マオリョー、宣戦布告されます② 女王は、片手間
「ゼノさんが夜のうちに、火急の用事でどっか飛んでったってことか? こんな決戦の朝に!?」
ノクテが、再びこくりと頷く。
「ルシフは予告通りの巡礼サボり、ゼノさんは無言で雲隠れ……上が二人とも、一番肝心な時にいねえじゃねえか!」
俺は崩れ落ちそうになった。
「ふふん! 慌てないの、新入社員!」
リリが丸メガネを押し上げ、ドヤ顔で胸を反らした。
「こういう時こそ、人事の腕の見せ所よ。社員一人ひとりの能力を正しく評価し、最適な配置に落とし込む。適材適所――組織運営の、いろはの『い』よ」
「お、おう。それっぽいこと言うじゃねえか」
「いくわよ。まず、火属性のゼルは……燃焼特性を考慮して、東棟ね!」
「待て待て、なんで東なんだ!?」
「東棟は朝日が一番当たるでしょう? 火の力は陽の気で高まる。だから火属性は東。完璧な配置よ」
「占いか! しかも敵、東から一人も来ねえぞ!」
俺は探索の感覚を頼りに、ぴしゃりと言った。
「敵が来るのは西と正門の北だけ。お前の初手、誰も来ない空き地に火力を一個まるまる遊ばせてんだよ!」
「えっ……て、敵がどこから来るかは、その、現場の細かい話で……」
リリの丸メガネが、みるみる曇っていく。
「人事は大局を見るものなの! 朝日と属性の相性という、もっと本質的な――」
「その本質、誰も得しねえんだよ! 敵の位置っていう一番でけえ現場を丸無視すんな!」
こいつ、書類の上だけで完璧な組織図を引いて、肝心の戦場の地図は一度も見てやがらねえ。
「配置は俺が決める。お前は黙って書類でも眺めてろ」
俺は探索で読んだ敵の位置を頭に並べ、てきぱきと割り振っていく。
「アイシスは西。百人来てる」
「西? ……まあ、わらわの庭先を土足で荒らされるのも業腹ね。片手間に凍らせてやるわ」
アイシスは気だるげに西へ向かった。あくまで「本気ではなく庭の掃除」という体裁を崩さないまま。
「ゼルは俺と正門だ。一番敵が多い。好きなだけ暴れろ」
「おお、ええやんけ! ……あ、その前に飯くれ。腹減ってると本気の火ぃ出えへんねん」
「決戦前に出前取るな! ただし味方は焼くなよ、火加減を百回考えてから撃て!」
「腹ペコやから、どうせ三割くらいしか出えへんし大丈夫やって」
「その三割が一番信用ならねえんだよ!」
「ミィナは城の中で待機。怪我人の手当て。外に出て"浄化"すんなよ、絶対にだ」
「承知しました。では傷ついた方々を、苦しみのない安らかな水底へ――」
「手当ては治すことだろ! なんで治療の最終形態が水葬なんだよ!」
最後に、足元でノクテが影をぐにゃぐにゃと動かし、何かを必死に伝えようとしていた。本人はさも完璧に説明し切ったという顔で胸を張っている。
「悪いノクテ、翻訳のゼノさんがいねえとお前の指示は一ミリも分かんねえんだ。とりあえず影で城の守りを手伝っといてくれ、いい感じに」
ノクテは無言のまま、不本意そうに肩をすくめた。
「で? 俺とポンコツ人事と燃費の悪い火炎魔は正門だな?」
「燃費の悪い言うな! ゼル様や!」
ゼルが真っ先に駆け出していく。
「人事をポンコツ呼ばわりしないでもらえる!? わたしたちは正門で、エリートの実力をびしっと見せつけるのよ!」
リリも胸を張ってついていった。
俺たちは城の正門へと向かった。
半壊の門の向こうには、武器を手にしたゴロツキどもがズラリと並んでいる。
西の商会が雇った派遣の傭兵たちだ。




