マオリョー、業務改善します③ 火種は、線香花火
「うっ……そ、それは……」
「ほら見ろ! 完全に図星じゃねえか! 見切り発車にもほどがあるだろ!」
俺は頭を抱えた。
「お前のその思いつきのせいで、俺がどれだけ苦労してると思ってんだ!」
俺が正論で追い詰めると、リリの目にみるみる涙が溜まり始めた。
「うぅ……だ、だって……だってしょうがないじゃない!」
リリは丸メガネを押し上げた。
「わたしだって昨日の温泉旅行で一気にキャッシュがなくなって、すっごく焦ってるのよ!」
「だからなんか、こう、エリートっぽい言葉を使って気を紛らわせようとしただけで……うわーん!」
「新入社員がいじめるー!」
「泣くな! 逆ギレして子供っぽく泣けば許されると思ってんのか! 幹事のお前が一番反省しろ!」
リリはぽろぽろと涙と鼻水をこぼしながら、必死に言い訳を並べ立てた。
「うぅ……っ。……と、とにかく! こ、これ以上は時間の無駄よ!」
「ま、まずは備品の買い出しから業務改善よ! 西の宿場町に行くわ!」
「ほら、新入社員、さっさと準備しなさい!」
「結局ただの買い出しじゃねえか! なにが業務改善だ! 完全に思いつきで誤魔化しただろ!」
俺は頭を抱え、深いため息をついた。
またしても、このポンコツ人事の思いつきに振り回される、ろくでもない一日が始まる予感しかしなかった。
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魔王城の、あちこちの石積みが崩れかけているオンボロな厨房。
俺たちは買い出しに出発する前の腹ごしらえとして、朝食とお茶の準備に取り掛かっていた。
「さあ、見なさい新入社員!」
リリは目を泳がせた。
「エリート人事であるこのわたしが、契約魔法を使って日々の細々した雑用をいかにサクサクにしていくか!」
「これが真の業務改善よ!」
リリが、丸メガネをクイッと押し上げ、相変わらずの薄い胸をグッと張ってドヤ顔を決めた。
「ただのかまどの火起こしとお茶淹れだろうが」
俺は指を突きつけた。
「なんでそんな無駄に壮大なプロジェクトみたいにドヤってんだよ」
「普通に薪組んで火打ち石で点ければ終わる話だろ」
俺がジト目でツッコむと、リリはチッチッチッと人差し指を振った。
「甘いわね! 時は金なり、よ!」
リリは得意げに鼻を鳴らした。
「手作業で火を起こす時間すら、マオリョーにとっては大きな損なの!」
「ここは契約魔法のプロであるわたしが、ゼルの力を借りて一瞬でかまどに火を灯してあげるわ!」
「……まあ、確かにゼルの火力なら一瞬だろうけど」
俺は声を張り上げた。
「でもお前のそのポンコツな補助魔法を通したら、かまどどころか厨房ごと吹き飛ぶオチしか見えないんだが」
俺が警戒して後ずさる中、リリはビシッとかまどに指を突き出した。
「ゼル、あなたの力をちょっとだけ借りるわよ!」
「おおっ! 任せとき! 俺の超絶怒涛の炎で、かまどなんか一瞬でドカーンと燃やしたるわー!」
小柄で赤茶髪の古龍の幼体、ゼルが腕まくりをして目を輝かせる。
リリの瞳孔が、ゼルの炎と同じオレンジ色に一瞬だけ発光した。
「いくわよ……ふっ!」
リリが気合と共に指先をかまどの薪に向ける。
俺は思わず身をかがめ、大爆発に備えて頭を抱えた。
パチッ。
「……え?」
かまどの中に、線香花火の先っぽよりも小さな、申し訳程度の火種が落ちた。
ジジ……ジジジ……と、弱々しい音を立てて、薪の端っこにチロチロとした火が灯る。
「……」
「……」
「……しょぼっ!!!」




