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魔王軍倒産しました。〜領地は絶賛再建中・勇者は絶賛就職中〜  作者: 瀬大
第1話 マオリョー、求人募集します
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マオリョー、求人募集します⑥ 出ろ、と念じてみた

マオリョー、求人募集します⑥ 出ろ、と念じてみた


リリの詠唱が始まった。声に力がこもっている。


「わたしの魔力を糧とし、乾きを癒す恵みの雨となれ! 世界を潤す生命の源、今ここに顕現せよ!」


おおおおっ! なんかすごい呪文っぽい! これは大量の水が期待できるぞ!


「いっけええええっ! 出ろぉぉぉぉっ!!」


リリが両手を天に向かって突き出し、ありったけの魔力を解放するようなポーズをとった。


俺は顔に水しぶきを浴びる覚悟で、思わず目を閉じて身構えた。


…………。


………………。


「……あれ?」


何も起きない。


恐る恐る目を開けると、リリの突き出した両手の先から、何かが落ちていくのが見えた。


ぽちょん。


石造りの流し台に、水滴が一つ、落ちた。


大きさにして、親指の爪にも満たない、ごくごく小さな水滴だった。


俺は流し台の水滴を見た。


リリも、自分の手から落ちた水滴を見た。


静寂が、廃墟の厨房を包み込んだ。


隙間風が、ひゅるりと虚しく吹き抜けていく。


一瞬だけ、ギルドに戻ることを考えた。借金取りの顔が浮かんで、即座に消えた。


「………………は?」


俺の口から、無意識のうちに限界まで低い声が漏れた。


「や、やったわ! 見た!? 水よ! 純度百パーセントの、綺麗なお水よ!」


リリが、額にじっとりと汗をかきながら、満面の笑みで振り返った。


「やったわ! じゃねええええええっ!!」


俺のツッコミが、ついに物理的な音量となって爆発した。


「なんだ今の! ぽちょんって! ぽちょんって言ったぞ今! なにあれ、お前の涙腺から出た水分か!? 俺が今かいてる冷や汗のほうがよっぽど水量多いわ!」


「な、なによ! 出たんだからいいじゃない!」


「よくねえよ! 俺は喉が渇いてるんだよ! あの水滴でどうやって喉を潤せっていうんだよ! 蟻の飲み水じゃねえんだぞ!」


「あ、あんたがプレッシャーかけるから、うまく魔力が練れなかったのよ!」


「俺のせいにするな! お前、さっき自分で『エリート中のエリート』とか大見得切ってたよな!? どんだけ魔力出力ポンコツなんだよ!」


俺は流し台をバンバンと叩きながら吠えた。


こいつは間違いなくポンコツだ。態度だけは魔王クラスだが、実力はスライム以下。いやスライムのほうが水分を含んでるだけマシだ。


「ううっ……うわああああん!」


俺が正論で追い詰めると、リリは突然ポロポロと涙をこぼし、子供のように泣き出した。


「な、泣くな! 泣きたいのはこっちだ!」


「だってぇ! わたしの『契約魔法』は人と人を結ぶのが本領なの! ゼロから物質を生み出すのは専門外なんだから、これでもすごく頑張ったのよ!」


「専門外なら最初からドヤ顔で『わたしに任せなさい』とか言うな! 期待させやがって!」


「うわああああん! 新入社員がいきなりパワハラしてくるー! ブラック企業だー! 労基に訴えてやるー!」


「お前が人事だろうが! どこの労基に駆け込む気だよ!」


俺は頭を抱え、その場にへたり込んだ。とんでもないハズレ物件を、物理的にも人材的にも引いてしまったらしい。


「いいか、よく聞けポンコツ人事。あの水滴じゃ、コップ一杯を満たすのに何百年かかるかわからねえ。もっとドバーッと、こう、勢いよく出せないのか」


俺が少しトーンを落として尋ねると、リリはしゃくりあげながら鼻をすすった。


「……出せるわよ」


「本当か? 嘘だったら次こそギルドに駆け込むぞ」


「ほんとよ! でもね、わたしの『契約魔法』で物理的な事象を大きくするには……気合いが必要なの!」


「…………は?」


俺の脳内CVが、再び完璧な間を作って停止した。


「気合い? 今、気合いって言ったか?」


「そうよ! 気合いよ! その水、気合いで出すらしいの!」


「らしいってなんだよ! 自分の魔法だろ!」

俺はツッコんだ。

「大体、魔法って魔力とか精神力とかで発動するもんじゃないのか。なんで昭和のスポ根アニメみたいなこと言ってんだよ!」


「うるさーい! リリちゃんが気合いって言ったら気合いなの! あんたも手伝いなさいよ! わたしが魔法を使うから、横で応援して!」


「俺の『探索強化』なんの役にも立たねえじゃねえか!」


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