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クラスメイトは『大切な人を救うために死に戻る能力者』  作者: 破れ綴じ
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35/54

[21:20] 貴方の意見を聞きたくて

「お疲れさん、瀬尾少年! 今日は本っ当に助かったよ」


「いえ。夏の借りを返さないといけませんから」


「相っ変わらず真面目だねぇ~。こっちは助かってるけどさ」


 そうだろうか。

 最後の方はほとんど客も来なかったから、実質働いてないみたいなものだったが。


 しかし、我ながら今日はよく働いた方だろう。

 バーガーチェーンは案外やることが多い。レジや調理だけでなく、搬入に積み替えに清掃……一般的なファミレスでもこんなものだろうが、回転率が速いだけに仕事の分量も相当なものになってくる。

 敬老の日ギフトの物量も想像の三割増しだったが……今日の働きぶりを想えば、三連休の初日としては上々の滑り出しのはずだ。


 それに、僕にとってこの三連休はただの繁忙期じゃない。

 夏休みのあの日、警察の事情聴取で僕は丸一日シフトに穴を空けた身。あの時の店長は理由も聞かず、疑いもせず、「無理しないで」とだけ言ってくれて……おかげでこっちの後味は悪いまま。

 迷惑をかけた分は労働で返す、それが筋というもの。だから初日から最終日まで、法律の許す限りフルで入ると決めたんだ。


「これで夜まで入ってくれたらお姉さん助かるんだけどなー」


「高校生は22時以降は働けません。労働基準法違反です」


「チッ……なんで成人してないんだよ」


「聞こえてますからね店長」


 流石にその発言はいただけない。

 僕は何がどうあっても法律に従うと決めている。お金は稼げるだけ稼ぎたいが、22時以降まで働く気はこれっぽっちも無いんだ。

 そもそも、今日は10:30~21:30まで休憩1時間を除いて10時間働いている。労基法60条3項1号があるから可能になっているだけで、本来18歳未満は8時間が限界のはずだし。これ以上労働したら貴女を訴えなくてはいけなくなる。

 いくら店長といえど、ここで笑って流して「あれ、案外イケる?」なんて誤解の芽を残す方が、後々お互いのためにならない。断る時は、断る理由ごと真顔で返す……それが僕のやり方というだけのこと。


「送ってってあげようか?」


「店長はまだ仕事あるでしょう」


「チッ……」


「聞こえてますからね店長」


 さて、と。

 遅くなってはいけないし、さっさと着替えて帰り支度を始めよう。

 思えば携帯に触るのも11時間ぶりだ。バイト中の携帯電話は原則ロッカーだし、休憩時間も疲れてて触らなかったから……。そろそろ母さんに連絡を入れないといけない。

 今夜は録画した怪談番組を家族で見る約束もあることだし。我が家の平和はこういう小さな報告の積み重ねが……。


 ……。


 ……ん? 


「およ? どうしたよ、瀬尾少年」


「いや……これ」






『8:59 家で待ってて。ちょっと話がある』


『9:31 [不在着信]』


『9:32 [不在着信]』


『9:33 なんでいないの』


『9:39 バイトか。バイトって言ってたね、確か』


『9:46 いつ終わる?』


『9:47 [不在着信]』


『9:48 なんで出ないの』


『10:00 今移動中? もう働いてるの?』


『10:03 どこで働いてるの』


『10:11 [不在着信]』


『10:28 休憩入ったら電話して』


『13:04 電話は?』


『13:09 [不在着信]』


『13:10 [不在着信]』


『13:11 [不在着信]』


『13:15 なんで? 休憩してないの?』


『13:25 ルナん家行ってくる。終わったら電話して』


『15:17 まだ?』


『17:20 なんか怒ってる?』


『18:11 バイト中でもいいって言ったよね』


『19:40 [不在着信]』


『20:02 困ってるの』


『20:54 駅前のベンチで待ってるから』






「うっわ。なにこれ……メンヘラの彼女でもいる?」


「いませんけど」


「えぇ……? じゃあ誰……?」


 なんでそう思うんだ。

 今の文面を見て、仲睦まじいカップルの会話履歴だとでも思ったのか? 

