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魔王軍倒産しました。〜領地は絶賛再建中・勇者は絶賛就職中〜  作者: 瀬大
第10話 マオリョー、宣戦布告されます
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マオリョー、宣戦布告されます⑧ あっちも、ブラックだ


「ほら見ろ、あっちもブラックじゃねえか!」

俺は思わずツッコんだ。

「同情するわ……金払いがいいフリして現場に無茶振る、どこも一緒だな!」

「敵に労働者として共感すんな新入社員!」

リリが横から突っ込んできた。

「お前は黙って制服の泥でも気にしてろ!」


『ふふっ。まあ、ええやないの』

ストムは薄く笑ったまま、視線を城門の方へ向けた。

その目が、俺の横で息を切らしているリリでピタリと止まる。


『……』

ストムの細い目が、わずかに見開かれた。

『……やっぱり、なんや懐かしいなぁ』


「えっ……? わたし?」

リリがポカンと口を開ける。

「わたし、顔は広いのよ! どこかの面接で会ったかしら?」

「人材集めの記憶から探るな!」

俺はツッコんだ。

「おい天狗! てめえ、リリの知り合いか!?」


ストムは一瞬だけ真顔になり、すぐに薄笑いに戻った。

『……いや。気のせいやろ。気にせんといて』

葉団扇を、ひと扇ぎ。

『ほな、また明日な。次は本気で更地にさせてもらうで』


ストムが羽ばたくと、突風とともにその姿は消え去った。

残された傭兵たちも、「割に合わねえ」とぼやきながら撤退していく。


「……行ったか」

俺は大きく息を吐き出した。

静寂が戻った城内に、泥だらけの荒い息遣いだけが響く。


「あーあ、わたしの完璧な制服がドロドロよ! エリートの威厳が台無し、うわーん!」

リリが涙目でスカートを摘み上げた。

「威厳なんて最初からねえだろ」

俺は力なく突っ伏した。


「不愉快の極みね。泥まみれなど、わらわの趣味ではないわ」

アイシスが指先から冷気を出し、服の泥を凍らせて落とそうとする。

「アイシス様! そんな乱暴な、お肌に障ります! ここはわたしにお任せを!」

ミィナがお盆を放り出し、両手をかざした。

嵐はもう去っている。彼女の浄化を邪魔する暴風は、どこにもない。

「澄み渡れ――」

ミィナの足元から清らかな水がふわりと広がり、城を覆っていた泥を音もなく洗い流していく。

泥沼が、みるみる元の石畳に戻った。俺たちの泥まみれの体まで、温かい水に包まれてさっぱりと清められる。

「お、おお……すげえ。ちゃんと役に立つと、こんなに頼もしいのか……」

「ふふっ。当然です。これがわたしの本来のお仕事ですから」

ミィナが珍しく得意げに微笑む。

「ただ、ついでに皆さんを、このまま安らかな水底へ清めて差し上げ――」

「最後に本性出すな! 綺麗になったとこで止まれ、それ以上は溺死だ!」


泥は綺麗に流れたが、俺の足元では、ぴぃが濡れた羽根をぷるぷる震わせていた。


ひとしきり騒いで、ふっと全員が黙り込む。

泥が消えて綺麗になった中庭に、妙な静けさが落ちた。

さっぱりした体とは裏腹に、胸の奥に、勝った時のあの感じがまるでない。

ノクテの影が、そっと俺の肩をポンポンと叩いた。


「……慰めんな。惨めになるだろ」

俺は自嘲気味に笑った。


誰も負けてはいない。怪我人もいないし、城も壊されていない。

アイシスやゼルが本気を出せば、百人のゴロツキなんて一瞬で消し飛ぶ。個々の力は、間違いなく圧倒的だ。

なのに。

「……勝てなかったな」

俺はぽつりと呟いた。


俺の探索も、アイシスの氷も、ゼルの炎も。あの嵐ひとつで、てんでばらばらに分断された。力が届かない。連携が取れない。


「アイシスがあんなに強いのに、なんで勝てなかったか分かるか」

俺はリリを見た。

「一人がどんなに強くても、ばらばらだと、嵐ひとつで飲まれるんだよ」


どんなに規格外の力でも、個のままじゃ限界がある。あの気象を破るには、もっと根本的な何かが要る。


「……繋ぐしかねえ」

俺はボソッと呟いた。

「え? なに? 新入社員、なんか言った?」

リリがこちらを見る。


「お前のポンコツな契約魔法だよ」

俺はリリを真っ直ぐ見た。

「こいつらの力を、一人ずつ使うんじゃなくて……まとめて一つに繋ぎ合わせる方法は、ねえのか?」

「えっ……つ、繋ぎ合わせる?」

リリが目を丸くする。


「ああ。ばらばらじゃ、あの嵐には勝てねえ。全員の力を一つにする。……その繋ぎ役は、俺がやる」


「ちょっと、急に主人公みたいなこと言わないでよ! 調子狂うじゃない!」

「主人公なもんか! 負けっ放しでタダ働きとか、俺の打算が許さねえだけだ!」

俺は叫び返した。

「明日は絶対勝つ! 勝って、こき使われたぶんの給料、耳揃えてふんだくってやるんだよ!」


本日の収支。

収入、ゼロ。

支出、理不尽な嵐に削られた体力と、ぼろぼろの門の修繕費。

差し引き――勝てる力はあるのに、勝てなかった。


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