マオリョー、繋ぎます① 昨日の、雪辱
「来たぞ!」
俺は半壊した城門の隙間から外を睨みつけ、げんなりと肩を落とした。
「……昨日と同じ、正面から百人。それと、あの天狗。はあ、マジで帰りてえ」
俺の契約魔法『探索強化』が、接近してくる気配を正確に捉えていた。
まだストムの嵐が本格化していない今なら、敵の数も位置もはっきりと読める。
城外の対象であれば、俺の索敵は完璧に機能するのだ。
「ふふん! 昨日の雪辱を晴らす時が来たわね!」
リリが胸を反らして進み出てきた。
「エリート人事のわたしが、みんなの力を完璧に繋ぎ合わせてあげるわ! ほら、この不敵なドヤ顔を見なさい!」
リリは丸メガネを押し上げ、薄い胸をグッと張った。
「張る胸がほとんどねえだろ。ドヤ顔だけは一丁前だな」
「失礼ね! これは威厳よ!」
「よし、さっさと片付けるぞ、リリ!」
俺は剣を抜き放ち、気だるげに肩を回した。
「正直あの天狗とまた一日中どろんこ遊びとか、考えただけでうんざりだ。今日は一発でケリつけて、とっとと飯にしてえんだよ」
そのためには、昨日できなかった『繋ぐ』をやるしかない。打算的な結論だった。
「……えっ、い、いきなり繋ぐの!?」
俺の言葉に、リリが肩を揺らした。
「ち、ちょっと待って! 繋ぐのはまだ心の準備が……!」
「昨日自分からハブになるって言った俺に乗っかっただろうが!」
俺は間髪入れずにツッコんだ。
「なんで本番になって尻込みしてんだよ! ドヤ顔から一瞬でビビるな! まさか繋げないのか!?」
「つ、繋げるわよ! エリートだもの!」
リリが慌てて目を泳がせ、言い訳を並べ始める。
「でも、いきなり複数人を合体させるなんてリスクが高いわ! まずは一人ずつ『束ねる』ところから始めるのが定石よ!」
「要するに自信がねえんだな!」
俺は深いため息を吐いた。
「まあいい! とにかくあの百人をなんとかしないと、天狗に集中できねえ!」
「……なら、わらわが出よう」
冷ややかな声とともに、アイシスがヒールを鳴らして進み出た。
「あの雑魚ども、昨日から視界に入って不愉快だったのよ。わらわの氷で、永遠のオブジェにしてやるわ」
「待て待て、アイシス! その氷、ここからじゃ届かねえだろ!」
俺は慌ててアイシスを制した。
「お前の冷気、近くの奴は一瞬で凍らせるくせに、離れた的にはからっきしじゃねえか! 昨日だって西から正門のこっちまで全然届いてなかったぞ!?」
門の外、距離を置いて構える百人を、俺は剣で指した。
「あいつら門の外で固まってんだよ。素のお前じゃ端まで届かねえ。で、取りこぼした分が俺んとこに突っ込んでくるわけだ。冗談じゃねえ、俺が削られる! リリ、アイシス束ねて射程伸ばせ! 一発で全部やれば俺が働かずに済む!」
「ふん……まあいいわ。癪だけれど、間合いを埋めるのに人事の力を借りてやる。新入りにしては、頭が回るじゃない」
アイシスが鼻を鳴らす。
「任せなさい!」
リリが薄い胸を張り、すっと右手を掲げた。
だが、その時にはもう、凍てつく前の傭兵たちが雄叫びを上げて突っ込んできていた。
「げっ、詠唱が間に合ってねえ……おいゼル、お前ちょっと前出て足止めしてこい!」
「俺は丸焼き担当やろ。地味な足止めはおっちゃんの仕事や」
「なんでだよ!」
押し付けようとして、あっさり突き返された。くそ、こいつら肝心な時だけ分業意識が高い。
「……ちくしょう、なんで無給の新入りが命がけの盾役なんだよ。労災も出ねえぞこれ」
ぼやきながらも、やらなきゃ全員凍る前に俺が刺される。仕方なく、最小限の動きで前に出た。
先頭の一人は正面からやり合わず、足を払って勝手に転ばせる。二人目の槍は受け止めず腹で受け流して逸らす。とにかく体力を使わない、当たらない、それだけを徹底する。探索で急所が読めるから、避けるのだけは得意なのだ。
「うわ、囲まれた囲まれた! 無理無理、こんなの一人で捌けるか!」
泣き言を上げた、その瞬間。地面に広がった俺の影から、いくつもの黒い手が音もなく伸び上がった。
殺到した傭兵たちの足首を、影の手がぐにゃりと掴んで地面に縫い止める。たたらを踏んだ敵の隙に、俺はちゃっかり後ろから剣を入れた。
「っ、ノクテか! ナイス、そうそう、お前が縫い止めてくれりゃ俺は安全にトドメだけ刺せる! 最高の分業だな!」
誰の声もしない。代わりに、足元の影がぐっと親指を立てるような形を作った。
要するに、危ない仕事は影に任せて、俺はおいしいところだけ頂く。我ながらいい連携だ。
「リリ、まだかよ! ノクテに乗っかってもこの人数、長くは保たねえぞ!」