 店長は働きすぎて頭が回って無いんじゃないだろうか。

 休憩してもらうべきかもしれない。


「いやでも瀬尾少年、相手の子、なんかずっと待ってない?」


「そう……なりますね」


「やばいよ、行ってあげないと」


 ……確かにそうだ。


 こんな一番忙しい日にここまで狙い撃ちで連絡してくる理由はまだ分からないが……『バイト中でもいい』という文言が入っているということは──嫌な心当たりしかない。

 しかも、最後の連絡は30分ほど前。つまりそれからずっと、駅前のベンチで僕を待っていることになる。


 用件には心当たりがあるが……もしかして、そういうことなのか? 

 確か「これから2ヶ月以内に、次の死に戻りが起こるかも」と──あの予告から、今日で丁度1ヶ月。数えてみれば折り返しの日だ。一番忙しい連休に、一番感じたくない予感がするというか。

 ……だって、あの女が僕に急用を作る理由なんて、他に一つでもあるか? 


「……なんか穏やかな雰囲気じゃなさそうだね。家の人?」


「いえ。クラスメイトです」


「急ぎ? 送ってこか?」


「駄目です。店長は勤務中です」


「そこは嘘でも『ありがとうございます』でしょ……そういうとこだぞ、瀬尾少年」


 そうなのか。

 次からそう言わせてもらおう。


 まあ、心配して頂けるのは素直にありがたい。

 ありがたいが……ただでさえ目を光らせる必要のある夜の売場から責任者を引き抜くなんて論外だ。他に働いている方々にも何を言われるか。


 それに……多分これは、店長を関わらせていい種類の用件じゃない。

 善良な社会人が善意で首を突っ込んで、良いことなんて何一つない領域の話だ。この人には、明日も倉庫で段ボールと格闘してもらわないといけないんだから。


「お先に失礼します」


「はいよー……ほんとに大丈夫?」


「大丈夫です。おやすみなさい」


「ふゥん? ま、気をつけなー。最近不審者とかあっからねー」


 ……まあ、決めつけは良くない。

 そう気にしすぎるな、瀬尾マコト。

 もしかしたら重い荷物を運んでいて、それのヘルプとして僕を呼びたいだけかもしれないし。必要以上に気にして、落差でがっかりしても、大変なのは僕だけなんだから。






 *






 ……いた。






 ──「……アイツ、何時までバイト入れてんの」






 凄く不機嫌そうな辻セイラが……いた。

 駅前のベンチで、変な段ボール持って……。


 ……何やってんだあの女。

 抱えてる……あの段ボールは何だ? 

 そこまで大きくはなさそうだが、持ち運びするには少し重そうな……。


 もしかして本当に荷物運びさせたくて僕を呼んだのか? 冗談だよな? 

 でも、彼女なら「重たいからこれ運んで」と言ってもおかしくなさそうなのが……。


 あっ……こっち見た。


「──瀬尾! やっと来た! 話があるんだけど!」


 ……これどっちだ? 






 *





「……事情は分かった。やっぱり死に戻りだったんだな」


「良かった。本当に手詰まりだったからどうしようかと」


「それで……その荷物は?」


「ん、これ? 前の周でも使ったモニター。疲れたから代わりに持って」


「嘘だろ」


 持つけど、持つけども。

 話によるとこれは……三好ルナからの預かり物だそうじゃないか。迂闊な持ち方して壊してしまったりでもしたら責任重大だぞ。前の周の君は普通に一人で持ち運びしてたんじゃないのか。

 ……いや、今の君は混乱で疲弊しているし、それどころじゃないんだろうが。


 しかし、まさか朝からずっと連絡があったとは。

 家にも来ていたようだが、先に僕が出発してしまって入れ違いになっていた。そのまま僕のバイト先がどこなのかも分からず、いくら電話しても返してこないから、仕方なく自分にできることだけやってここで待っていた……と。

 どうして僕は気づかなかったんだろう。1ヶ月前にした「相談する周はすぐに言う」の約束を向こうは果たしてくれていたというのに。僕がバイトに夢中だったあまり、全て無視してしまっていただなんて。

 確かに昼休憩は取っていたし、アラタから連絡が無いかもチェックしたはずなのに。僕の中で辻セイラからの連絡って、気にも留めないくらい意識したくないものなのか? 


