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魔王軍倒産しました。〜領地は絶賛再建中・勇者は絶賛就職中〜  作者: 瀬大
第10話 マオリョー、宣戦布告されます
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マオリョー、宣戦布告されます⑥ 斬っても、届かない


斬る。躱す。また斬る。

だが一人沈めても、霧の奥から二人、三人と湧いてくる。

泥がブーツを吸って、踏み込みのたびに体が遅れる。じりっ、じりっと、正門の内側へ押し戻されていく。

本音はとっくに決まっている。無給でこの泥沼、どう計算しても割に合わない。さっさと逃げたい。ただ、ここで俺だけ逃げたら後で何を言われるか分からない。それが面倒で、仕方なく剣を振っているだけだ。


「アイシス! そっちはどうだ、手伝えねえのか!」

西へ叫ぶと、嵐の向こうから不機嫌な声が返ってきた。

『冷気を飛ばしてはいるのだけど、この風が全部かっさらっていくのよ。届かないわ』

「届かないって……お前、こっち来て直接やればいいだろ!」

『嫌よ。わらわが泥の中をわざわざ歩くなんて、無様な真似ができるわけないでしょう。品位の問題よ』

「こんな時まで品位優先か! 強さが一歩も動かねえ置物になってんだよ!」

最強の女王は、自分の足場が汚れるのを嫌って、西から一歩も出てこない。


「勇者様ぁ! この泥、わたしのお水で全部洗い流しましょうか!?」

霧の奥から、今度はミィナののんきな声。

「やめろ! この暴風で水出したら、泥ごと俺らが流される!」

「ご安心を。汚れも、敵も、皆さんごと洗い清めれば、すべて等しく綺麗になります」

「俺らを"汚れ"に含めるな! お前の中の大掃除、巻き込まれる側は全員死ぬんだよ!」


足元で、ぴぃが濁流に流されかけて「ぴぃぃ!」と鳴いた。

「……あっ、ぴぃ!」

リリがとっさに指先をかざす。丸メガネの奥の瞳孔が、紫の蝙蝠模様に光った。

ふわ、と手のひらほどの影が伸び、ぴぃをすくい上げて俺の胸元へ押し込む。

「ぴっ」

「……ナイス。お前、たまにやるじゃねえか」

「でしょう! エリートですもの!」

「その力でなんで百人は止められねえんだよ」

言い合う間にも横から槍。俺はリリごと身を捻って躱した。


「きゃっ……あ、危ないわ新入社員!」

俺の腕にしがみついたリリが、なぜかドヤ顔で言う。

「狙われてたのはどう見てもお前だろ! 庇ってやった側が、なんで心配される側にされてんだ!」

「むっ、エリートだって戦えるわ! 見てなさい!」

リリが瞳孔の色をくるくる切り替え、迫る傭兵へ指先を向ける。

影のビンタ。リンゴ一個ぶんの冷気。数滴の目潰し。線香花火ほどの火花。

「うわっ」「冷たっ」「目がっ」「髪焦げた!」

傭兵たちが、てんでにのけぞった。

「お……っ、地味に効いてる!?」

「でしょう! 高度な状態異常の複合付与よ!」

「嫌がらせの才能だけは一級品だな! ……って、ぜんっぜん倒れてねえ! 全員すぐ立ち上がってんだろ!」

「だ、だってこれ以上の出力は、その……エリートは省エネだから……!」

「省エネで百人は捌けねえんだよ!」


斬っても斬っても、霧が新しい影を吐き出す。息はとっくに上がっていた。

この錆びたなまくら剣でも、急所さえ見えれば本気の一閃で薙ぎ払える。だが肝心の探索が死んでる今、勘で本気を出したところで三日は寝込むだけ。そんな余裕、この乱戦のどこにもない。


「くそっ……殴る相手が、ろくに見えねえ!」

俺は泥水を吐き捨てた。

「ゼルもアイシスもバケモンみてえに強いのに、それが一個も噛み合ってねえじゃねえか!」


『せやから言うたやろ?』

ストムの薄笑いが、空から降ってくる。

『どんなに一人ひとりが強うても、バラバラにされたら、ただの烏合の衆や』


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