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クラスメイトは『大切な人を救うために死に戻る能力者』  作者: 破れ綴じ
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[21:19] 変わらず平和な一家

「──母さんとアラタには、今朝のうちに伝えてある。友人の家に泊まる、と」


「なんて言われたの」


「『充実してていいんじゃない?』『楽しんで!』だそうだ」


 母さんからすればこの3連休の僕は、課題も早々に終わらせ、忙しくバイトで汗を流し、友人の家で最終日を遊んで過ごす……といった風に見えているだろうからな。

 何もせず家でダラダラ過ごすより、よっぽど充実した学生らしい生活を送っているように見えるだろう。


 実際には、土曜日のバイトに遅刻。

 そして、日曜日は桐島ミオとの勉強会のため、泣く泣く休みの連絡を。

 急遽友人に代行してもらって、まともに働けたのは月曜日の今日だけだ。

 その今日だって夕方で早めに切り上げてもらい、今こうして辻セイラと合流している。

 なんて不良なんだ僕は。


 まあ母さんが気にしていないならまだいい。

 アラタからは「気をつけてね」なんて言われたぞ。

 僕の弟は兄が何をしに行くと思っているんだろう。

 確かに碌なことではないが。


「というか、何その荷物。なんで明日の学校の準備まで持って来てるの。明日なんて来ないのに」


「備えだ。悪いか」


 ……明日なんて来ない、か。

 君の作戦は、君が死ぬことが大前提になったもの。即死ではないからこそ、僕が口頭で説明し、情報を次の周に引き継ぐという……理論上完璧だが、倫理的にどうかしている分担手法。


 そうだ。

 僕の隣で、辻家までの道のりを先導するこの女は──今日死ぬ。

 18回死んで、19回目も同じ頃に死ぬと、本人が時刻付きで予告済み。僕はそれを、画面の前で見届ける。昨日は昨日で考えられる余裕が無かったが、いざ当日になるとひどく緊張して来た。

 考えてみれば、人が死ぬところなんて人生で一度も見たことがない。きっと「前」の周の僕達はそれぞれ一度ずつ見た経験があるんだろうが……やっぱり現実味が無い。

 ……今夜が、その初回になってしまう。


「ほら、そろそろ着くから」


「ああ……」


 ……いや、あんまりこの問題について考えるのはよそう。

 いざ本番の瞬間に、悩み事で僕のパフォーマンスが落ちていては話にならない。


 それより、今から僕は辻家のお世話になる訳だが……大丈夫なのか? 

 辻家の面々は今朝からWPPO-HBの検査で出ずっぱりだったはず。疲れて帰って来たその日の夜に急遽泊まりの客だぞ。辻家はこの三連休きちんと休めた気がしないはずだ。いくら辻カリンの一件で顔見知りになったとはいえ、常識的に考えて迷惑だろう。

 しかも連続で泊まるとかでもなく、たった一晩だけ。じゃあ来ないでほしいとなるのが普通だと思う。辻セイラはどうやって説得したんだろう。


 もしかしたらあまり歓迎されないかもしれない。いや、十中八九そうだろう。

 僕も辻家に負担をかけるような言動は抑えるべきだ。接触は必要最低限にして、全員寝静まったら大人しく客間から辻セイラの自室へ移動し、後はモニターを眺める役に徹するべき──






「あーっ! マコトくんだ! ほんとに来た!」


「あっこらカリン!」


 ──うおっ!? 


 ……えっ。






 *






「はい、瀬尾君。お寿司も唐揚げも、どんどん食べてね」


「あ、ありがとうございます。いただきます」


「ね、ね、マコトくん。サーモンとツナマヨどっちが好き? 私はツナマヨ!」


「こら、カリン。瀬尾君が困っているだろう」


 ……歓迎されている!? 

