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魔王軍倒産しました。〜領地は絶賛再建中・勇者は絶賛就職中〜  作者: 瀬大
第9話 マオリョー、買収されかけます
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マオリョー、買収されかけます④ 極端から、極端へ


「熱っ!? おいやめろゼル!」

俺は慌てて飛び退いた。

「朝っぱらから厨房の火力を持ち込むな! 割れた卓が黒焦げになっただろうが!」

「愚かね。そんな消し炭、わらわの冷気で跡形もなく消し去ってやろう」

ピキキキキッ!

アイシスが指先を振るうと、焦げた卓の残りが絶対零度の氷塊に変わった。


「極端から極端に走るなアイシス!」

俺は頭を抱えた。

「消し炭ひとつ消すのに永久凍土を持ち出すな! 部屋の温度がマイナスになって俺が凍死しかけてんだろうが!」

「……アイシス様。お怪我はありませんか?」

ミィナが微笑みながら進み出る。

「アイシス様のために、わたしがこの焦げた卓と氷を、丸ごと浄化きれいきれいしておきましょうか?」


「やめろミィナ!」

俺は全力で止めた。

「お前の『アイシス様のため』スイッチが入ると、応接間ごと水没させるから絶対にやめろ! 笑顔で大惨事を引き起こすな!」


俺がW厄災の尻拭いに追われていると、ノクテが音もなく現れた。

無言のまま呆れたように首を振り、両手を広げる。

その後ろから、ゼノが足音を響かせて現れた。


「……うむ。ノクテはこう申しておる」

ゼノが口を開く。

「『最後の晩餐にしては騒がしい。我が君の門出を祝うため、今すぐ幻の銘酒と最高級のつまみを用意せよ』とな」


「また出やがったな、その捏造翻訳!」

俺は即座に指を差した。

「ノクテは今、両手広げて『やれやれ』ってやっただけだろ!」

「どこに銘酒の要求が入ってんだよ! どさくさに紛れて経費をたかろうとするな!」

「……無言には、万感の思いが籠もるものよ」

「籠もってるのはお前の食い意地だけだろ!」


パチンッ!

「ふっ……金貨一万枚など、俺様の美貌の前では石ころに等しい」

ルシフが指を鳴らすと、強烈な黄金の後光が部屋中を照らし出した。

「だが最後の記念だ。俺様の眩さに、目も眩め」


「目が痛えんだよ光る置物!」

俺は叫んだ。

「誰も頼んでねえ過剰演出を朝からフルパワーでやんじゃねえ! 役立たずの光量だけは一丁前なんだよ!」

「ちょっとみんな! 新入社員が困ってるじゃない!」

リリが日傘を振り回しながら、ドヤ顔で叫んだ。

「エリートのわたしが、完璧な『ふぃじびりてぃ』を出してあげるから静かにしなさい!」


「フィジビリティ(実現可能性)な! 急に難しいの持ち出すんじゃねえ!」

俺は息を切らした。

「で、どういう意味だよ!」

「ええと、それは……ちゃんと、できる感じに、きちっと、できる感じのやつよ!」

「できる感じしか言ってねえ! 何ひとつ具体的じゃねえだろ!」


……そうだ。

こいつらは、どいつもこいつもポンコツで、俺に尻拭いばっかりさせやがる。

こんな掃き溜めみたいな会社、さっさと売っちまった方が俺のためだ。

俺は決意を新たに、羽ペンを手に取った。


その時、応接間の扉が開かれた。

「ふん、相変わらず騒々しい貧民窟だな。どうやら、話はまとまったようだが」

西の商会の使者が、再び姿を現した。

使者は、俺が手にする羽ペンを見て薄笑いを浮かべる。


「さあ、サインをしろ。窓口の君が話を通してくれるのだろう?」

使者は俺たちを見下した。

「この金貨があれば、君の借金も消え去る。イモをかじる生活からおさらばできるのだ」

「……」

「賢明な判断だ。水の精霊以外の、そこの持て余す頭数どもなど、さっさと切り捨ててしまえ」

使者は鼻で笑う。

「君は人間だ。こんな化物どもの掃き溜めにいつまでも付き合う義理はなかろう」


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