表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ONIGOKKO ―Human Hunt―  作者: 山犬
序走
7/12

不自然な静寂

――ガタンッ。


突然の大きな衝撃に、紗月は目を開けた。

体がわずかに前へ揺れる。


何が起きたのか分からず、一瞬だけ思考が止まった。

周囲からも同じような反応が聞こえてくる。


「うわっ」


「なんだ!?」


「着いたのか?」


眠っていた参加者たちも次々と目を覚ましていた。


後方では慌てて姿勢を正す男もいる。


美穂もゆっくり目を開き、隣の萌子は寝ぼけた顔のまま辺りを見回していた。


「え……何……?」


「びっくりした」


どうやら自分も眠っていたらしい。

紗月は軽く目を擦った。


いつの間にか意識が途切れていたようだ。

車内には相変わらず白い蛍光灯が灯っている。


窓はなく、外の様子も分からない。


ポケットからスマートフォンを取り出す。

時刻を確認した瞬間、紗月は目を細めた。


思っていた以上に時間が経っていた。


トラックが停止し、船のような揺れを感じ始めてから既に2時間以上。

乗車してからで考えれば、かなりの時間が経過している。


「そんなに?」


萌子もスマートフォンを見て驚いていた。


「結構寝てたかも……」


「私も」


美穂が苦笑する。

それだけ長時間移動しているにもかかわらず、誰も目的地を知らない。


それが妙な不安を生んでいた。

だが大きな揺れの後、車体は再び走り始めた。


今度は明らかに道路を走る感覚だった。

ゴトゴトとタイヤが地面を踏む振動。


先ほどまでのゆったりした揺れとは違う。


船から降ろされたのだろうか。

誰も分からない。だがそう考える者は多かった。


それからさらに30分ほど。


車内は再び静かになっていた。

会話をする者もいる。

無言で座る者もいる。


そして。


トラックはゆっくりと減速した。エンジン音が小さくなる。

やがて完全に停止した。



全員が自然と扉へ視線を向ける。数秒後。


ガチャリ。


金属音が響いた。車内の空気が一変する。

後部扉がゆっくりと開いていく。


外には受付会場で見たスーツ姿のスタッフたちが立っていた。

表情は相変わらず無機質だった。


そのうちの一人が淡々と告げる。


「順番に降車してください」


ようやく外へ出られる。参加者たちは次々とトラックを降り始めた。


紗月も美穂、萌子と共に外へ出る。

地面に足をつけた瞬間、閉塞感から解放されたような気がした。


そして周囲を見渡す。


「……え?」


思わず声が漏れる。

そこに広がっていたのは予想していた景色とは全く違っていた。


田舎町だった。舗装された細い道路。


等間隔に並ぶ電柱。少し古びた一軒家。


瓦屋根の家もあれば、比較的新しい住宅もある。


庭には植木や畑が見える。遠くには低い山々まで見えていた。

まるでどこかの地方都市の住宅街を切り取ったような光景だった。


「何ここ……」


萌子が呟く。


「ゲーム会場って感じじゃないね」


美穂も困惑していた。


紗月も同じ気持ちだった。


もっと大きな施設や倉庫のような場所を想像していた。


だが目の前にあるのは普通の町並みだった。するとスタッフが再び声を上げる。


「男性はこちらへ」


「女性はこちらへ移動してください」


参加者たちが分けられていく。


紗月は美穂や萌子と共に女性グループへ加わった。

案内された先には二階建ての民家があった。外見だけ見ればごく普通の住宅だ。


玄関前には同じような女性参加者たちが集められている。


40代ほどの体格の良い女性もいる。50代くらいの女性も不安そうな表情で並んでいた。


スタッフは人数分のリュックサックを指差した。


「一人一つ持ってください」


参加者たちは戸惑いながら受け取る。


続いてスタッフが説明する。


「この後、着替えを行っていただきます。建物内のトイレも利用可能です。」


その言葉に車内で張り詰めていた空気が少し緩んだ。


「よかった……」


誰かが小さく呟く。

長時間の移動で疲れていた者も多い。


スタッフは淡々と続けた。


「準備が終わり次第、改めて説明を行います。指示に従ってください。」


そう言って玄関を開けた。

参加者たちは顔を見合わせながら民家の中へ足を踏み入れる。


案内された部屋へ入った瞬間、紗月は足を止めた。


畳敷きの広い和室だった。古い民家らしく柱や天井には年季が入っている。


壁際には人数分の同じ服が畳まれて置かれている。

濃い緑色のつなぎだった。作業着にも軍服のようにも見える。


少なくとも普段着ではなかった。


「何これ……」


萌子が呟く。美穂も眉をひそめた。


「キャンプ場の制服とか?」


その時、後ろからスタッフが口を開く。


「そちらに着替えてください」


感情のない声だった。


「着替えが終わりましたらリュックをお持ちになり、そのまま外へ出てきてください」


それだけ言うと、スタッフは部屋の外へ出て行った。


襖が閉まる。部屋には女性参加者だけが残された。

一瞬、誰も動かない。


互いの様子を窺っている。


「こういうのはさっさと済ませた方が楽よ」


と言って迷いなく上着を脱ぎ始めた。

それは40代くらいの女性だった。


車内で見かけた、体格の良い女性だ。肩幅が広く、腕も太い。

日焼けした肌からは屋外で働き慣れているような印象を受ける。


その堂々とした態度に、部屋の空気が少しだけ和らぐ。


誰かが先に動いてくれたことで安心したのだろう。


