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魔王軍倒産しました。〜領地は絶賛再建中・勇者は絶賛就職中〜  作者: 瀬大
第8話 マオリョー、業務改善します
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マオリョー、業務改善します⑥ 水漏れみたいな、水量


「……さあ、お茶も飲んだし、西の宿場町に備品の買い出しに行くわよ! 新入社員、荷物持ちよろしくね!」

「結局俺がタダ働きで荷物持ちかよ! お前の業務改善、俺の負担は一ミリも減ってねえじゃねえか!!」


俺の虚しいツッコミが、平和な朝の厨房にこだました。

波乱のない日常回。だが、俺の扱いの低さだけは、いつもと何も変わらないのだった。


---


「よし、西の宿場町へ買い出しに出発するわよ! でもその前に、出かける前の衛生管理は基本よ! 手洗い、うがい、これ常識!」

魔王城の玄関。自称エリート人事のリリが、破れた日傘を優雅に持ちながらドヤ顔で言い放った。


「なんでお前が仕切ってんだよ。そもそも水道止められてんだから、手を洗う水すらねえだろうが」

俺が呆れて言うと、リリは丸メガネをクイッと押し上げて薄い胸を張った。


「ふふん、そこで業務改善の出番よ! ミィナ、あなたの力をちょっと借りるわね!」

リリの瞳孔が、ミィナと同じ水色に発光する。

リリがドヤ顔で両手を差し出すと、その指先からチョロチョロ……と、数滴の清らかな水がこぼれ落ちた。


「……いや、少なっ!!」

俺のツッコミが玄関に響き渡る。

「なんだその水漏れみたいな水量は!」

俺は指を突きつけた。

「お前、本気出せば大瀑布を呼べる水の精霊の力を借りておいて、出てきたのがスプレーのワンプッシュ以下かよ!」

「手のひらすらまともに濡れてねえじゃねえか! どんな恐ろしい減衰率だよ!」


「ふふん! これぞ究極の節水よ! これがわたしの『清浄なる手水おててぴかぴか』よ!」

「ルビがダサいんだよ!! なんでちょっと幼児語入ってんだよ! 威厳がゼロだろうが!」


俺がツッコんでいると、ミィナが両手を胸の前で組んで、うっとりとした顔で乱入してきた。

「まあ……リリさんのお水では少なすぎますね」

ミィナは頬に手を当てた。

「アイシス様の美しき御手を清める聖水ならば、このミィナが、ありったけの愛を込めて、滝のような清流をご用意いたします」

「ええ、アイシス様のために……!」


「いらないわよ!! 滝のような水を出されたら玄関ごと流されるでしょうが! わらわの肌は乾燥くらいがちょうどいいの! 近づくな!」

アイシスが顔を引きつらせて後ずさる。


「ああっ……その徹底した拒絶、わたしに無駄な力を使わせまいとする、アイシス様の深い慈愛……!」

ミィナは静かに微笑んだ。

「その塩対応の奥にある優しさに、わたし、胸が苦しいです……ふふっ」

「だから違うと言っているの!! なんでお前はすべてを自分への愛に変換するのよ! 単純に迷惑なの!」


俺は、玄関で繰り広げられるミィナとアイシスの不毛な攻防を、完全に置いてけぼりの状態で傍観していた。

「……こいつら、俺がいてもいなくても勝手に三つ巴のコント始めるな」

俺は声を張り上げた。

「静かなる重い忠誠とツンデレの衝突、永遠に平行線じゃねえか」

「まあ、今日は城が水没してないだけマシか」

ぼやきながらも、俺はリリの出したあの数滴で手の泥を擦り落とした。量はともかく、浄化の精霊の水だけあって、汚れの落ちようは見事なものだ。役に立っているのが、逆に悔しい。


「さ、次は忘れ物チェックよ! 買い出し用のエコバッグが見当たらないわ! 新入社員、あなたの力を借りるわよ!」

リリが俺の方へ向き直り、勝手に契約魔法を起動する。リリの瞳孔が俺と同じ白十字に変わった。

「見えたわ! エリートのわたしの探索検知によれば……あの木箱の裏よ!」


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