マオリョー、業務改善します⑨ 今日から、イモ生活
「ただ手ぶらで歩いてただけだろ! どこに進行管理する要素があったんだよ!」
俺は声を張り上げた。
「だいたい、お前のその手のひらサイズの日よけ、往復の道中ずっと顔の横に張り付いてて不気味だったわ!」
「おっちゃん、飯まだか! 腹減って死にそうやー! 肉食わせろ!」
古龍の幼体ゼルが、俺の足にまとわりついて騒ぎ出す。
「肉なんて買ってねえよ!」
ゼルは腹を鳴らした。
「昨日の温泉旅行でお前が伊勢海老食いまくって、ゼノさんが幻の酒飲みまくったせいで、会社のなけなしの黒字が完全にゼロになったんだぞ!」
「今日から毎日イモ生活だ!」
「アイシス様、お夕食の準備のために、わたしがこのお芋をすべて一つ残らず、完全無菌の聖水で洗い清めましょうか? ふふっ」
「泥だけ落とせばいいのよ! なんで芋一つに浄化の祈りを捧げようとしてるの!」
俺は天を仰いだ。
「食べ物までお前の重い忠誠で包もうとするな! アイシスも無言でドン引きしてるじゃねえか!」
「……わらわは泥臭い芋など食べたくないわ。このまま全部、永久凍土の彼方へ保存管理してやろうかしら」
「食材を永遠に葬り去ろうとすんな! ツンデレの方向性間違ってんだよ!」
「……うむ。ノクテはこう申しておる」
背後から、黒鎧のCEO、ゼノが重厚な口調で口を開いた。
「ノクテはさっきから芋をじーっと見てるだけだろ! それのどこが言葉になんだよ!」
「『芋は蒸かすに限る。そしてCEOである我には、一番大きく形の良い芋を、たっぷりのバターを添えて献上せよ』……とな」
「視線のどこに『たっぷりのバター』があったんだよ! あんたが芋にバター塗りたいだけだろ!」
俺が怒鳴ると、ノクテは一言も発しないまま、無表情でスッとこちらにサムズアップをしてきた。
「サムズアップすんな! お前もバター欲しいだけだろ!」
パチンッ。
「フッ……この俺様が、後光の熱でその芋を黄金色に焼き上げてやろうか? 俺様の輝きに、酔――」
「黙ってろ!!」
食い気味の、本気の怒声だった。こっちは今日を食いつなぐ虎の子の芋なんだ、お前の暴走後光で消し炭にされてたまるか。
さしものルシフも「なっ……」と一瞬固まる。が、次の瞬間にはもう髪をかき上げ、「フッ、照れるな」と勝手に立ち直っていた。フラれて傷ひとつつかないのも、ここまでくるといっそ才能だ。
俺は頭を抱え、買ってきたばかりの芋の入った袋の横にどっこいしょと座り込んだ。
「だいたいお前ら! 業務改善ってのはな、本来は利益を上げるためのもんだろうが!」
俺は半目になった。
「なんでただの日々の雑用をこなしただけで、全員『今日の仕事終わりました』みたいな達成感に包まれてんだよ!」
「ゼルの大火力を線香花火にしてかまどに火をつけ、アイシスの絶対零度で湯飲みのお茶を冷ます」
俺は指を折って数えた。
「ミィナの大瀑布を数滴の手洗いに使い、ノクテの暗殺用の影を手のひらサイズの日よけにする!」
俺はツッコんだ。
「どんだけ最強の力の使い道が最弱なんだよ! コスパが悪すぎるだろ!」
「ふふん! 完璧な力の使いこなしじゃない! 誰も怪我をしてないし、城も壊れてないわ!」
リリは目を泳がせた。
「利益なんて後からついてくるものよ」
「まずは社内の環境整備から始めるのが、エリート人事の定石なの!」
リリが再びドヤ顔で言い張る。