 ど、どういうことだ。想定と真逆すぎて、頭が追いつかないぞ。

 僕の予想では、検査疲れのご家族に恐縮しながら、隅で小さくなって食べる夕食のはずだったんだが。


 手巻き寿司に、唐揚げの山に……他にも色々。どう見ても豪華だ。

 唐揚げは……若干竜田揚げっぽい。ということは片栗粉の衣か。手巻き寿司なら、そもそも小麦の出番も無い。辻カリンの制限を避けつつ、客人向けに準備していたかのような。

 検査で一日拘束された後に、この手間。

 少なくとも、急な泊まり客への渋々の対応なんかじゃないぞ……? 


「瀬尾君」


「は、はい」


「改めて、君にはきちんとお礼を言いたかったんだ。夏祭りの日のこと……娘を助けてくれて、本当にありがとう」


「えっ……あっ、ああ、はい」


「本当にね。あの日は、ろくにご挨拶もできなかったから」


「そーそー、瀬尾がいなかったら私、ヤラレテタカモー」


 ……あっそうか! 

 なんでこんなに歓迎されてるのか疑問だったが──思い返せば、僕は辻セイラを不審者から助けたということになっているんだった! 


 考えてみれば、辻家のご両親と直接顔を合わせるのは、事件の後これが初めて。

 検査に行って来て疲れてはいるものの、娘が「命の恩人を泊めていいか」と提案してきたから、礼をするために許諾した……。

 考えてみれば当たり前だ。なんとか噂を払拭しきったと思っていたが、学校だけではなく被害者の家庭でもその話題が上がることは自明だったじゃないか。


 しかも、さっきの辻セイラのあからさまに適当な返し。

 さてはあの女。あえて僕のヒーローの噂に一切水を差さず……それどころか、今日僕を家に泊めやすくできるように、あの事件をいくらか盛って家族に伝えているんじゃないか? 


「私はあの夜、警察署までセイラを迎えに行ってね。話は警察からも聞いたよ」


「い……いえ。あれは本当に、偶然で。たまたま近くを通りかかっただけで」


 冗談じゃない。あれはマッチポンプだったんです。

 辻セイラには感謝してもらわないといけないが、その功績で他の人にまで「良い子だね」なんて言われたくないんだ。僕はお膳立てされた上で、ただスプレーを吹き付けただけなんだから。


 というか、シンプルに気まずい。

 ヒーロー扱いされたくなかったのに、結果はこれ。賞賛されているのに素直に喜べない状況なんて予想さえできなかったが……褒め殺しってこういうことなのか? 


「これだけのことをしたのに……流石だ、参ったな」


「やっぱり謙遜しがちな性格なのね。セイラの言っていた通りだわ」


「ねぇねぇマコトくん! 犯人に『こっちを見ろ!』って言って掴みかかったんでしょ!」


「そーそー、刃物相手に華麗なハイキック決めてさ」


「すっごい! 映画みたい!」


 なんということだ。

 僕がうっかり事実を伝えても家族が落胆しないように、辻セイラに先手を打たれている。

 違う、謙遜じゃないんだ。一言一句、ただの事実の申告なんだ。本当にやめてくれ。

 そもそも掴みかかってハイキックって。適当過ぎないか君。


「と、ところで! 今日の検査は、どうだったんですか」


 仕方ない、話題を変えよう。

 このままこの話題に乗ったり否定したりしたら、どちらにせよ結局僕の株が上がる方向に話が進んでしまう。下手な発言をして、余計に気まずくなったら今度こそ僕が耐えられない。


 我ながら露骨な話題転換だが、この際なんでもいい。

 これ以上あの晩を穿り返されるより、ずっといいし。それにこれは、今日この家で一番聞いておくべき話のはずなんだ。


「それがね、聞いてちょうだい瀬尾君。このアレルギーは能力で治せるんですって」


「ああ。一回では緩和しかできないが、あと何回か経過を見て能力をかけ直せば、完全に抑え込むことができるらしい」


「そ、そうだったんですか。良かったです!」


 なんだ、こっちは素直に朗報じゃないか。

 いや良かった。心配だったんだよな、辻カリンのアレルギー。場合によっては辻カリンが死亡する恐れもあるし。僕と辻セイラが見つけたということもあって、きちんと解決できたのか、解決の兆しが見えているのか……ずっと気になってたんだ。

