マオリョー、業務改善します⑧ 大根を、もう一声
俺がまくしたてると、ノクテは一言も発しないまま、無表情でスッとこちらに手のひらを差し出してきた。
「手出すな! お前もジェスチャーで便乗して集ろうとしてんじゃねえか! 絶対にグルだろお前ら!」
最強の力を使った最弱のコントを繰り広げながら、俺たちはようやく西の宿場町に到着した。
街道沿いに露店が並ぶ、そこそこ活気のある町だ。
会社の金も、無給の俺の手持ちも、とっくにゼロ。
そんな俺の最後の頼みの綱が、皮肉にも、ルシフが勝手に刷りまくった大量の自分のポスターだった。都で妙な人気が出たとかで、城の売れ残りを宿場町に並べたら、物好きがちらほら買っていく。
その雀の涙を握りしめ、俺は一文でも安く野菜を買おうと、八百屋の親父と熾烈な値切り交渉を繰り広げていた。
「おっちゃん! この大根、もう一声安くしてくれよ!」
俺は頭を抱えた。
「こちとら、変な男のポスターをやっと売りさばいた、雀の涙の稼ぎしかねえんだ!」
「兄ちゃんもしつこいねえ! しょうがねえ、じゃあオマケで芋一個つけとくから!」
「よし、買った!」
俺が戦利品の野菜をエコバッグに詰め込んでいると、背後から町を歩く商人たちの世間話が耳に飛び込んできた。
「……おい、聞いたか? 最近、『西の商会』の連中が、あちこちの商売を手広く買い集めてるらしいぜ」
「ああ、聞いた聞いた。かなり強引な手口で、小さな店やギルドを次々と傘下に収めてるって噂だ」
「特に血眼で探してるのが、きれいな水が湧く土地と、水を浄める力を持った連中らしいぜ。それさえ押さえりゃ一財産だとか」
「俺たちみたいな弱小商人は、目立たないように細々とやるしかねえな」
「……西の商会、ね」
俺は、エコバッグの持ち手を握り直しながら、小さく鼻を鳴らした。
いつだったか、あの村を水浸しにした時に、村人たちが「西の商会が雇っている気象を操る術師」の噂をしていたのを、うっすらと思い出す。
あちこちの商売を買い集め、拡大を続ける巨大な商会。
(……まあ、今のマオリョーには全く関係のない話だな)
俺は、心の中でそう結論づけた。
何しろ、今のマオリョーには買収されるような『資産』も『事業』も、何一つ存在しないのだ。
城はボロボロで天井に穴が開き、現金は昨日の温泉旅行で完全にすっからかん。
最強の力を持て余し、火種や冷茶や手のひらサイズの日よけに一喜一憂している、ポンコツと翻訳詐欺師と子供の集まり。
こんな倒産寸前の限界ブラック企業を買い取ろうとする物好きなど、この世界のどこを探してもいるはずがない。
「ほら、新入社員! ぼーっとしてないで早く次行くわよ!」
少し離れた場所で、リリが破れた日傘を優雅に振り回しながら偉そうに叫んでいる。
「わかってるよ! お前が無駄に日よけとか探索とか使って時間食ったからだろうが!」
俺は、町人たちの不穏な噂話を完全に頭の片隅へと追いやり、重い野菜の入ったエコバッグを抱えて、リリたちの後を追いかけた。
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「あーっ、重かった!」
俺は指を突きつけた。
「なんで俺ばっかり両手に大根と芋の入ったエコバッグ抱えて歩かなきゃなんねえんだよ!」
「買い出しの荷物持ちくらい全員で分担しろ!」
西の宿場町から魔王城へ帰り着いた途端、俺は玄関の床にエコバッグを投げ出して叫んだ。
「ふふん! 荷物持ちは新入社員の立派な仕事よ!」
リリは丸メガネを押し上げた。
「人事のわたしは、全体の進行管理と、この日傘で直射日光から身を守る重要任務で忙しかったんだから!」
リリが、破れた日傘を優雅に畳みながら、丸メガネをクイッと押し上げて薄い胸を張る。




