マオリョー、宣戦布告されます⑦ 全員、城門まで退け
「そ、そうよ、わたしたちは烏合の衆なんかじゃ……完璧なアライアンスで、しなじーを生み出す、最強のたーすくふぉーすなんだからぁぁ!」
泥にしゃがみ込んだリリが、半泣きで横文字を撒き散らす。
「追い詰められて横文字吐くな! その意識高い言葉、今まで一個でも役に立ったことあるか!?」
「おっちゃん、後ろや!」
ゼルの叫びと同時に、背後から複数の足音。
振り向きざまに薙ぐが、泥に足を滑らせ、片膝が濁流に沈んだ。冷たい泥水が、じわりと体温を奪っていく。
……強いのに、噛み合わない。
一人ひとりは圧倒的なのに、嵐ひとつで手足をもがれている。このまま意地を張れば、全滅だ。
「だーっ、もう無理! 全員、城門の中まで退くぞ!」
俺は泥から足を引っこ抜き、なりふり構わず叫んだ。
こんなとこで無給のまま犬死にとか、どう考えても割に合わない。意地より命、見栄より撤退。逃げの一手だって立派な戦略だ。
……まあ、ただで追い返されてやるほど、お人好しでもねえけどな。
「ほら、ぐずぐずすんな! 城門の中まで引くぞ!」
俺は泥まみれの剣を振り回した。
死ぬ気はさらさらないが、こいつらを置いて一人で逃げると後で何を言われるか分からない。仕方なく怒鳴る。
「嫌よ! エリートの辞書に撤退の二文字はないわ!」
リリが地団駄を踏んで駄々をこねる。
「じゃあ今すぐ辞書に書き足せ! 撤退、てき、たい!」
俺はリリの首根っこを掴んで引きずった。
「面子で腹は膨れねえし、見栄じゃ命も守れねえんだよ!」
「離せや! 俺はまだ誰も丸焼きにしてへんぞ!」
ゼルが足をばたつかせる。
「腹は減ったけど、まだ一発くらいは……」
「その一発が出る前に嵐で消えるだろ! さっきから火種にもなってねえ!」
俺はゼルの背中を蹴って門へ押し込んだ。
『……わらわに命令するな。足元が泥で汚れて、ただでさえ不愉快なのよ』
西から、アイシスの不機嫌な声。
「その不愉快ごと中に下がれ! 泥を嫌うなら屋根の下が一番だろ!」
「ミィナも突っ立ってないで下がれ! 浄化はいい、今はいい!」
「ですが、この泥を清めれば足場も――」
「後でいい! お前が今やると確実に城門ごと流すだろ!」
影の中でノクテが、急げとばかりに激しく手招きしている。
西で戦っていたアイシスも合流し、俺たちは転がるように半壊の城門の内側へ滑り込んだ。
分厚い木の扉を、俺とゼルで無理やり閉ざす。
ドスンッ!
「……はぁっ、はぁっ……!」
俺は扉に背中を預けて、ずるずるとへたり込んだ。
「死ぬかと思った……マジで二度とごめんだぞ、こんなの」
その時だった。
城を包み込んでいた暴風雨が、嘘のようにピタリと止んだ。
「……あ?」
顔を上げると、真っ暗だった雷雲がスーッと晴れ、青空が顔を出す。
城門の隙間から覗くと、傭兵たちも困惑して立ち尽くしていた。
『いやぁ、泥んこ遊びもこのへんにしとこか』
空から、飄々とした声。
見上げると、黒い翼を持った天狗のストムが宙に浮いている。
「ストム……!」
俺は剣を握り直した。
『あんたらも、時給分は働いたやろ。今日はもう帰るで』
ストムが傭兵たちに笑いかける。
「ふざけんな! 全身ドロドロじゃねえか!」
傭兵の一人が悪態をついた。
「これでボーナス無しなら割に合わねえ! お前んとこの商会も大概ブラックだぞ!」




