マオリョー、宣戦布告されます③ 数だけは、立派
「……数だけは立派だな」
俺は門の隙間から外を窺った。
百人とまともにやり合うのは、どう考えても割に合わない。こちとら無給だ。命を張る義理も、安い。
「待てよ……こいつら、所詮は金で雇われてるだけだよな?」
打算のスイッチが、カチッと入った。
俺は大きく一歩、門の前に進み出た。
「おーい、そこの諸君!」
精一杯、雇用主らしい鷹揚な笑みを作る。
「西の商会にいくらで雇われてるか知らねえが、うちに来ねえか? 今の時給に、ぐっと色をつけて雇ってやるぞ!」
敵の集団がざわめいた。
「マジで!?」
先頭の男が身を乗り出してくる。
「兄ちゃん、本当に上げてくれるんか!? で、うちよりいくら出してくれるんだ?」
「……」
俺は硬直した。
いくら出せる――?
会社の黒字は、とっくに温泉旅行で溶けて消えた。金庫には銅貨一枚ない。俺自身の財布も、例の水売り騒動で樽代に全財産をつぎ込んだ挙句、あの馬鹿が勝手に刷った等身大ポスター代で溶けて以来、ずっとすっからかんだ。
つまり、俺が出せる額は。
「……」
ゼロだ。一円も出せない。
「……えーと、そこは、ほら」
俺は目を泳がせた。
「……や、やりがい、とか?」
「は?」
敵の男が、ポカンと口を開けた。
「やりがい……? 兄ちゃん、金は?」
「金は……出せない」
「一円も!?」
敵の集団から、一斉に失笑が漏れた。
「なんやそりゃ! お前んとこのほうが、よっぽどブラックやんけ!」
「金もねえのに引き抜こうとすんな! この貧乏会社が!」
「……たしかに」
思わず、深く頷いてしまった。無給、住み込み、命がけ、上司は決戦の朝に書き置き一枚でトンズラ。どう転んでも、ど真ん中の超ブラックだ。
「――って、敵に労働環境の心配されてる場合か!」
俺は慌てて首を振り、剣を引き抜いた。
「うるせえ! こっちが一番わかってんだよ、わざわざ言葉にすんな! ……ああもう、こうなりゃやるしかねえだろ!」
「おお、ええ啖呵やんけ、おっちゃん!」
ゼルが両手に炎を躍らせ、牙を剥いて笑った。
「腹は減っとるけど、その心意気に免じて、三割を四割に増やして燃やしたるわー!」
「焼け石みたいな増量だな、それ!」
背後の城からは、気だるげな冷気と、不穏な水音が漂ってくる。
やる気のない女王と、慈悲深い殺意の精霊。こんな連中を率いて、俺は二百の軍勢と向き合うことになった。
マオリョーの存亡をかけた戦いが、最悪の布陣で幕を開ける。
「くそっ! なにが『お前んとこのほうがブラック』だ!」
俺は真っ赤になった顔を隠すように、剣を構え直した。
「事実だから余計に腹立つんだよ! 無駄に的確な人事評価しやがって!」
「ふふん! 気にしないの、新入社員!」
リリが丸メガネをクイッと押し上げ、ドヤ顔で胸を反らす。
「あんな連中の挑発、エリートのわたしには通用しないわ!」
「お前は一回も挑発されてねえだろ! 全部俺に飛んできてんだよ!」
俺は即座に吠えた。
「一番安全な俺の後ろに陣取ってドヤ顔すんな!」
正門の向こうには、武器を構えた百人の傭兵たちがズラリと並んでいる。
いつ一斉に襲いかかってきてもおかしくない――その時だった。
ピキキキキッ……!
城の西側から、耳を劈くような凄まじい氷結音が響き渡った。
「……おい。探索の感覚で、西の百人がまとめて凍りついてくのが分かるぞ。もう半分も残ってねえ」
俺は思わず目を丸くした。