 一度で治せる訳では無いらしいが、それでも完治できるならとにかく良かった。

 流石WPPO-HB。アレルギーですらきちんと完治できるだなんて。


 ……よくよく考えたら流石どころじゃないな。

 なんだよアレルギーを能力で治すって。


「今日治ると思ってたんだけどなー」


「可哀想なカリン……治ったらいくらでもパンケーキ奢ってあげるからね」


「止めてくっつかないでお姉ちゃん暑いー!」


 しかし凄いぞ。

 この席に着いてから、初めて何の引っかかりも無く頷ける話題だ。

 僕も気まずくないし、辻家にとってもポジティブな内容。検査結果が異常なしなのは分かっていたが、実際にその内容で喜んでいる辻家を見ていると実感が湧く。

 辻姉妹も相変わらず仲が良さそうというか、通常運転そのものだし。

 これで今夜の悲劇が無ければ、楽しい夕食なんだがなぁ……。


 どうしよう、考えだしたらやっぱり緊張して来た。

 今のテンションのまま辻セイラの死を見届けることになったら……温度差で風邪を引いてしまいそうだ。




「ごちそうさまでした! ねぇママ、客間行っていい? マコトくんと話したい!」


「いいけど……明日も学校なんだし、瀬尾君に迷惑かけちゃダメよ?」


「はーい!」






 *






「……待たせたな」


「おかえり。もう全員寝たよ」


「分かってる。確認してから君の部屋に来たんだ」


「ん」


 辻カリンが「本当にお姉ちゃんとは付き合ってないの?」「なんで二人で夏祭り行ってたの?」「男女の友情ってやつ?」「学校で怪談が流行っててね」「暑すぎない? 3℃と言わず30℃……」だのマシンガントークを繰り広げて来るから時間がかかってしまったが。

 途中で喋り疲れたんだろうな、ただでさえ今日は疲労が溜まっていたはずだし。

 興奮冷めやらない様子だったが、少し前に寝に行って、今はもうぐっすりだ。


 時刻は11:30。

 場所は辻セイラの部屋。

 必要な道具は辻セイラが準備したモニター。

 既に『大切な人』は全員床に着いている。

 条件は整った。


「じゃ、最後の確認ね。死に戻りが起こるのは11:44~11:47あたり。アンタは今からそこのモニターを見張って、何かあったら報告して」


「了解した」


「カメラは問題無く全部動いてるし、どの部屋もエアコンはちゃんと効いてるみたいだから。後はよろしく」


 ……やっぱり用意周到だな。

 僕が辻カリンと喋っている間、彼女はずっと部屋に引き籠っていたが──おそらく最終調整をしていたんだろう。


 モニターは……これだな。ご丁寧にイヤホンまで付いていて。

 確かに、辻カリンの部屋。辻家両親の寝室。ミオと勉強をしたあの部屋も映っている。

 こっちの和風な部屋は……辻セイラの祖母の部屋だな。寝てはいるみたいだが、TVが点きっぱなしだぞ。そういうものかもしれないが。

 となると、残り一つのこの部屋は……三好ルナの部屋か。かなり綺麗な部屋だな。本人は布団にくるまって微動だにしていないが。生きてるかこれ? 


