マオリョー、業務改善します⑦ 木箱から、鶏
リリが自信満々に木箱の裏から引っ張り出してきたのは、エコバッグではなく、ガタガタと震える鶏のマスコット、ぴぃだった。
「ぴぃぃぃぃ……」
「なんで鶏が出てくんだよ!!」
俺はぴぃを受け取りながら怒鳴った。
「お前、俺の探索魔法の特性忘れたのか!」
俺は天を仰いだ。
「城の外の敵は正確に読めるけど、城の内側はぼやけて真横の鶏すら誤認するんだよ!」
「エコバッグと鶏を間違えるってどんだけポンコツレーダーなんだよ!」
「うっ……! そ、それは……!」
「ほら見ろ! ドヤ顔で探索しておいて見事に外してんじゃねえか! お前のその無駄な行動のせいで出発が遅れてんだよ!」
俺に正論で詰められ、リリの目にみるみる涙が浮かぶ。
「うぅ……だ、だって! 城の中がぼやけるなんて、そんなのシステムのバグじゃない! わたしのせいじゃないもん!」
「システムのせいにすんな! お前が勝手に使ったんだろうが! 泣けば済むと思うなよ!」
「な、泣いてないわよ! ふふん、これはあえてぴぃを見つけたのよ! つまり、究極の『オプティマァイズ』よ!」
「発音だけネイティブにすんな! 鶏一羽掘り当てて『最適化』は、いくらなんでも無理があんだろ!」
結局、自力でエコバッグを見つけ出した俺たちは、ようやく魔王城を出発し、西の宿場町へと続く街道を歩き出した。
秋晴れの空からは、そこそこ強い日差しが照りつけている。
「あー、日差しが強いわね。エリートのお肌に紫外線は大敵よ! ノクテ! あなたの力を借りるわ!」
リリの瞳孔が紫色の蝙蝠模様に変わる。
リリが手のひらを頭上にかざすと、その手のひらほどの極小サイズの『影』が出現し、リリの丸メガネの辺りだけをピンポイントで日よけした。
「ちいせえよ!!」
俺のツッコミが秋空にこだまする。
「なんだその手のひらサイズの日よけは!」
俺は半目になった。
「お前、場を制圧する完璧な諜報員の力を借りておいて、やってることが『自分専用のサンバイザー』かよ!」
「どんだけ最強の力の使い道が最弱なんだよ! 普通にその破れた日傘を差せ!」
「ふん、しょうがないわね。新入社員にも特別に分けてあげる」
リリが気まぐれに手のひらをかざすと、手のひらほどの日陰が、俺の頭の上にもふわりと差した。
「お、地味に涼しい……。けち臭え日よけだが、ないよりはずっとマシか」
ジリジリと照りつける街道で、その小さな日陰は、思いのほかありがたかった。
そうしてしょうもないやり取りをしていると、後ろを歩いていた黒鎧のCEO、ゼノが重厚な足音を立てて進み出た。
その横では、黒装束の従者ノクテが無言のまま、スッと首を横に振っている。
「……うむ。ノクテはこう申しておる」
ゼノが重々しく口を開いた。
「また勝手に通訳が始まったよ……ノクテは今、首を横に振っただけだろ!」
「『我の深淵なる闇を、あのような小娘の日よけに使うとは言語道断」
「日差しが憎くば、会社から日傘代くらい経費で出せ」
「……ついでに、我の分として、最高級のシルクの傘も経費で要求する』……とな」
「言ってねえええええ!!」
俺はゼノに向かって全力で指を差した。
「首を横に振っただけで、なんで『シルクの傘を経費で』まで話が膨らむんだよ!」
俺はツッコんだ。
「完全にあんたが欲しいだけだろ!」
「昨日の温泉で黒字はすっからかん、経費なんて一円も出ねえよ!」




