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魔王軍倒産しました。〜領地は絶賛再建中・勇者は絶賛就職中〜  作者: 瀬大
第9話 マオリョー、買収されかけます
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マオリョー、買収されかけます⑤ 掃き溜めと、言った手前


掃き溜め。

持て余す、頭数。

昨夜、俺自身が心の中で吐き捨てた言葉と同じだった。

だが、その言葉を使者の口から直接聞いた瞬間。

俺の心臓が、ドクンと妙な音を立てた。


サインしようとしていた羽ペンが、空中でピタリと止まる。


「……あ?」

俺の口から、低く地を這うような声が漏れた。

昨日の夜、縁側でリリがこぼした言葉がリフレインする。


『ここ……けっこう、好きなのよ』


……持て余す頭数、だと?


「……どうした? 急にペンが止まったな」

固まった俺に、使者が薄笑いを浮かべて羽ペンを突き出してきた。

割れた卓の上には、金貨一万枚が詰まった革袋と契約書が置かれている。

「さあ、サインをしろ。窓口の君が話を通してくれるのだろう?」


「この金貨があれば、君の借金も消え去る」

使者は甘い声で囁く。

「こんなボロ城で、イモをかじる生活からおさらばできるのだ」

「……」

「水の精霊以外の、持て余す頭数どもなど切り捨ててしまえ」

使者は背後の仲間たちを鼻で笑った。

「君は人間だ。こんな化物どもの掃き溜めに付き合う義理はなかろう」


「……持て余す、頭数」

俺は羽ペンを握りしめ、ギリッと奥歯を噛み締めた。

確かに俺は打算の塊だ。この金貨があれば借金がチャラになる。浮いた金で豪邸を建ててステーキを食う夢の生活が待っている。

だが。


「おいコラ! 誰が持て余す頭数やねん!」

小柄な古龍のゼルが、牙を剥き出しにして使者に吠えかかった。

「お前みたいな嫌な奴、今すぐ丸焦げにしたるわー!」

ゼルの両手から赤い炎が漏れ出す。


「やめろゼル!」

俺はすかさず止めた。

「無差別に火力をぶっ放すな! 頭数呼ばわりされて腹立つのは分かるが、今は一旦ステイだ!」


パチンッ。

「ふっ……俺様を『頭数』などという下賤な言葉で括るとは」

ルシフが指を鳴らした瞬間、誰も頼んでいない黄金の後光が部屋中を照らし出した。

「俺様の絢爛に、ひれ伏せ」


「目が痛えんだよ!」

俺は叫んだ。

「お前はこういう時だけ無駄に輝くよな! 誰も見てない舞台で一人で過剰演出してないで、少しは空気読め!」


「……うむ。ノクテはこう申しておる」

俺の横でゼノが重々しく腕を組んだ。

背後でノクテが無言のまま首を横に振り、使者へ親指を下に向けてみせた。

「『頭数とは笑止千万。どうしてもと言うならば、誠意としてさらに金貨五千枚を要求する』とな」


「出たよ翻訳詐欺おじさん!」

俺はゼノを睨みつけた。

「ノクテは今『こいつ気に食わねえ』ってジェスチャーしただけだろ!」

「……ついでに最高級の羽毛布団も追加せよ、とのことだ」

「どさくさに紛れて私利私欲を上乗せするな!」


「……やはり、わたしがこの身を西の商会に捧げるべきですね」

ミィナがにこにこと笑顔のまま進み出た。

「あの使者の心臓を、無音の水の刃で浄化きれいきれいしておきましょうか?」

「や、やめなさいミィナ!」

アイシスが慌てて止める。

「暗殺で買収を無かったことにしようとするんじゃないわよ! わらわは揺らがないわ!」


「重いし物騒だ!」

俺は頭を抱えた。

「ミィナ、にこにこ笑顔で暗殺提案するな! アイシスもいちいち真に受けて張り合うな!」

俺は震えながら息を吐いた。

「ここは俺が見せ場なんだから、少しは空気を読め!」


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