マオリョー、宣戦布告されます⑤ 敵が、内輪揉め
正門の向こうで、敵の傭兵たちが顔を見合わせた。
「な、なんだあいつら……」
「身内で揉めてるぞ。完全に隙だらけだ、今だ、突っ込め!」
「隙だらけって、誰のせいでこうなってると思ってんだよ!」
俺は突っ込んでくる敵に剣を向けつつ、後ろでわちゃわちゃしてる仲間を恨めしげに睨んだ。
「無給の俺が、強すぎてポンコツな身内の交通整理して、その上ゴロツキ百人の相手もすんのか!? どんだけ働かせんだ、この会社!」
ザザザッ――と、傭兵たちが一気に間合いを詰めてくる。
そのときだった。
ビュオォォォォォッ!!
「なっ……!?」
さっきまで晴れ渡っていた青空が、一瞬で真っ黒な雷雲に覆い尽くされた。
地響きのような雷鳴。そして、視界を奪う豪雨と突風。
「きゃあっ!? せっかく整えた髪がぐしゃぐしゃよ!」
リリが頭を抱えて悲鳴を上げた。
「こんな時に髪の心配してる場合か!」
俺は咄嗟に『探索強化』を広げ――そして、ぞっとした。
「……っ、敵の位置が、何も視えねえ!」
全方位から殴りつけてくる嵐の気配がノイズになって、探索の網が根こそぎ引きちぎられている。唯一の取り柄を、真っ先に潰された。
「探索が消えりゃ、俺なんてただの剣を持った無給の一般人だぞ。一番大事なやつから封じてくるとか、人が悪すぎるだろ……!」
『いやぁ、ええ城やなぁ。……半分、崩れとるけど』
嵐の轟音を切り裂いて。
空から、掴みどころのない関西弁が降ってきた。
「……誰だ!」
俺は吹き荒れる暴風の中、目を細めて叫んだ。
『西の商会の名代、ストムや』
雷雲の奥から、飄々とした声が響く。
『まあ、名代言うても、わてはただの風読みやけどな』
「風読みが雷落とすか!」
俺は泥水を蹴立てて叫んだ。
「姿見せろ! こそこそ上空から喋ってねえで降りてこい!」
『あかんあかん。わて、喧嘩は専門外やねん』
声は右から聞こえたかと思えば、次は左から聞こえる。
『ほな、楽しい泥んこ遊びの時間やで』
ビュオォォォォォッ!!
風速が一気に増し、視界が真っ白な霧と豪雨に塗り潰された。
足元の石畳はあっという間に濁流に呑まれ、ぬかるんだ泥沼に変わる。
「うおっ……!?」
踏ん張った足が、ずぶりと泥に沈んだ。
その隙を突いて、霧の中から人影が躍り出る。傭兵だ。
振り下ろされる剣を、俺は咄嗟に受け止めた。
ガキィンッ!
「重っ……!」
足場がぬかるんで押し返せない。じりっと後ろへ滑る。
泥に足を取られながら相手を蹴り離し、なんとか距離を作った。
「俺の『探索強化』が……完全に死んでる!」
本来なら敵の急所も次の動きも読めるのに、嵐の気配がノイズになって、何も視えない。
「どこから来るかすら分からねえ……!」
「うわっ、足が抜けない!」
すぐ後ろで、リリが泥に脚を取られてもがいていた。
「きゃああっ! お気に入りの靴がドロドロよ!」
「靴より自分の心配しろ! お前にそこで死なれたら寝覚めが悪いんだよ!」
舌打ちしつつ、片手でリリの襟首を引き寄せ、横から来た刃を払う。見捨てて逃げたいのは山々だが、目の前で死なれると後味が悪い。それだけだ。
『でも、見えん相手はよう燃やせんやろ? 火は風に弱いんや』
ストムの声が、嘲笑うように降ってくる。
「うっさいわ! お前ごと燃やしたるわ!」
霧の奥でゼルが吠え、やけくそで天に炎を噴き上げた。
が、紅蓮の炎は突風に薙ぎ払われ、火花ひとつ残さず掻き消える。
「……あれ? 火力出えへん。やっぱさっき飯食い損ねたからや、腹が」
「この状況で燃費の話してる場合か! どのみち風で消えてんだよ!」




