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魔王軍倒産しました。〜領地は絶賛再建中・勇者は絶賛就職中〜  作者: 瀬大
第10話 マオリョー、宣戦布告されます
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マオリョー、宣戦布告されます④ もう片付いた、だと?


『終わったわ。つまらない連中ね』

西の方角から、凍てつくようなアイシスの声だけが、風に乗って届く。

「もう片付いたのかよ、早すぎだろ!」

俺は西へ叫んだ。

「百人いたんだぞ!? なんでそんな涼しい声してんだよ!」

『百ごとき、わらわが歩く速さで凍っていくだけよ。退屈で欠伸が出たわ』

「歩いただけで百人凍る奴が、なんで正門のこっちは手伝ってくれねえんだ!」

『嫌よ。そちらまで足を運ぶほどの価値、あの雑魚どもにないもの』

アイシスの声は、どこまでも涼しい。

『近くに来た不届き者だけ、ついでに凍らせてやる。それがわらわの流儀。雑魚を追いかけ回すなんて、女王のすることじゃないわ』

「強さの使い方がいちいち殿様なんだよ! 出張サービスはやってねえのか!」


「ずるいわー! アイシスばっか敵がおって!」

正門で俺の隣に陣取っていたゼルが、地団駄を踏んだ。

「こっちはまだ一匹も来てへん! 早よ来い、燃やしたくてうずうずしとるんや!」

「贅沢な悩みだな! じきにこっちにも百人来る、それまで頭冷やして待ってろ!」

「あかん、待っとる間に腹減ってきた」

ゼルが急にしゃがみ込んだ。

「なあおっちゃん、なんか食うもんない? このままやと、いざ百人来ても弱火の俺しか出せんで」

「戦いの直前に燃料切れ起こすな! お前の火力、燃費が悪すぎんだよ!」

「失礼な。強い炎ほど薪が要る。これは物理や」

「いっちょ前に理屈つけんな! 要は腹ペコだと弱いってだけだろ!」


『暑苦しいわね。チビ、その薄汚い火をしまいなさい』

西から、アイシスの冷たい声が飛んでくる。

「誰がチビやねん! そっちこそ引っ込んどけ、一瞬で凍らせ……ちゃう、燃やしたるわ!」

「言い間違いで自分の手の内ばらすな!」

俺はゼルの頭を小突いた。


チャプ……チャプ……。

足元から、不自然な水音が聞こえ始めた。


「……おい。なんか足元、水増えてねえか?」

見ると、水かさがもうくるぶしまで来ている。

振り返ると、ミィナがお盆を抱えて、うっとりと微笑んでいた。


「ふふっ。ご安心ください、勇者様」

「その『ご安心ください』が一番安心できねえんだよ! 何する気だ!」

「外の不浄な輩が一歩も入れないよう、この城ごと、清らかな水底へ沈めて差し上げます」

「沈めるな!! ……いや待て、水堀みたいに城の周りだけ深くすりゃ、敵は近づけなく……」

言いかけて、足首まで上がってきた水位に気づく。

「ならねえ! 城ごとだろ! 中にいる俺らが真っ先に沈むやつだろそれ!」

「大丈夫です。沈むときは、皆さんご一緒に」

「誰も一緒に沈みたかねえんだよ! 道連れの発想やめろ!」


『やめなさいミィナ! 西まで水が来てるわ! わらわは湿気が大嫌いなのよ!』

西から、アイシスの焦った声が響く。

「氷の女王が湿気にビビってどうすんだ! ……っていうか俺ももう膝まで来てる、いいから水止めろミィナ!」


その横で、俺の足元の影が、ぐにゃぐにゃと形を変え始めた。

影が手の形になってバツ印を作ったり、空を指さしたり、犬や狐の影絵を作ってパタパタ動かしたりしている。動きだけは、やけに堂々として自信に満ちていた。


「……お前、今ものすごく重要なことを完璧に伝え切った顔してるけど」

俺は影を見下ろした。

「翻訳のゼノさんがいねえと、一ミリも分かんねえんだわ。影絵しりとりにしか見えねえ」

影が「なぜ伝わらない!?」とでも言いたげに、わなわなと震えた。

「その理不尽そうな震え方やめろ! 俺が悪いみたいだろ!」


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