人目を避けながら、店なり自販機なりに徒歩で届く距離のはずだ。


 4. ポスターの貼られていない地域。

 顔と名前が公開されているんだ。駅前、交番の横、歩道橋の下──貼られた場所を日常的には歩けない。裏を返せば、3年捕まっていない以上、あの男の生活圏にはポスターが無いはずなんだ。ポスターの分布なんて普段は誰も気にしないが、これは今日から二人の足で確かめられる情報でもある。


 1と2は本来両立しにくいし、3と4は互いに引っ張り合う関係だ。光の届く場所には大抵人がいるし、物資に近づくほど人目とポスターにも近づいてしまうんだから。

 だからこそ使える。両立しにくい条件が四つ全部重なる場所なんて、そう多くない。この四つに、拠点は三好家の南側という方角を足して五つ。

 地図の上でこれが全部重なる範囲──4日で回り切るべき捜索範囲はそこだ。


 それで見つかれば、それでいい。

 見つからなかった場合の手も、昨夜のうちに二人で決めてある。ただ、あっちは分の悪さの桁が違う。あの手の条件が揃ってしまう時は、この4日が丸ごと空振りに終わった時。

 ……考えたくもないな。まずは絞り込みで当てる、今はそれが全てだ。


 辻セイラもこれまでの6周をただ当日迎撃するだけで終わらせていた訳ではない。6周分使って集めた記録が彼女には存在する。昨日はループ開始直後だったこともあって、口頭で概要を聞いただけだが、明日にはまとめて資料にして共有する──そういう約束になっている。

 今日は辻セイラからその資料を受け取って、二人で読み合わせ、僕の推論をぶつけて、範囲を地図に落として、その足で実際に街を見て回る。下見を繰り返し、影中トオルを見つけるための段取りを整える……それが作戦の第一段階だ。


 だから、今日の目的はまず辻セイラと合流すること。

 生憎、WPPOの監視班もいないし、今日は思う存分死に戻り解決のための暗躍に勤しませてもらおう。






「──来たか。遅いぞ」


「何でもかんでも15分前に着いてるアンタがおかしいのよ……」






 *






 ──「失礼な。こっちは土日のバイトをドタキャンしてまで来てやったというのに」


 ──「あー……一番忙しい時期に呼んで悪かったです。これでいい?」


 ──「反省してるのか。それならいいぞ」


 ──「アンタってチョロすぎる……」


 ──「失礼な。こっちは土日のバイトを──」






「……やっぱマコっち、セイラと一緒にいる。ウチとのデートは無視したのに」


「前々から怪しかった。マコっち、セイラのことになるとすぐドタキャンしてばっか」


「いーもんね。二人でコソコソ何してんのか、徹底的にストーカーしてやるし……」

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

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