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魔王軍倒産しました。〜領地は絶賛再建中・勇者は絶賛就職中〜  作者: 瀬大
第9話 マオリョー、買収されかけます
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マオリョー、買収されかけます⑦ 契約の、抜け道


「それにね、使者さん」

リリが丸メガネをクイッと押し上げ、薄い胸を張って割り込んできた。

「そもそもの話。うちの『あくありうむ』のお水は、都の商会さんと、とっくに独占供給の契約を結んでるの」

「人事と契約のプロであるこのわたしが、横から掻っ攫おうなんて契約違反、見過ごすわけないでしょ? ふんふ〜ん」

「お前、たまにちゃんと仕事してるとこ見せるのずるいな!?」


使者の顔が、怒りと屈辱で真っ赤に染まる。

「……後悔するぞ、人間。我が西の商会に逆らって、ただで済むと思っているのか!」

使者はギリッと歯を鳴らした。

「金で買えないと言うならば……力ずくで奪い取ってやる!」

使者が捨て台詞を吐いて、嵐のように去っていく。


静寂が戻った部屋で、仲間たちが呆然と俺を見ていた。


「……ええと、新入社員?」

リリが恐る恐る聞いてくる。

「今の、ちょっとカッコよかったけど……本当に断っちゃったの? 金貨一万枚」


「……あー! やっちまったぁぁぁぁ!」

俺は床に崩れ落ち、頭を抱えて転げ回った。

「十億円! あれで借金がチャラになって、浮いた金で豪邸が! ステーキがぁぁぁ!」

俺は床をドンドンと叩く。

「なんで俺はあんな啖呵切っちまったんだ! 誰か俺の頭を殴って『お前は間違ってない』って言ってくれ! 明日からまた塩イモ生活確定じゃねえか!」


「ふっ、安心しろ」

ルシフが自信満々に髪をかき上げる。

「俺様がさらにポスターを百万枚刷って、都で売り捌いてやる。ステーキなどすぐそこだ」


「お前は二度とポスター発注すんなぁぁぁ!!」


俺の絶叫が、ボロい応接間に響き渡った。

そのまま俺は、割れた卓の残骸に力なく突っ伏す。十億円も、豪邸も、ステーキも、たった今この手で破り捨てたのだ。


「ふん、泣き言を言うな、貴様」

ルシフが髪をかき上げた。

「俺様の等身大ポスターさえあれば、資金繰りなど造作もないことだ。今なら特別にサイン入りで……」

「だからお前のポスターは小銭にしかならねえって学習しただろ!」

俺は力なく言い返した。

「もういい。誰も俺に構わないでくれ。傷ついた心と胃袋を冷たいイモで癒すから……」


ゴロゴロゴロ……!!


「うわっ!? なんだ今の地響きみたいな雷鳴!?」

顔を上げた瞬間、窓の外が深夜のように真っ暗になった。分厚く禍々しい雷雲が、城の周囲を覆い尽くしている。


ビュオォォォォォッ!!

「ひぃっ!? いきなり大嵐じゃない! 屋根の穴から雨が吹き込んでくるわ!」

リリが金庫を抱えて悲鳴を上げた。

「だ、大事な帳簿が濡れちゃう!」


「おい、待て! この嵐、ただの自然現象じゃねえぞ!」

俺は窓に駆け寄った。

「あからさまに異常だ! 『探索強化』!」

俺は魔法を発動させた。俺の探索なら、城の外にいる敵の距離も数も正確に読めるはずだ。だが。


「なっ……読めねえ!?」

俺は戦慄した。

「気配が乱されて、外の様子が全く分からねえぞ! 俺の探索を完全に無効化するほどの気象操作だと!?」


足元で震えている鶏のマスコット、ぴぃが、嵐の中で一瞬だけピタリと震えを止めた。


『いやぁ、ええ城やなぁ。……半分、崩れとるけど』

嵐の轟音を切り裂き、空から掴みどころのない関西弁が降ってきた。


「誰だ! 姿を見せろ!」

俺が窓の外に怒鳴るが、敵の姿は雷雲に隠れて視えない。


『悪い話やないで? 沈みかけの船、高う買うたるっちゅう話や』

声だけで分かるほどの不気味な余裕。

『……断る? ふふ、面白いなぁ』

『ほな、空に聞いてみよか。――今日の天気は、荒れ模様や』


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