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ONIGOKKO ―Human Hunt―  作者: 山犬
第1走
14/14

愉快な観客たち

その頃――。


島から遠く離れた場所。薄暗い空間に静かな音楽が流れていた。


重厚な木材で統一された内装。磨き上げられた黒い床。


壁際には高級酒が並び、琥珀色の照明が柔らかく揺れている。


高級ホテルのラウンジにも見える。会員制バーにも見える。


だが、そこにいる人々の視線は酒でも会話でもなかった。


正面。



「それにしても」


誰かがグラスを揺らした。


「10回目か」


その言葉に周囲の何人かが笑う。


「もう10回だ」


「早いものだな」


「記念回だからな」



壁一面を埋め尽くす巨大なモニター群。さらに各テーブルにも小型モニターが設置されている。


そこには島の様子が映し出されていた。


住宅街を歩く参加者。


森を進む参加者。


泣き崩れる者。


叫ぶ者。


逃げる者。


そして――鬼。


赤鬼。


黒鬼。



「今回は金が掛かってる」


「例年より随分な」


「まあ十回目だし」


「特別仕様だ」


誰かが愉快そうに笑った。


様々な映像が次々と切り替わる。


壁面モニターが切り替わる。1つに赤鬼が映る。


鉈、ナイフ、のこぎり、斧などを担ぎながら歩く赤い影。


血のような赤。


巨大な鉈。


異様な存在感。


それを見た何人かが笑った。


「やっぱり赤鬼は人気だな」


「あいつが出る回は盛り上がる」


「間違いない」


グラスを傾けながら別の男が頷く。


「殺した人数だけ見れば飛び抜けてるわけじゃない」


「そうなんだよな」


「そこが面白い」


小さな笑いが広がる。


モニターの中の赤鬼は立ち止まり、周囲を見回している。


獲物を探す肉食獣のようだった。


「あいつの場合は数じゃない」


男が言う。


「執着だ」


「そうそう」


「見つけた後が長い」


「逃がさない」


「遊ぶ」


誰かが呟く。


その言葉に何人かが笑った。


楽しそうに。


「赤鬼のやつは人を狩るのが好きすぎるんだよ」


「鬼役が天職だな」


「本人も楽しんでる」


「それが映像に出る」


画面の中で赤鬼が路地へ消える。


客席から期待するような視線が向けられた。


「それに」


一人の老人がグラスを回した。


「やつが鬼をやった回はいつも鬼の勝ちだ」


周囲から笑い声。


「言うな言うな」


「縁起でもない」


「まだ始まったばかりだぞ」


だが。


誰も否定しなかった。


「まあ今回も期待してるよ」


「派手にやってもらわないと困る」


誰かが笑う。


その時。


モニターの一つで赤鬼が足を止めた。


まるで何かを見つけたように。


それだけで。


客席のあちこちから小さな歓声が上がった。


まるで人気俳優の登場シーンでも見ているかのように。


モニターは黒鬼へ切り替わる。


黒い装備。


黒い面。


静かに歩く姿。


空気が少し変わった。


「あと特に楽しみなのやっぱり彼かな」


誰かが言う。


「あいつは元PMCだ」


「いや、正確には特殊作戦チームだ」


「どこの国だったかは公表されてない」


「しかも唯一だからな」


「伝説だ」


「参加者側で1度生還したとき、唯一鬼を全員殺してる」


「鬼をやらせたらどうなるのか」


「見ものだ」


「私は、正直今回は彼目当てで来た」


そんな声すらあった。


青鬼。


黄鬼。


白鬼。


それぞれの映像が流れる。


「他の鬼も豪華だ」


「確かに」


「ここまで揃うことはなかなかない」


「青も期待できる」


「今回は条件がいいからな」


「白も面白そうだ」


「前回とはまた違うし」


「黄はどうだろう」


「さてね」


知っている者同士だけが意味深に笑う。今回の鬼たちは特別だった。


そして、特別なのは鬼だけではない。


「参加者側もなかなかだ」


ある男がタブレットを操作する。


参加者リスト。年齢。経歴。簡単なプロフィール。


「今回は当たりが多い」


「物語になる人間がいる」


「珍しい組み合わせもある」


「運営も気合いを入れて集めたらしい」


「10回目だからな」


またその言葉が出る。


10回目。


記念回。


だからこそ。鬼も。参加者も。


普段以上に選ばれていた。


その時。


モニターの一つに紗月が映った。


住宅街を歩いている。


警戒を解かない目。


整った顔立ち。


長い黒髪。


隣を歩く美穂と萌子。


「やっぱりいいな」


「顔が映える」


「絵になるね」


女性客も頷く。


「綺麗」


「でも弱そうには見えない」


「そこがいい」


「私はあの子を追うかな」


「私も気になってる」


そんな声が上がる。


一方で。


別の席では男が苛立たしげにグラスを空けた。


「くだらん」


モニターには既に動かなくなった参加者の記録画面。


「せっかく面白そうだったのに」


「見る目がなかったな」


「うるさい」


男は吐き捨てた。


周囲から笑いが起きる。


その光景を。


給仕をするスタッフたちは無表情で見つめていた。


受付で参加者たちを迎えた女性。説明会場で案内していた男性。誰一人として表情を変えない。


ただ静かに酒を運び。料理を並べ。巨大なモニターに映る島を見上げる。


まるで。そこに映る人間たちが。最初から商品であるかのように。


笑い声。グラスの音。穏やかな会話。そのどれもが。


島で繰り広げられている惨劇とはあまりにも不釣り合いだった。


そして、部屋の最奥。


他の客より一段高い場所に設けられた席。そこに座る人物だけは、誰とも会話をしていなかった。


薄暗さの中で顔はよく見えない。


ただ。その人物の前にあるモニターには。


――――の姿だけが映し出されていた。


まるで。


他の誰にも興味がないかのように。



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