「とにかく、困ってるの」


「それは……そこまで手がかり無しなら、そうだろうな」


「そう。分かったのは、『直前まで全員が普通に生きてた』ってことと、『ミオが起きてた』ってことと、『何故かタイムリミットが10分ズレた』ってことだけ」


 そして、今回のループは──話を聞けば聞くほど訳が分からない。

 既に僕が協力した周が存在していて、それですら一歩も前進できず、逆に謎を増やしただけという……あまりにもとっかかりの無いループ。

 しかも20回目。これまでより遥かに難易度が高い。


 1. まず、対象が不明。

 辻セイラの『大切な人』は「辻カリン」、「辻母」、「辻父」、「祖母」、「桐島ミオ」、「三好ルナ」の6人らしいが、全員が死に戻り発動の瞬間に「何も起こっていない」ことを僕がしっかり視認し、報告しているという。

 どうやって夜中に寝ている人間の安否を確認したのかはいささか謎だが……このモニターを使うのだろうか。少し犯罪の匂いがするし、いくら前の僕といえどそんなことしないと思うが。


 2. 次に、原因が不明。

 これも謎だ。死の瞬間に何も起こっていないなら「死の要因」が確定したのかと思ったが……全員の健康状態は完璧に把握済み。睡眠中だから精神的ショックが起こる余地も無い。そして、前の僕が報告した通りに、寝室の環境が変わったり、他の人物が侵入してきた痕跡も存在しない。

 となると、辻セイラの大切な人はどうやって死んだのか。全く見当がつかなくなっている。一番怪しいのは「能力」による理不尽な死だが……もしこれなら相当大変だぞ。


 3. そして、時刻が意味不明。

 巻き戻る範囲は土曜日の朝から月曜日の夜までらしいが……タイムリミットが時折予想外の変動を見せるとか。基本的に11:44~11:47に発動する癖に、僕が関わった周では10分遅れて11:57発動。

 意味が分からない。つまりは僕が死因に関係してしまったということじゃないか。


「前の方法で失敗した以上、次にどうすればいいか分からなくて」


「前の方法とは何だったんだ?」


「カメラ仕掛けて監視した」


 ……は!? 


「アンタも了承したよ」


「なんだ。そうだったのか」


「なにコイツ……」


 びっくりした。てっきり無許可の盗撮を行ったのかと思った。

 そうか。僕は了承していたのか。それなら多分合法だったんだろう。良かったー……。


 しかし、それなら余計に謎は深まるばかりだな。

 もしかしたら、その現象あるいは犯人が「カメラに映らない存在だった」とかが有力だろうか。死に戻り発動時には全員生きていたらしいから、「カメラに映らない存在が攻撃中だった」と考えるのが妥当……。


