立ち止まれない
紗月の心臓が大きく跳ねた。
陽菜。
そう思って画面を開く。
だが。表示されていた名前は違った。
【神代 嵐】
「……嵐さん」
思わず小さく呟く。美穂と萌子が不思議そうな顔をした。
紗月はすぐにメッセージを開いた。
『無事?』
短い文章。だが続く内容を読んだ瞬間、紗月は眉をひそめた。
『まさかこんなことになるとは思っていなかった』
『本当に申し訳ない』
『僕が紹介した仕事で巻き込んでしまった』
『謝って済む話じゃないが』
『本当にごめん』
画面を見つめる。
何とも言えない感情が胸の中に広がった。
怒り。
困惑。
不安。
今さら謝られてもどうしようもない。
紗月はしばらく考えた後。
返信を打ち始めた。
『嵐さんはこのことを知っていたんですか?』
送信。
嵐もスマートウォッチを見ていたのだろう。
数秒後。返信が届いた。
『知らない』
『本当に何も知らなかった』
さらに続く。
『信じてもらえないかもしれないけど』
『本当に知らなかった』
『ごめん』
『みんなを巻き込んでしまった』
『本当に申し訳ない』
何度目かの謝罪だった。紗月は画面を見つめた。
紗月は小さく息を吐いた。
そして返信する。
『分かりました』
『陽菜や大輝さんとは連絡つきましたか?』
送信。数秒後、返信が届く。
『まだ』
短い言葉だった。だがすぐに続きが表示される。
『二人とも返事がない』
『何回か送ってるんだけど』
紗月の胸が重くなる。陽菜だけではない。
大輝とも連絡が取れていない。
紗月は陽菜とのトーク画面を開いた。
最後に送ったメッセージ。
『陽菜、大丈夫?』
その下に並ぶ文字。変化はない。
『私もまだ連絡取れてません』
そう返信する。
数秒後。
『そっか……』
『無事だといいな』
短い文章。その一言に本音が滲んでいた。
しばらくして。またメッセージが届く。
『紗月ちゃん』
『本当に気を付けて』
『一人にならない方がいいと思う』
紗月は隣を歩く美穂と萌子を見る。二人とも周囲を警戒している。少なくとも今は一人ではない。
『今は他の参加者と一緒です』
返信する。
『よかった』
すぐに返事が来た。
『俺も今は数人で行動してる』
『もし何か分かったら連絡する』
『陽菜ちゃんか大輝から返信来たらすぐ教える』
紗月は小さく息を吐いた。
『分かりました』
『嵐さんも気を付けてください』
送信。少し間を置いて。最後のメッセージが届く。
『うん』
『絶対生き残ろう』
そこで会話は終わった。紗月は画面を閉じる。
陽菜からの返信はまだない。
それでも、陽菜はまだどこかで生きている。そう信じたかった。
紗月はスマートウォッチを握りしめる。そして再び前を向いた。
今は進むしかない。
「行きましょう」
2人が顔を上げる。
「次の銅像を探さないと」
安全地帯に入るためのポイント。アプリを買うためのポイント。
「そうだね。止まってても仕方ないし。」
美穂が頷く。
「うん」
萌子も立ち上がった。
「10ポイント目指そう」
3人は周囲を警戒しながら再び歩き出した。誰もいない住宅街。静まり返った道路。
物陰や曲がり角へ自然と視線が向く。鬼がいるかもしれない。
その緊張感を抱えたまま。三人は次の銅像を探し始めた。




