マオリョー、業務改善します⑥ 水漏れみたいな、水量
「……さあ、お茶も飲んだし、西の宿場町に備品の買い出しに行くわよ! 新入社員、荷物持ちよろしくね!」
「結局俺がタダ働きで荷物持ちかよ! お前の業務改善、俺の負担は一ミリも減ってねえじゃねえか!!」
俺の虚しいツッコミが、平和な朝の厨房にこだました。
波乱のない日常回。だが、俺の扱いの低さだけは、いつもと何も変わらないのだった。
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「よし、西の宿場町へ買い出しに出発するわよ! でもその前に、出かける前の衛生管理は基本よ! 手洗い、うがい、これ常識!」
魔王城の玄関。自称エリート人事のリリが、破れた日傘を優雅に持ちながらドヤ顔で言い放った。
「なんでお前が仕切ってんだよ。そもそも水道止められてんだから、手を洗う水すらねえだろうが」
俺が呆れて言うと、リリは丸メガネをクイッと押し上げて薄い胸を張った。
「ふふん、そこで業務改善の出番よ! ミィナ、あなたの力をちょっと借りるわね!」
リリの瞳孔が、ミィナと同じ水色に発光する。
リリがドヤ顔で両手を差し出すと、その指先からチョロチョロ……と、数滴の清らかな水がこぼれ落ちた。
「……いや、少なっ!!」
俺のツッコミが玄関に響き渡る。
「なんだその水漏れみたいな水量は!」
俺は指を突きつけた。
「お前、本気出せば大瀑布を呼べる水の精霊の力を借りておいて、出てきたのがスプレーのワンプッシュ以下かよ!」
「手のひらすらまともに濡れてねえじゃねえか! どんな恐ろしい減衰率だよ!」
「ふふん! これぞ究極の節水よ! これがわたしの『清浄なる手水』よ!」
「ルビがダサいんだよ!! なんでちょっと幼児語入ってんだよ! 威厳がゼロだろうが!」
俺がツッコんでいると、ミィナが両手を胸の前で組んで、うっとりとした顔で乱入してきた。
「まあ……リリさんのお水では少なすぎますね」
ミィナは頬に手を当てた。
「アイシス様の美しき御手を清める聖水ならば、このミィナが、ありったけの愛を込めて、滝のような清流をご用意いたします」
「ええ、アイシス様のために……!」
「いらないわよ!! 滝のような水を出されたら玄関ごと流されるでしょうが! わらわの肌は乾燥くらいがちょうどいいの! 近づくな!」
アイシスが顔を引きつらせて後ずさる。
「ああっ……その徹底した拒絶、わたしに無駄な力を使わせまいとする、アイシス様の深い慈愛……!」
ミィナは静かに微笑んだ。
「その塩対応の奥にある優しさに、わたし、胸が苦しいです……ふふっ」
「だから違うと言っているの!! なんでお前はすべてを自分への愛に変換するのよ! 単純に迷惑なの!」
俺は、玄関で繰り広げられるミィナとアイシスの不毛な攻防を、完全に置いてけぼりの状態で傍観していた。
「……こいつら、俺がいてもいなくても勝手に三つ巴のコント始めるな」
俺は声を張り上げた。
「静かなる重い忠誠とツンデレの衝突、永遠に平行線じゃねえか」
「まあ、今日は城が水没してないだけマシか」
ぼやきながらも、俺はリリの出したあの数滴で手の泥を擦り落とした。量はともかく、浄化の精霊の水だけあって、汚れの落ちようは見事なものだ。役に立っているのが、逆に悔しい。
「さ、次は忘れ物チェックよ! 買い出し用のエコバッグが見当たらないわ! 新入社員、あなたの力を借りるわよ!」
リリが俺の方へ向き直り、勝手に契約魔法を起動する。リリの瞳孔が俺と同じ白十字に変わった。
「見えたわ! エリートのわたしの探索検知によれば……あの木箱の裏よ!」




