マオリョー、買収されかけます① 朝飯は、塩のイモ
「……はぁ。今日も今日とて、朝飯が塩を振っただけの蒸しイモかよ」
俺は真っ二つに割れた応接間の卓に突っ伏した。
「お前も寒いしひもじいよな、ぴぃ!」
俺は空っぽの胃袋をさする。
「温泉で大散財したせいで、せっかくの黒字が消え去ったからな! 薪すら買えねえ」
「このままだと、俺の身体からイモの芽が生えてくるぞ」
……そういえば、ゆうべ宿場町で妙な噂を聞いた。西の商会とやらが、商売を手当たり次第に買い集めてるとか。きれいな水だの、水を浄める力だのを、血眼で探してるとか。
「……まあ、水道も止まったうちみたいなボロ会社にゃ、縁のない話だな」
バンッ!
「ちょっと新入社員! 朝から貧乏くさい顔で嘆かないでよね!」
破れた日傘を差したリリが踏み込んでくる。
「エリート人事の部下として情けないわ! お金なんてものはね、ある所にはあるの。たとえばこの、わたしのお給料袋の中とか!」
リリは丸メガネをクイッと押し上げ、薄い胸をめいっぱい反らした。そして得意げに腰の小袋を掲げ――中から出てきたのは、ボタンが二つと、糸くずだけだった。
「……あれ。き、金貨は? わたしの今月のお給料は!?」
「お前の給料はとっくに会社ごと溶けてんだよ!」
俺は即座に吠えた。
「そ、そんなはずないわ! エリートのお給料が、ボタンになるわけ……」
「現実を見ろ! だいたいお前がエステだの何だのに散財しなきゃ、金貨の一枚くらい残ってたんだよ!」
俺が怒鳴っていると、影の従者ノクテが滑り込んできた。
ノクテは門の方を指さし、親指を立ててヒラヒラと手を振る。
その背後から黒鎧のCEO、ゼノが現れた。
「……うむ。ノクテはこう申しておる」
ゼノが重々しく口を開く。
「門前に、いかにも成金といった風態の、胡散臭い大金持ちの使者がやってきた……とな」
「出たよ翻訳詐欺!」
俺はすかさずツッコんだ。
「ノクテが親指立てただけで、どこに『胡散臭い成金』なんて細けえ情報が入ってんだよ!」
「……行間を読め」
「捏造を堂々と誇るな!」
「ふっ。無言で通じ合う主従か。だが俺様ほどの華はないな」
部屋の隅からルシフが髪をかき上げ、何の脈絡もなく自分の話にすり替えた。
「真に城を彩るのは、この俺様の存在感ということだ」
「誰もお前の話はしてねえんだよ!」
「……でも待て、大金持ちの使者だって?」
俺はガタッと立ち上がった。
「もしそいつが金をくれるなら、俺は今すぐ三つ指ついて迎えに行くぞ!」
俺が目の色を変えた瞬間、応接間の扉が開いた。
高級なシルクの服に身を包んだ男が入ってくる。
「ふん、これが魔王領管理株式会社の社屋か」
男は鼻を鳴らした。
「天井に穴が開いているとは聞いていたが、想像以上に貧民窟だな」
パチンッ。
目を開けていられないほどの黄金の後光が放たれた。
「フッ……俺様の煌めきに、灼かれて溶けろ」
ルシフが完璧なポーズを決めていた。
「な、なんだこの無駄に眩しい光は!?」
使者が目を覆う。
「眩しいのよ。その安っぽい後光ごと凍らせるわよ」
アイシスが指先に冷気を滲ませる。ルシフの後光が、ジジ、と音を立てて湯気に変わった。
「ほう、俺様の煌めきを翳らせるとはいい度胸だ。氷の女王よ、もっと俺に見惚れてもいいんだぞ」
「死んでも嫌よ」
……こいつら、使者そっちのけで何始めてんだ。




