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魔王軍倒産しました。〜領地は絶賛再建中・勇者は絶賛就職中〜  作者: 瀬大
第7話 マオリョー、社員旅行します
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マオリョー、社員旅行します⑨ 一人だけ、満喫してる


「……ぴぃー♪」

ふと足元を見ると、極度の寒がりである鶏のマスコット、ぴぃが、湯あみ着を着た俺の横で、ご機嫌な様子でお湯にぷかぷかと浮いていた。

いつもは隙間風に怯えてガタガタ震えているのに、温かい温泉の中だけは別格らしい。


「お前だけだな、普通に温泉を満喫してんの……」

俺は、ぴぃの頭を撫でながら、ふと、あることに気がついた。


(……あれ? 今日、誰も暴走してないし、宿も壊れてないぞ?)


ミィナは大洪水を起こしていない。

ゼルは火を吹いてお湯を蒸発させていない。

アイシスは宿全体を永久凍土に変えていない。


これまでの社員採用イベントにつきものだった『能力の暴走による大惨事』が、今回は全く起きていないのだ。

ちゃんとした温泉宿に来たおかげで、ただのドタバタ騒ぎと俺の気苦労だけで済んでいる。


「……なんだ、意外と平和に温泉を楽しめてるじゃないか。物理的な被害がないだけでも、社員旅行としては大成功の部類だろ」

俺は、少しだけホッとして、肩まで深くお湯に浸かった。


だが、ぽかぽかと温まる身体とは裏腹に、俺の脳裏には、ある一つの残酷な事実が浮かび上がってきた。


(……いや待てよ。今日は何も壊れてないけど……この後には、旅館の『超豪華な夕食の宴会』があって……明日の朝にはフロントで『チェックアウトと精算』が待ってるんだよな……?)


翻訳詐欺で「蔵一番の地酒」を当然のように経費で要求するCEO。

旅館の料理を食い尽くしそうな、底なしの食欲魔神である古龍。

勝手に謎のオプションや寄贈品を発注しそうなナルシスト副社長。

そして、予算管理なんて絶対にできそうにない、CEOにペコペコするポンコツ人事。


(……物理的な被害はないけど、俺が死守しようとしている『初の黒字』へのダイレクトアタックが、これから本格的に始まるってことか……!?)


俺は、湯けむりの中で、背筋にスーッと冷たい氷の刃が走るのを感じた。

このぽかぽかとした心地よい温泉が、俺の財布の死へのカウントダウンに思えてきたのだ。


---


温泉から上がり、宿が誇る一番の大広間。

目の前には、海の幸、山の幸、見たこともないような高級食材が所狭しと並んだ、超豪華な夕食の宴会膳がズラリと用意されていた。


「うおおおおっ! めっちゃうまそうやんけ! いただきまーす!!」

「おいバカゼル! お前ちょっと待て!」

俺は半目になった。

「なんでお前は自分の膳を秒で平らげて、隣のアイシスのカニにまで手を伸ばしてんだよ!」

「ペース配分って言葉を知らねえのか!」

「ええー? 腹減ってるんやからしゃーないやんけ! すんませーん、このお肉のお皿、あと十枚追加で頼むわー!」

「十枚!? お前それ、メニュー表に『特選和牛・時価』って書いてあったやつだぞ!」

俺はツッコんだ。

「勝手に追加注文すんな! 俺の黒字が皿の上で溶けていく音が聞こえるだろうが!」


俺がゼルの暴食を止めようと必死になっていると、隣から丸メガネを光らせたリリが立ち上がった。

「まず新入社員、いい加減覚えなさい。それあなたの黒字じゃなくて会社の黒字よ」

リリは胸を反らした。

「——そしてちょっとゼル!」

「幹事であるエリートのわたしが設定したバジェットを完全にオーバーしているわ!」

「会社のコスト管理をなんだと思っているの!」

「あなたのエンゲル係数のせいで、この社員旅行のROIが最悪になるじゃない!」

「なんやねんその呪文! わからん! うまいんやから仕方ないやろ! おかわりやー!」

「き、聞きなさいよ! わたしの完璧な予算編成が崩壊するわ!」


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