マオリョー、求人募集します⑦ やればいいんだろ、やれば
マオリョー、求人募集します⑦ やればいいんだろ、やれば
もはやツッコむ気力すら削られかけていたが、ここで諦めれば本当に脱水症状で死んでしまう。
「……わかったよ。やればいいんだろ、やれば」
俺は半ば投げやりな気持ちで、再び流し台の前に立つリリの横に並んだ。
「いくわよ……! ふんぬううううっ!」
リリが顔を真っ赤にして、プルプルと震えながら両手に力を込める。
「ほら、応援!」
「……が、がんばれー。超がんばれー」
「もっと気持ちを込めて! パワハラ勇者!」
「誰がパワハラ勇者だ! いけー! 絞り出せー! お前のその無駄に高いプライドを水に変換しろー!」
「気合いだああああっ!!」
リリの絶叫と共に、先ほどよりも少しだけ大きな光が手のひらに集まった。
そして。
ちょろちょろちょろ……。
流し台に、細い、本当に細い一筋の水の線が流れ落ちた。
時間にして約三秒。量にして、なんとかコップの底が隠れる程度の水。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
リリは肩で息をし、そのまま膝から崩れ落ちた。まるで魔王との最終決戦を終えた後のような、すべてを出し切った顔をしている。
「……やったわ。見た……? これが、気合いの力よ……」
「……ああ。見たよ」
俺は、流し台に溜まった僅かな水を指ですくい、舐めた。
確かに水だ。泥水ではない、綺麗な水だ。だが。
「……少なすぎるだろ!!」
俺の絶叫が、再び廃城に響き渡る。
こんな微弱な魔法と、謎の『気合い』システムだけで、この巨大な城を再建し、俺の生活を成り立たせることなど絶対に不可能だ。
「おい、起きろポンコツ。こんな水道のパッキンがイカれたみたいな水流じゃ話にならねえ。安定した水源を確保しないと、マジで全滅するぞ」
「うう……わたしはもう、一滴も出ないわ……干からびる……」
「お前が干からびてどうする!」
俺は天を仰いだ。
異世界就職、文字通り『泥水(すら出ない)をすする』底辺スタートだ。だが嘆いても水は湧かない。こうなったら、この役立たずな『探索強化』で、廃城の水道がなぜ死んでいるのか原因を突き止めてやる。
「……おい、ポンコツ人事。逃げるなよ。これからこの水問題、根本から片をつけるぞ」
俺の悲痛な決意だけが、夕暮れの廃城に静かに響いた。
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「……いいか、ポンコツ人事。俺が今からものすごく論理的かつ、至極真っ当な事実を突きつけてやるから心して聞けよ」
薄暗い、そしてホコリまみれの廃城の厨房。
俺はカラカラに乾いた喉を無理やり鳴らし、目の前でいじけている駄女神……いや、自称エリート人事のサキュバス・リリに向かって指を突きつけた。
「今直面してんのは『今日の水がない』っていう死活問題だ」
俺は指を一本立てた。
「人間、飯抜きなら数日もつが、水がなきゃあっという間にミイラだ。初日で脱水ゲームオーバーとか、どんなクソゲーでも実装してねえよ!」
「う、うるさいわね! さっき一滴は出したじゃない! 純度百パーセントの美味しいお水よ!」
「あの『ぽちょん』でか!? アリの飲み水じゃねえんだぞ!」
俺は思わず声を裏返した。
「コップ一杯にどんだけ気合い入れんだよ。大体『気合いで出す』ってなんだ。魔法使いじゃなくて体育会系のマネージャーか!」
「だーっ! しつこい! 新入社員のくせに上司に文句ばっかり!」
リリは耳を塞いだ。
「そもそもわたしは人事なの! 水を出す専門業者じゃないの! ないものはないんだから、あんたがなんとかしなさいよ!」
「俺が!? 採用された直後の平社員が、いきなりインフラ整備まで丸投げかよ!」
俺は天を仰いだ。
「どんなブラック企業だここは! 労基だ! 異世界の労基に駆け込んでやる!」
「だからお前が持ってるそのスキルを使いなさいよ! わたしがわざわざ契約魔法で結んであげた『探索強化』! それを使って水源を探せばいいじゃない!」
リリが顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ。




