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魔王軍倒産しました。〜領地は絶賛再建中・勇者は絶賛就職中〜  作者: 瀬大
第10話 マオリョー、宣戦布告されます
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マオリョー、宣戦布告されます③ 数だけは、立派


「……数だけは立派だな」

俺は門の隙間から外を窺った。

百人とまともにやり合うのは、どう考えても割に合わない。こちとら無給だ。命を張る義理も、安い。

「待てよ……こいつら、所詮は金で雇われてるだけだよな?」

打算のスイッチが、カチッと入った。


俺は大きく一歩、門の前に進み出た。

「おーい、そこの諸君!」

精一杯、雇用主らしい鷹揚な笑みを作る。

「西の商会にいくらで雇われてるか知らねえが、うちに来ねえか? 今の時給に、ぐっと色をつけて雇ってやるぞ!」


敵の集団がざわめいた。

「マジで!?」

先頭の男が身を乗り出してくる。

「兄ちゃん、本当に上げてくれるんか!? で、うちよりいくら出してくれるんだ?」


「……」

俺は硬直した。

いくら出せる――?

会社の黒字は、とっくに温泉旅行で溶けて消えた。金庫には銅貨一枚ない。俺自身の財布も、例の水売り騒動で樽代に全財産をつぎ込んだ挙句、あの馬鹿が勝手に刷った等身大ポスター代で溶けて以来、ずっとすっからかんだ。

つまり、俺が出せる額は。

「……」

ゼロだ。一円も出せない。


「……えーと、そこは、ほら」

俺は目を泳がせた。

「……や、やりがい、とか?」


「は?」

敵の男が、ポカンと口を開けた。

「やりがい……? 兄ちゃん、金は?」

「金は……出せない」

「一円も!?」

敵の集団から、一斉に失笑が漏れた。

「なんやそりゃ! お前んとこのほうが、よっぽどブラックやんけ!」

「金もねえのに引き抜こうとすんな! この貧乏会社が!」


「……たしかに」

思わず、深く頷いてしまった。無給、住み込み、命がけ、上司は決戦の朝に書き置き一枚でトンズラ。どう転んでも、ど真ん中の超ブラックだ。

「――って、敵に労働環境の心配されてる場合か!」

俺は慌てて首を振り、剣を引き抜いた。

「うるせえ! こっちが一番わかってんだよ、わざわざ言葉にすんな! ……ああもう、こうなりゃやるしかねえだろ!」


「おお、ええ啖呵やんけ、おっちゃん!」

ゼルが両手に炎を躍らせ、牙を剥いて笑った。

「腹は減っとるけど、その心意気に免じて、三割を四割に増やして燃やしたるわー!」

「焼け石みたいな増量だな、それ!」


背後の城からは、気だるげな冷気と、不穏な水音が漂ってくる。

やる気のない女王と、慈悲深い殺意の精霊。こんな連中を率いて、俺は二百の軍勢と向き合うことになった。

マオリョーの存亡をかけた戦いが、最悪の布陣で幕を開ける。


「くそっ! なにが『お前んとこのほうがブラック』だ!」

俺は真っ赤になった顔を隠すように、剣を構え直した。

「事実だから余計に腹立つんだよ! 無駄に的確な人事評価しやがって!」


「ふふん! 気にしないの、新入社員!」

リリが丸メガネをクイッと押し上げ、ドヤ顔で胸を反らす。

「あんな連中の挑発、エリートのわたしには通用しないわ!」

「お前は一回も挑発されてねえだろ! 全部俺に飛んできてんだよ!」

俺は即座に吠えた。

「一番安全な俺の後ろに陣取ってドヤ顔すんな!」


正門の向こうには、武器を構えた百人の傭兵たちがズラリと並んでいる。

いつ一斉に襲いかかってきてもおかしくない――その時だった。


ピキキキキッ……!

城の西側から、耳を劈くような凄まじい氷結音が響き渡った。


「……おい。探索の感覚で、西の百人がまとめて凍りついてくのが分かるぞ。もう半分も残ってねえ」

俺は思わず目を丸くした。


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