マオリョー、繋ぎます② 結ぶ、いま結ぶ
「焦らせないで! いま結ぶんだから……!」
リリが構えを取る。
「マオリョー人事担当リリの名において――いくわよ。束ねるわ、氷の女王!」
応、と答えるように、アイシスの足元から白い冷気が音もなく這い上がる。
「わらわの氷を溶かしたのは、お前たちの馬鹿げた温もりよ」
凍てつく吐息が、声に乗ってきらめいた。
「ならば此度は――その温もりごと、凍てつかせてやる」
リリの白銀の髪が、ふわりと重力を失い、毛先から氷晶色へ染まっていく。
「結んだ縁は、解けぬ氷へ」
丸メガネの奥で、瞳孔が雪の結晶の形に変わった。
「閉ざした心は、永久の檻へ」
光の粒子が舞い、リリの事務制服が、氷の女王を思わせる純白のドレスへと再構成されていく。
「冷たく、深く、ひとつに束ねる――」
アイシスとリリの声が、ぴたりと重なった。
「「凍てつく牙よ、すべてを閉ざせ」」
俺は最後の一人を蹴り倒し、後ろへ跳んで射線から逃れた。
「いいぞ、今だ! ぶちかませ!」
二人の冷気が、渦を巻いて一つに重なった。
「「冷酷無比!!」」
声が重なった瞬間。
ゴッ――と空気そのものが凍りついた。
アイシスを中心に、地を這う冷気が放射状に広がる。泥濘が瞬く間に白い霜に覆われ、降りかけた雨粒が空中でびたりと止まって氷の粒に変わった。
パキキキキキィィィンッ!!
逃げ場を失った冷気の波が、正面の敵陣を端から呑み込んでいく。
「な、なんやこの冷た……!」
先頭の傭兵が悲鳴を上げる間もない。足元から這い上がった氷が脛、腰、胸を駆け上がり、首まで一息に固めてしまう。百人が、雄叫びの形に口を開けたまま、一斉に氷像と化した。
一瞬、戦場が静まり返った。
「うわっ……アイシスのおばはん、つよっ!?」
ゼルが牙を剥いたまま、ぽかんと口を開ける。
「あんな数、まばたきする間に全部氷やんけ!」
「さすがはアイシス様……! なんてお美しく無慈悲な絶景……!」
ミィナがうっとりと両手を組み、頬を染めて見惚れている。
足元では、ノクテの影が拍手するようにぱちぱちと手を打ち鳴らした。
「すげえ……!」
俺も思わず息を呑んだ。
「あの百人を、声を上げる間もなく一発で全員オブジェかよ……!」
「ふん。近くの的なら、束ねなくても一瞬で凍らせられるのだけれど」
アイシスが退屈そうに鼻を鳴らした。
「……まあ、あそこまで離れた連中を端まで凍らせるとなると、確かにわらわ一人では届かなかったでしょうね。人事の力で間合いが伸びたことだけは、認めてあげるわ」
「ちょっと、それだけ!? もっと素直に褒めなさいよ!」
リリが変身を解きながら抗議する。
「わたしのエリートなサポートがあってこその、その飛距離だったじゃない!」
「喧嘩すんな! 仲間割れしてる場合か!」
俺は二人を制した。
「雑魚は片付いた……けど、結局あの一番面倒くさい天狗が丸々残ってんだよなぁ。はあ、ここからが本番とか勘弁してくれ」
空を見上げると、ストムが葉団扇を扇ぎながら宙に浮いていた。
『……ほぉ』
仲間が全滅したというのに、ストムの声には焦りがない。だが、その細い目が、凍りついた百人の氷像を、ほんの少しだけ見開いて眺めていた。
『あの嬢ちゃん一人の氷やない。人事の小娘が、間合いまで束ねて伸ばしよったか。……へえ、昨日とはちょっと毛色がちゃうな』
ストムは感心したように口笛を吹き、それでもすぐ薄笑いに戻る。
『まあ、わてには関係ないけどな。ええ見世物や』
「次は俺の番や!」
ゼルが牙を剥いて飛び出した。
「おっちゃん、あの天狗、俺が丸焼きにしたるわ! ……あ、でも朝飯抜きやから、本気の火は出えへんかもしれん」
「肝心なとこで燃料不足を申告すんな! せめて気合いで燃やせ!」
「よし、ゼル! 行け!」
俺は叫んだ。
「リリ、今度はゼルを束ねろ! あの余裕ぶった天狗を撃ち落とせ!」
「ええっ、連戦!? エリートでも少しは休ませてほしいんだけど!」
リリが肩で息をしながら泣き言を言う。
「文句言うな! 連続でやれ! 敵が待ってくれるわけねえだろ!」




