マオリョー、社員旅行します⑧ タオルを、乗せただけ
「ノクテは今、無言で無表情のまま冷たいタオル乗っけただけだろ!!」
俺の渾身のツッコミが、男湯に響き渡る。
「なんでその一瞬の完璧な所作に、『俺に背中を流させる』っていうあんたの私利私欲が100パーセント乗っかってんだよ!」
俺はツッコんだ。
「自分で流せるだろ!」
「ていうか、なんで社員旅行の温泉に来てまで、新入社員の俺が役員の背中を流す前提になってんだよ!」
「ただのパワハラじゃねえか!」
俺がまくしたてると、ノクテは一言も喋らないまま、こちらを向いて無言でスッとサムズアップをしてきた。
「サムズアップで便乗すんな! あんたもジェスチャーでからかって楽しんでるだろ!」
俺は頭を抱えた。
「この主従、息ぴったりに人をおちょくりやがって!」
俺がