マオリョー、買収されかけます⑥ エリートが、追い返す
「その通りよ新入社員! わたしがビシッと追い返してあげるわ!」
リリが薄い胸を反らしてドヤ顔を決めた。
「いいこと!? わたしたちはマオリョーの誇り高き『すてーくほるだぁ』なのよ!」
リリは破れた日傘を突きつける。
「ステーキを、がっしりホールドして絶対に離さないくらい、ずぶずぶの強い絆で結ばれてるってことよ!」
「ステーキ関係ねえよ!」
俺は全力でツッコんだ。
「ステークホルダーは利害関係者って意味だ! フワフワ説明が限界突破して食欲になっちゃってんじゃねえか!」
「ふんふ〜ん! エリートだからお肉の管理も完璧なのよ!」
「お前が昨日から塩イモしか食ってないせいで脳内が肉に支配されてるだけだろ!」
「ふっ、滑稽だな」
使者が冷酷な声で嘲笑った。
「どいつもこいつも、己の力すらまともに制御できない欠陥品ばかりではないか」
使者は俺たちを見渡す。
「そんな連中のために、君は一生無給のタダ働きを続けるつもりか? さあ早くサインしろ」
足元では、ぴぃが張り詰めた空気も知らんぷりで「ぴぃ」と丸くなっている。
掃き溜め。欠陥品。持て余す頭数。
その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かがプツンと切れた。
『ここ……けっこう、好きなのよ』
昨日の夜、縁側でリリがこぼした言葉が頭をよぎる。
俺は、手の中で震えていた羽ペンを放り投げた。
そして、割れた卓の上に置かれた『マオリョー全権譲渡契約書』を両手で掴んだ。
「……おい新入り。本来、それを破る権限すら、貴様にはないぞ」
いつの間にか背後に立っていたゼノが、低く言った。
「だが――構わん。破れ」
「言われなくても破るんだよ!」
ビリッ。
俺は使者の目の前で、一切の躊躇なく契約書を引き裂いた。
「……なっ!?」
使者が血相を変え、目を剥いて立ち上がる。
「き、貴様、自分が何をしたか分かっているのか!? 金貨一万枚だぞ!?」
「ああ、分かってるよ。元の世界なら十億円の超大金だ」
俺は紙吹雪を使者の顔に向かって投げつけた。
「これがあれば、俺の借金もチャラで一生遊んで暮らせたかもしれない。欲しかったさ」
俺は使者を真正面から睨みつける。
「でもな、断る。この会社は、俺たちの居場所は、金じゃ売らねえ」
「正気か!? その欠陥品どものどこに価値があるというのだ!」
使者が唾を飛ばして叫ぶ。
「その女の浄化能力以外、何も生み出さない無駄な頭数だろうが!」
「無駄じゃねえよ!」
俺は卓をドンッと叩いた。
「お前らが欲しがってる水はな、ミィナ一人の浄化で作ったもんじゃねえんだよ!」
俺は後ろの仲間たちを指差した。
「アイシスが温度管理をして、ゼルが厨房で火力を出して、ゼノとノクテが城を守って、ルシフが無駄に刷ったポスターがなぜか話題になった!」
俺は息を継ぎ、声を張り上げる。
「そして何より、このポンコツ人事が、散り散りになってたこいつら全員と『契約魔法』を結んだ!」
俺はリリを真っ直ぐに指差した。
「もう一度この城に居場所を作ったからできたんだ!」
「こいつらの力は、いちいち過剰だしすぐ暴走するし、俺に尻拭いばっかりさせやがる!」
俺は使者の目を見返した。
「だけどな、その手のつけられない力が、俺たちの日常を支えてるんだ! 持て余す頭数なんて一人もいねえ! あの水は、こいつら全員で作ったんだよ!」




