マオリョー、求人募集します⑧ 探索の画質が、悪すぎる
そうだ。すっかり忘れていたが、俺はこの女の口車に乗せられてブラックな雇用契約書にサインした際、謎の魔法陣が目に浮かび、『探索強化』なるスキルを付与されたのだった。
「探索強化ねぇ……。チート級の攻撃魔法でもなく、無限収納でもなく、索敵スキル」
俺は肩を落とした。
「RPGの初期から持ってる地味なやつだ。……まあいい、背に腹は代えられん。で、どう使うんだ?」
「簡単よ。目を閉じて、見たいものを強く念じるの。『水場を探す』ってね。そうすれば、わたしの洗練された魔力があなたの脳内にビジョンを直接――」
「はいはい、わかったわかった。御託はいいから。えーと、目を閉じて……『水、水、水……』」
俺はリリのドヤ顔を無視して目を閉じ、意識を集中させた。
すると、真っ暗だった視界の裏側に、ふわりと淡い光のグリッド線が浮かび上がった。まるでSF映画のレーダー画面か、ゲームのミニマップのようだ。おお、ファンタジーっぽくなってきたぞ。俺のテンションがわずかに上がる。
『システム起動。探索対象:水源。スキャンを開始します』
脳内に無機質なアナウンスが響くわけではないが、感覚的にマップが広がっていくのがわかった。
よし、まずはこの魔王城の中だ。台所の裏手とか、地下室とかに隠し井戸や貯水槽があるかもしれない。俺は意識のピントを、自分が今立っている城の内部へと合わせた。
「…………ん?」
俺は思わず、閉じていた目を薄く開けた。
「……おい、ポンコツ」
「誰がポンコツよ! なによ、もう見つかったの? わたしのスキル、優秀でしょ?」
「優秀もクソもあるか。なんだこのクソ画質は」
「は?」
「俺の脳内ミニマップに、強烈なモザイクがかかってんだよ!」
俺は薄目のまま唸った。
「144pの低解像度動画か。昭和の深夜のスクランブル放送か。城の中がぼやけまくって、何がなんだかさっぱりわからねえ」
俺は激しくツッコミを入れた。
そう、探索の特性として、なぜか城内がひどくぼやけるのだ。
「えっ? ぼ、ぼやける? そ、そんなはずは……」
「あるんだよ! お前が契約したんだろ!?」
俺は目を開けて詰め寄った。
「なんで自分の拠点のマップが『探索不可エリア』なんだよ。足元の構造すら把握できねえぞ。探索として致命的すぎんだろ!」
「ううっ……だって、仕方ないじゃない!」
リリは目を泳がせた。
「この城、魔王様がいなくなってから手入れしてないし、変な魔力の残滓とかホコリとかで、電波……じゃなくて魔波が乱れてるのよ! たぶん!」
「たぶんって言うな! 要するにお前の魔法の精度が低いから、ちょっとした障害物でエラー吐いてるだけだろ! このクソポンコツ人事!」
「うわあああん! またパワハラしたー! せっかくスキルあげたのに文句ばっかり言うー!」
「文句も言いたくなるわ! 役に立たねえんだから!」
俺は深いため息をつき、再び目を閉じた。
城内がダメなら、外だ。外を探すしかない。俺は意識のベクトルを、城の壁の向こう側、外部へと向けて拡大していった。
「……おっ?」
その瞬間、視界がクリアに晴れた。
モザイクが嘘のように消え去り、4Kどころか8Kレベルの超高画質で、周囲の森の地形、木々の配置、さらには草葉の陰に隠れているスライムらしき魔物の姿まで、手に取るように正確に把握できる。
「すげえ……城外はめちゃくちゃ正確じゃねえか」
「ふふん! ほら見なさい! わたしのスキルは本物なのよ! 謝りなさい、さっき暴言を吐いたこと、土下座して謝りなさい!」
「うっさい黙れ。なんで外だけこんなに高性能なんだよ」
俺はこめかみを押さえた。
「普通逆だろ。拠点内がクリアで、外が未知の領域だろうが。ゲームバランスおかしいぞこれ。……まあいい、えーと、水、水……」
俺は正確な城外のマップを北へとスクロールさせていった。
城の北側、森の中に……おっ、あった!




