マオリョー、社員旅行します⑫ 勘定書の、一番大きいやつ
俺は涙目で勘定書の明細を追っていき、最後に一番大きな金額を占めている項目を見つけた。
「……おい。なんだよこれ。……『幻の秘蔵酒・樽ごと』って」
俺は、般若のような顔でゼノを振り返った。
「ゼノさん!! 結局あんたの経費の酒代が一番高えじゃねえか、この翻訳詐欺おやじ!!」
俺が血の涙を流して抗議すると、ゼノは威厳たっぷりに腕を組んだ。
「……うむ。ノクテはこう申しておる」
ゼノは重々しく頷いた。
「『CEOの英気を養うための、極めて有意義な投資であった」
「新入りよ、大儀であった』……とな」
「ノクテは今一歩も動いてねえよ!! 投資じゃなくて完全に俺の財布の破産宣告だよ!」
俺は指を突きつけた。
「あんたらのせいで、俺が必死に守り抜いた金貨五十枚が、見事にすっからかんだよ!」
「俺の石鹸が! 俺の服が!!」
俺の絶望の叫びを他所に、一行は満足げな顔で宿の暖簾をくぐって外へと出て行く。
「フッ……俺様という最高の保養を味わえたこと、誇りに思うがいい。ではな」
ルシフが、最後まで何一つ役に立たないまま、無駄に真紅の薔薇の花びらを散らして、カッコつけて先に歩き出した。
「二度とくんな! 誇りに思う要素が1ミリもねえよ! ただの金食い虫だろうが!」
俺は、その後ろ姿に向かって、全力のフルシカトとジト目を送ってやった。
「……ぴぃぃぃぃ……」
ふと足元を見ると、宿の中ではご機嫌だったぴぃが、外の冷たい風に吹かれた瞬間、再びガタガタと激しく震え出していた。
「お前、暖かいとこから出たらまた即座に震えんのかよ! どんだけ極端な寒がりなんだよ! ほら、早く城に帰って毛布にくるまるぞ!」
俺たちは、すっかり軽くなった財布(というか空っぽの革袋)を握りしめ、秋の空の下、魔王城へ向かってとぼとぼと歩き出した。
体は温泉の効能でぽかぽかと温まっているのに、なぜだか、俺の懐だけは、シベリアの木枯らしが吹くようにスースーと冷え切っていた。
「……あーあ。俺の、俺の初の黒字が……」
「……だから、会社の黒字よ」
隣を歩くリリが、いつもの調子で訂正する。だが、その声も、どこか元気がなかった。
俺の虚しいぼやきが、青空に吸い込まれていく。
英気を養った(?)マオリョーの平和な日常は、こうしてまた、明日へと続いていくのだった。
本日の収支。
収入:英気(と、ぴぃの満足)。
支出:宿代、ゼノの経費の酒、ゼルの食い倒れ、勇者の胃。
差し引き――あったかい、すっからかん。