「そうですね……」


30代くらいの眼鏡の女性も服を手に取る。

50代くらいの小柄な女性もおずおずと着替え始めた。


美穂も肩をすくめる。


「まぁ着替えろって言われてるし」


「ですね」


紗月も頷いた。

萌子も観念したようにため息をつく。


やがて部屋のあちこちで衣擦れの音が聞こえ始めた。


やがて部屋のあちこちで衣擦れの音が聞こえ始めた。


紗月も上着を脱ぎながら部屋を見回す。


古い箪笥。


壁に掛けられた時計。


飾られたままの風景写真。


どれも生活感があった。


まるで誰かが本当に暮らしている家のようだった。


――この家、誰の家なんだろう。


ふとそんな疑問が浮かぶ。


ゲーム会場にしては妙に現実的だ。


民宿だろうか。


空き家だろうか。


それともイベント用に借りた家なのか。


分からない。


そもそも何のためにここへ連れて来られたのかさえ分からない。


つなぎへ着替えながらも疑問ばかりが増えていく。


萌子も同じことを考えていたらしい。


「なんかさ」


腕を通しながら言った。


「本当に仕事内容説明されないよね」


「それは思う」


美穂も苦笑する。

「ここまで来たのに何も分からないって逆にすごい」


「変なことじゃなければいいんですけど」


紗月がそう言うと、部屋の空気が少しだけ静かになった。


誰もが同じことを考えている。


だが口には出さない。


出したところで答えはないからだ。


やがて全員が着替え終える。


濃い緑色のつなぎを着た姿は妙に統一感があった。



その時だった。


最初に着替えていた四十代の女性がリュックを手に取った。


「そういえば中身確認してなかったわね」


そう言いながらファスナーを開く。


周囲の視線が自然と集まった。


女性は次々と中身を取り出していく。


「タオル」


「水」


「携帯食?」


女性自身も少し驚いたような顔をしている。


紗月も急いで自分のリュックを開けた。中にはタオル。

五百ミリリットルのペットボトルの水。栄養補給用らしい携帯食。

簡単な救急セット。懐中電灯。

そして細かな日用品がいくつか入っていた。


萌子も中身を確認している。


「え、結構ちゃんとしてる」


「本当だ」


美穂も頷いた。


「救急セットまである」


紗月は救急セットを手に取った。


包帯。消毒液。絆創膏。


応急処置用品が一通り揃っている。

――何に使うんだろう。


自然とそんな疑問が浮かぶ。


携帯食。水。救急セット。


どれも屋外活動を連想させるものばかりだった。


「サバイバル体験とか?」


誰かが言った。

その言葉に何人かが頷く。


「ありそう」


「研修みたいなやつ?」


「だから200万なのかな」


完全に納得はできない。だが今ある情報だけなら、それが一番近い気もした。


その時、美穂が何かに気付いたように言う。


「そういえばさ」


全員が彼女を見る。


「受付の時に色分けされたじゃん」


「ああ」


萌子が頷く。


「赤とか黒とか白とか」


「もしかしてチームなんじゃない?」


美穂はそう言った。部屋が少し静かになる。

確かにあり得る。色ごとに分けられ。


別々のトラックへ乗せられ。別々の場所へ案内された。

そう考えると辻褄は合う。


「チーム対抗戦とか?」


萌子の目が少し輝く。


「宝探しとかサバイバルゲームとか?」


「かもしれませんね」


紗月も答える。だがどこか引っ掛かる。

準備が良すぎる気がした。

長時間の移動。徹底した情報管理。そして説明のなさ。


何かが噛み合わない。胸の奥に小さな違和感だけが残っていた。


参加者たちがそれぞれ荷物を確認していると、不意に襖の向こうから声が聞こえた。


「準備が終わった方から外へ出てください」


受付会場で見かけたスタッフの声だった。

部屋の中にいた全員が顔を上げる。


「もう行くの?」


萌子が少し慌てたようにリュックのファスナーを閉めた。


「みたいだね」


美穂も立ち上がる。


四十代の女性は既にリュックを背負っていた。


「じゃあ行きましょうか」


落ち着いた声だった。


それにつられるように他の女性たちも立ち上がり始める。

紗月もリュックを背負った。思ったより軽い。


だが中身は必要最低限のものがしっかり詰まっている。


まるでこれから長時間外で活動することを前提としているようだった。


再び胸の奥に小さな違和感が生まれる。しかし考える時間はなかった。


女性たちは順番に部屋を出ていく。廊下へ出ると古い木造家屋特有の匂いがした。


歩くたび床がわずかに軋む。生活感のある家だった。


本当に誰かが暮らしていた家なのではないかと思うほどだ。

外には既に黒いトラックに乗っていた男性参加者が集まっていた。


先ほどまで閉ざされたトラックの中にいたことが嘘のようだった。


しかし周囲を見渡した紗月は小さく眉をひそめる。


やはり妙だった。

どこまでも続く町。住宅。畑。スーパー。商業施設。細い道路。遠くの山々。


人の生活があるはずの場所なのに、人影がほとんど見当たらない。


犬の鳴き声もない。子供の声もない。車も走っていない。


まるで住民だけが消えてしまった町のようだった。


「なんか静かじゃない?」


萌子も同じことを感じたらしい。美穂も周囲を見回す。


「確かに」


「夜だからかな」


誰かがそう言ったが、どこか無理があるようにも聞こえた。


その時だった。キーンコーンカーンコーン――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