 ──スゥー……スゥー……


 あっ寝てる。寝息がちゃんと聞こえるぞ。

 ……やっぱり僕ヤバいことしてるな。どこからどう見ても変態しかやらないぞこんなこと。


「……辻セイラ。君はベッドに寝転んで何しているんだ」


「SNS見てる。もしかしたらこの時間に何か起こるかもしれないし」


「これまでの周では見なかったのか?」


「見てたけど、何も見つからなかった。でも全部を見られてた訳じゃないから」


 それもそうか。

 SNS上で、この地域に大きな自然災害や能力現象が起こればその情報から原因を特定できるだろうし。何周分でもチェックするに越したことは無いだろう。

 もっとも、そんな大きな問題が起こるならWPPOが未然に防がない訳がないから、それが死因になる可能性は低いだろうが。

 あるいは、彼女も怖くて、気を紛らわせているだけかもしれない。


 しかしこれで何も見つからなかったらどうしようか。

 辻セイラがせっかく僕を頼ってくれたというのに、僕の協力を踏まえた上でも「何一つ分からなかった」から前進できなければ大問題も大問題だ。


 理想的な展開は、いずれかの部屋に明確な何かが起こったり、誰かが侵入してきたりすること。

 命の危機に「理想的な」と言うのも変な話だが。

 辻セイラの死に戻りが発動し、彼女が自分でモニターを精査できなくなる時間帯に、決定的な何かが見つかれば──それに対処するだけでこのループは解決することができる。

 僕の役目は、何も難しいことではない。ただ、目に映ったものを挙げていけばいいだけ。


「……11:39。どう?」


「まだ何も」


「そう……」


 ……あと5分。


 今のところ何も出ていない。

 どの部屋にも異常は起こっていないし、誰かの影が見えたりした訳でもない。

 カメラは死角無く捉えられているし、寝床を明確に映しているから、何かが起こればすぐ分かる。


 特にミオだけは絶対に見逃すことはないだろう。

 なんて彼女が見えやすい位置に置いてあるんだ。これを見るのが男だと分かって置いているのだろうか。


 辻カリンの部屋は? 何もない。

 気になることといえば、暑かったのか布団をはねのけていることだけ。風邪引かないか? 


 辻両親の部屋は? 

 母親と父親って、同じベッドで寝るんだな。あまり見ない……見たくない光景だ。


 辻祖母の部屋は? 

 ……TVの音が大きい。布団が上下しているから呼吸はしているだろうが。


 三好ルナの部屋は? 

 相変わらず物音がしないな。寝息が聞こえなかったら真っ先に報告していたぞ、君。


 ……。


 …………。


 ………………。


「……ど、どう?」






「……何も、出ない」






「一切? 何も?」


「何もだ。全員生きている」


 ……おかしい。


 本当に何も起こらない。

 ほら、君も見てくれ。どの部屋にも火がついたり、誰かが入ってきたり、カメラが切れたりはしていない。

 カメラに表示されている現在時刻も11:44だ。録画や遅延ではないことは間違いないし、タイムリミットまで残り1分もない。


 なのにこうだ。

 本当に何も起こらない。

 全員、生きていることが確認できる。


「……本当だ。誰も変化ない」


「熱中症の可能性はどうだ? エアコンを入れていてもなることはある」


「……無いと思う」


「どうして?」


「これまでの周で、全員寝る前に無理やり会話か電話したこともあるんだけど……皆普通に受け答えできてた」


 ……そうか。

 軽度や中度の熱中症であれば、普通に受け答えすることも可能だろう。

 しかし、死亡するとなるとやはり重度の熱中症だ。そこまで行くと多少受け答えがおかしくなったり、呂律が回らなくなったりするもの。

 それさえ一切無かったのなら……熱中症の可能性は薄い。


 眠っているのだから、「精神的なショック」という線はあり得ないだろう。誰とも会話していないし、一人で思いに耽っている訳でもない。酷い夢を見ていたとしても朝起きれば忘れることだ。

 前々から重い病気が進行していた……という可能性も考えにくい。何せWPPO-HBからのお墨付きを得ているんだ。

 ミオと三好ルナについては確定できないが……。


「ミオとルナも2回ずつ病院に無理やり連れて行ってる。何も無かった」


「凄いな。僕の心を読んだのか?」


「考え込んでるから。そんなとこかと思って」


 ……この女に思考を当てられると、なんとも気味が悪く感じるな。

 しかし、今の話が正しければ二人が重い病気を抱えていた線も消えるか。

 となると、後、考えられるのは「丁度このタイミングで何かしらの病気に感染した」とか? 

