マオリョー、業務改善します② 業務改善、素晴らしい響き
すると今度は、深海色の髪の水の精霊ミィナが、両手を胸の前で組んでうっとりとした顔で進み出てきた。
「業務改善……素晴らしい響きです」
ミィナは静かに微笑んだ。
「つまり、アイシス様がお過ごしになりやすいよう、この城を丸ごと清らかな水で満たし、不純物のない無菌室にするのですね?」
「ふふっ、お任せください。アイシス様のためなら、このミィナ……」
「やめなさい。わらわは湿気が嫌いなのよ。ただでさえ古い城でカビ臭いのに、お前がウロウロするだけで水浸しになって不快だわ」
腕を組んで現れたツンデレ氷の魔族アイシスが、冷たい毒舌でピシャリと撥ね付ける。
だが、ミィナは全く動じず、にこにこと微笑んだままだった。
「ああ……その冷たいお言葉、わたしへの深い愛の裏返しですね」
ミィナはうっとりと目を細めた。
「わたしが働きすぎて疲れないよう、あえて塩対応で休ませようとしてくださる……アイシス様の不器用な優しさ、沁みます」
「ち、違うわよ! なんでそう勝手にポジティブな解釈をするの! 単純に迷惑だと言っているの!」
「……おい、こいつら俺がツッコむ前に勝手に話進めてるぞ」
俺は天を仰いだ。
「俺がいてもいなくても同じじゃねえか」
「ていうかミィナ、城を水没させるのは業務改善じゃなくて完全な業務妨害だからな!」
「絶対に手を上げるなよ!」
俺が置いてけぼりを食らいつつも釘を刺していると、背後から重厚な足音が響いてきた。
「……うむ。ノクテはこう申しておる」
「出たよ翻訳詐欺! ノクテは今、無言でただ頭下げただけだろ!」
黒鎧に身を包んだCEOのゼノが、無言の従者ノクテを従えて堂々と口を開いた。
「『業務改善の第一歩として、まずはCEOのデスクに最高級のマッサージチェアと、蔵出しの銘酒を常備せよ』……とな」
「どこが業務改善なんだよ! ただのあんたの私利私欲だろうが!」
俺は半目になった。
「だいたい昨日あんなに幻の地酒を経費で飲みまくったのにまだ飲む気か!」
「経費なんてもう一銭も残ってねえんだよ! 会社の金庫はすっからかんだ!」
俺が怒鳴りつけると、ノクテは一言も喋らないまま、こちらを向いてスッとサムズアップをしてきた。
「サムズアップすんな! あんたもジェスチャーで便乗してからかってんだろ! グルだなこの野郎!」
パチンッ。
突如、部屋の隅で場違いな指鳴らしの音が響き、目を開けていられないほどの強烈な黄金の後光が放たれた。
「フッ……俺様の存在こそ、この城の最大の業務改――」
「お前は黙ってろ!」
最後まで言わせず、俺は副社長のルシフをシカトした。
「みんな静かにしなさい! いい!?」
リリは胸を反らした。
「契約魔法のプロであるエリートのわたしが、みんなの力を借りて、日々の細かい業務を効率化してあげるって言ってるの!」
リリがパンパンと手を叩いて、強引に場を仕切り直した。
「みんなの力って……ゼルやアイシスの規格外の力のことか? やめとけ」
俺はツッコんだ。
「お前が力を借りて張り切ると、なぜか毎回ロクでもない方向にだけ全力なんだよ」
「最初のお披露目を忘れたか?」
「派手にキメようとした挙句、くしゃみ一つで暴発させて、城の水道管を木っ端微塵にしただろうが」
「水没した厨房の後始末をしたのは、この俺だ」
「最強の力も、お前を通すとただの厄災に化けるんだよ。で? 具体的に何すんだよ」
「まさかノープランで『業務改善』って言葉をドヤ顔で使いたかっただけじゃないだろうな?」
俺がジト目で問い詰めると、リリはピタッと動きを止め、あからさまに視線を斜め上へと泳がせた。