 ……いやそれなら、前の僕が辻セイラに報告しているはずか。

 少なくとも攻撃を受けている様子は見られなかったということ。

 一切抵抗させず、生きているように見せかけながら、じわじわと命だけを奪っていく……うーん、やっぱり能力以外に見当がつかないぞ。


「だから、今回の方針としては──とりあえずもう一回やる」


「──再現実験か」


「そう。同じ作戦を、同じ条件で。10分とはいえ、いつもと違うことをしたら、タイムリミットが変わった。偶然かもしれないけど、もう確かめる方法は一つしかないし」


 なるほどな。

 この監視作戦を行った周に限定してタイムリミットがズレている……それは現時点で縋りつける数少ない可能性の一つだ。というか他に考えられる節が存在しない。


 だから今回も、全く同じ仕込みを行い、同じ条件でタイムリミットのズレが発生することを確認して──そこからどうしてタイムリミットがズレたのかの要因を特定する。

 その要因から逆算し、今回の死因を特定して──最終的にループ突破へ至る。


 ……正直なところ、相当に骨が折れそうな検証実験だ。

 理科の実験と同じ理屈だが、とてもこの一回で終わるとは思えない。


「その場合、僕は何をすることになる?」


「最終日にうちに来るだけ。明日おばあちゃんの家に、明後日ミオの家に私がカメラを仕掛けてくるから、アンタは前の周と全く同じ条件で待機してくれればいい」


「機材の調整や確認に時間は取らなくていいのか」


「もう経験済み。次はすぐできるから大丈夫」


 じゃあ整える条件は「月曜日の夜に僕が辻家にいる」ことだけになるのか。

 それで時間が動くのも妙な気がするが……事実そうなっているのだから疑っても仕方がない。


 しかし、僕がいることで時間がズレるとはどういうことだろう。

 僕がいることで時間が早まるなら分かるが、実際は10分「遅れて」いる。

 つまり僕は、死因を作ったんじゃない。死因の進行を、10分だけ押し留めたということになる。

 今回の死因は一瞬で決まるものじゃない。じわじわと進み、ある地点を越えた時に確定する何かだ。だからこそ、僕という異物が一つ混ざるだけで、その速度が僅かに変わった。


 例えば、夏祭りの時の差別主義者のような存在が、女性が多い辻家を襲おうと考えていたが……本来いないはずの僕という男手が一人増えたことによって、襲うことを躊躇ったとか。

 他に考えられるのは熱中症か。どこかの誰かが部屋のエアコンをつけ忘れていて、それに僕が気づいたから……いや、エアコンが切れていれば辻セイラが気づかない訳がないか。

 本来食べるはずの夕食を僕が余計に食べてしまったせいで栄養失調に……いや、それも考えにくい。WPPO-HBの検査を受けた人間が一食抜いただけで餓死するとは思えないし、それで時間が先延ばしになる意味も分からない。


「……」


 ……いや、待て。

 それ以前の問題があるぞ。「同じ条件」とは、どこまでを指すんだ? 


 月曜の夜に僕が辻家にいること。それは分かる。

 だが前の周の僕は、何時にあの家へ着いて、何を食べて、誰とどれだけ会話を行い、何時に彼女の部屋へ移動したんだ。モニターの前で何分間、どの画面を見ていた。

 そもそもその日も僕はバイトが入っている。それを何時に上がったのか、そこまで想定して一致させる必要がありそうじゃないか? 


 ……そして僕は、それを一つも知らないぞ。

 辻セイラの記憶を頼りに再現するしかないが、彼女だって四六時中僕を観察していた訳でもないだろう。つまり今回組み上がるのは、厳密な「同じ条件」じゃない。「だいたい同じ条件」になってしまう。


 これは厄介だ。

 仮に今回、10分のズレが再現されなかったとする。

 その時、僕達はどう解釈すればいい? 


 1. 条件が違っていたから、ズレなかった。

 2. 条件は合っていたが、ズレの原因が異なっている。

 3. そもそも前回のズレが、ただの偶然だった。


 この三つを区別する手段が今の僕達には存在しない。

 失敗しても、失敗した理由が分からない。それどころか「失敗したのかどうか」すら分からないんじゃないか、この実験。


 ……そして、仮に再現されたとしてもだ。

 次は「では何がズレを生んだのか」を切り分ける段階に入る。僕という要素を分解して、一つずつ潰していくことになるだろう。夕食に同席したことか、あの家に男が一人増えたことか、それとも全く別の何かか。


 一つ試すごとに、一周。

 一周ごとに、この女が一度死ぬことになってしまう……。


「……それで分からなかったらどうする?」


「どうしようもない。一から洗い直しか、もう一回実験するか」


「……そうか」


 辻セイラもそのことは分かっているんだ。

 今回、同じ結果が出てきたとしても、出てこなかったとしても、それ自体がループ突破の鍵にならない可能性だって十二分にある。それで自分がただ苦しみ無駄死にするだけの可能性があると、彼女は理解している。


 でも、それ以外に縋れる手がかりが本当に無い。

 これは20回もかかる訳だ。もし自分が辻セイラと同じ立場になったとして、果たして何周目まで正気を保っていられるだろうか。


 ……考えれば考えるほど、頭がこんがらがってきた。

 ここで都合よく、「僕が犯人です!」と名乗り出てくれる異常者がいてくれれば話は早いんだが……。


「……?」


 ……っと、おい。なんだ辻セイラ。

 肩を叩くな、聞きたいことがあるなら普通に声に出して聞──


【──ネェ】


 ──は。






【私、キレイ?】






 ……え?

感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)

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