 あるいは、「能力者から攻撃を受けていて、11:47以降に死ぬことが確定した」か。


 ……あれ。






「おい。時間、過ぎてないか」


「へ?」






「時間だ。今、11:49になってるぞ」


「え……本当だ。なんで……?」


「分からない」


 おかしい、タイムリミットを越してしまった。

 どういうことだ? 11:44~11:47と言っていたから多少のブレはあるんだろうが……大体同じ時間がデッドラインじゃないのか。

 普通に過ぎてしまっているぞ。今もほら……11:50になった。

 本当は今頃、君が死んでいるはずじゃなかったのか。


「待って、どういうこと? 突破した?」


「何故だ。何もしてないだろう、僕達は」


「してない、してないよ。カメラ仕掛けて、アンタを家に呼んだけど……それ以外は何も」


 そうだ。

 何もしていない。

 これまでの周との差分は存在するが、僕達は問題解決に向けて何も動きだしていないし、そもそも問題が何かも分かっていない。

 なのにループを突破したのか? 


 どうしてだ? 

 もし病気が原因だとすれば……この三連休の訪問中に、一回余計に換気をして空気が多少良くなったとか? そんなことあり得るのか? 

 もし能力が原因だとすれば……これまでの一連の行動で、僕達の行動が能力者に影響したことになる。じゃなきゃ、今の状況が説明できない。

 しかし、今死に戻りが発動していないのも事実で……。


 ……。


 …………。


 ………………。


 ……11:57。

 10分以上、何も起こっていない。


「待って、SNS見る。この時間まで見られるのは初めてだから」


「あ、ああ。じゃあ僕は監視を続けるぞ。何か分かったら教える」


 ──ドサッ


 とにかく、今が異常事態なことは分かった。

 本来起こるべき時間に死に戻りが発生しないんだ。異常事態でしかない。

 とはいえ、もしかしたらこれは朗報なのかもしれない。

 これまでの経験則からすると、死に戻りが発生しない……それが意味するのはループの突破だ。

 新情報が一切見つかっていないから、もし今、死に戻りが起こっていればとてつもない大失敗でしかないんだが……事実死に戻りは起こっていない。


 他の面々は……うん。

 依然として気持ちよさそうに眠っているままだ。全く変化が無い。


 辻カリンは「ぅぅん……足は水泳選手の命……」とか寝言言ってるし。

 三好ルナも耳を凝らせば寝息がまだ聞こえている。

 辻両親もさっきから微妙に動いているし。

 一番心配な辻祖母は……あっ今寝返りした。生きているぞ。


 ミオは……なんか布団はねのけてるな。

 辻カリンと一緒で暑がりなんだろうか。それとも寝相が悪いのか。


 ……ん? 

 瞬き? 


 あれ、今、目開いたよな? 

 なんかカメラ目線だったし。

 しかもちょっと動いて……。

 ……なんかポーズ取ってない? 


 起きてないか君? 


「なあ、辻セイラ。ミオが起きてるんだが──」






「──」


「辻セイラ? おい、辻セイラ? どうした?」






 ……何してる? 寝ているのか? 

 どうして、ベッドの上で動かないんだ。


「おい、辻セイラ。まだ何も起こってないんだぞ」


「──」


「返事をしろ、なあ、おい」


 待て、待ってくれ。そんな訳ないよな。

 今何も分かっていないんだぞ。何の新情報も出てないんだぞ。

 全員生きているし、何も起こっていない。

 待ってくれ、辻セイラ。


 どうして頭が──血を流しながら、崩れているんだ。






 *






 瀬尾家は今日も平和だ。


 ──『続く残暑。WPPO日本支部は平均気温を3℃下げることを検討し──』


 ──『駅前で住民に声をかけて回る不審な女性の目撃情報が相次いでおり──』


 ──『暑さを乗り切ろう! 今回は有名な怪談語り屋・宵坂ヨミさんにお越し頂き──』

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