マオリョー、社員旅行します⑪ 刺身も、どうぞ
俺は、一通り全員にツッコミを入れ終えると、どっと疲労を感じて座布団に座り込んだ。
ため息をつきながら、ふと、騒がしい宴会場の座敷を見渡す。
肉を両手で掴んでバクバク食い散らかすゼル。
それに「予算がー!」と怒鳴りながら自分も高級デザートを頬張るリリ。
「アイシス様、こちらのお刺身もどうぞ、ふふっ」と甲斐甲斐しく世話を焼き、アイシスに「近いわよ! わらわは自分で食べられるわ!」と塩対応されているミィナ。
幻の地酒を経費で飲みまくるゼノと、無言で完璧に酌をし続けるノクテ。
そして、誰も見ていないのに後光を放ち続けるルシフ。
(……なんだかなぁ)
俺は、お茶をすすりながら、心の中でひっそりと毒づいた。
倒産した会社の、金もない、暴走ばっかりの連中だ。
今日も今日とて、俺が血の滲むような思いで手に入れた初の黒字が、こいつらの食欲とアルコールと見栄のせいで、文字通り湯水のように消えていっている。
だけど……。
(バラバラだった連中が、こうして一つの宿に集まって。文句を言いながらも、同じ座敷で、同じ膳を囲んでワイワイやってる。……倒産して城はボロボロだけど、こうしてみんなで飯食ってると、ちょっとだけ……会社の慰安旅行っぽい、か)
俺の胸の奥に、ほんの少しだけ、温かいものがじんわりと広がっていくのを感じた。
「――って、いやいやいや!! ちっとも会社じゃねえよ!!」
俺は、自分の柄にもない感傷を全力でかき消すように、バンッ! と畳を叩いて叫んだ。
「なんだよこのブラック企業!」
俺は半目になった。
「CEOが翻訳詐欺で幻の酒をたかりまくって、副社長が座敷で後光焚いてる慰安旅行がどこにあるんだよ!」
「人事部は予算管理ゼロで横領してるし! 完全にただの無法地帯じゃねえか!」
「エモい空気に流されそうになった俺がバカだったわ! お前ら、少しは遠慮して食ええええ!!」
翌朝。
俺たちの大混乱の社員旅行は、ついにフロントでの『チェックアウトと精算』の時間を迎えていた。
女将が、にこやかな笑顔で、信じられないほど長い巻物のような勘定書を差し出してきた。
「こちらが、昨晩のお食事代、お飲み物代、ならびに諸々のご請求でございます」
「……はい」
俺は震える手で勘定書を受け取り、その一番下に書かれた合計金額を見た瞬間、膝から崩れ落ちた。
「うおおおおおおおおっ!? なんだこの金額はあああああ!!」
俺の絶叫が、朝の清々しい旅館のロビーに木霊した。
「おいゼル! お前一人で和牛五十人前と、伊勢海老二十匹も食ってただと!?」
俺はツッコんだ。
「どんだけ胃袋四次元なんだよ! リリ!」
「お前がこっそり頼んだ高級エステとマッサージの代金が、ちゃっかり計上されてんじゃねえか!」
「何が福利厚生だ、お前個人の贅沢だろうが!」
「な、なによ! エリート人事の美貌を保つための必要経費よ!」
「経費じゃねえ! 横領だ! ……そしてルシフ!」
俺は頭を抱えた。
「なんでお前、『俺様の美貌を後世に残すための純金製の等身大胸像』を、宿の土産物屋に勝手に発注してんだよ!」
「誰も買わねえよそんなもん!」
「フッ……この宿の格をさらに引き上げるための、俺様からのささやかな寄贈だ」
「寄贈の代金を俺に払わせるな!! 完全にただの負債だろうが!」




