マオリョー、業務改善します④ お茶は、冷ましすぎ
俺の絶叫が厨房に響き渡った。
「なんだ今の! 規模がちいせえよ!」
俺は天を仰いだ。
「城を丸ごと焼き尽くす紅蓮の炎を操る古龍の力を借りておいて、出てきたのが百円ライター以下の火種かよ!」
「どんな燃費の悪さだ! 逆にどうやったらそんなに威力を減衰できるんだよ!」
——と、足元で「ぴぃっ」と声がした。見れば、寒がりのぴぃが、その頼りない火種にちょこんと身を寄せ、目を細めて羽を膨らませている。朝、隙間風に震えていたのが嘘みたいに、気持ちよさそうだ。
「……まあ、こいつにはちょうどいいのか」
俺が思わず毒気を抜かれていると、リリが得意げに胸を張った。
「ふふん! どう!? これがエリートの力よ! 全く無駄のない、完璧な火起こしじゃない!」
リリが勝ち誇ったように腰に手を当てる。
すると、期待を裏切られたゼルが、頬を膨らませて地団駄を踏み始めた。
「いやや! なんで俺の炎をそんなちんまい火種に使うねん! しょぼすぎるわ!」
「俺の力はもっとこう、ドバーン! ズゴーン! ってやるためのもんやろ!」
「もっとドーンとやったるで!」
ゼルが両手に炎を宿し、かまどに向かって構えようとする。
「ちょっと! なに勝手に本気出そうとしてるのよ! 朝食の準備でボヤにする気!? わたしの完璧な段取りを邪魔しないでよね!」
「うるさいわ! あんな線香花火みたいな火、俺のプライドが許さんねん! どけやリリ、俺がこの厨房ごと丸焼きにしたる!」
「ダメって言ってるでしょ! せっかくエリートのわたしが、完璧に火加減を仕切ってるのに!」
「火加減ちゅうレベルちゃうわ! こんなん線香花火やんけ! とにかく俺が燃やすんやー!」
「だからボヤにすんなって! お前ら二人ともいったん落ち着け!」
だが二人は俺を完全に置いてけぼりにして睨み合っている。最強の古龍と自称エリート人事が、朝の火起こし一つでこの騒ぎだ。どんな底辺企業だよ。
と――壁際で茶を待っていたアイシスが、つまらなそうに指先へ冷気を滲ませた。
「……朝から、やかましい。次に騒いだ方を、氷漬けにして黙らせるわ」
たった一言。それだけで、燃え上がりかけたゼルの炎も、キンキン声のリリも、借りてきた猫みたいにぴたりと黙り込んだ。
「規格外の力を、朝の火種一つでこじらせてんじゃねえよ……。お前が一番まともだな、アイシス」
「当然よ。わらわは騒がしいのが嫌いなだけ」
俺はため息をつき、チロチロと燃えるかまどにヤカンを乗せた。
数分後。
ヤカンのお湯が沸き、俺たちは湯飲みにお茶を注いだ。
だが、当然ながら沸かしたてのお茶は熱湯のように熱く、とてもすぐには飲めない。
「あっち! おっちゃん、お茶熱すぎて飲めんわ!」
ゼルが舌を出して涙目になる。
「さあ、ここで再び業務改善の出番よ! お茶が冷めるのを待つ時間だって、我が社にとっては立派な無駄なんだから!」
リリが再びドヤ顔で立ち上がり、丸メガネをクイッと押し上げた。
「アイシス! あなたの力を少し借りるわよ!」
厨房の隅で、腕を組んで壁によりかかっていた氷晶色ロングの絶世の美女、アイシスが、冷ややかな視線を向けてきた。
「……くだらない。わらわの氷を、そんな安い茶の温度調節などに使うな。愚かの極みね」
アイシスは塩対応でピシャリと撥ね付けたが、リリはお構いなしだ。
「いいからいいから、ちょっとだけだってば!」
リリの瞳孔が、アイシスと同じ氷晶色に淡く発光する。
リリが並んだ湯飲みに向かって、フッ、と息を吹きかけた。




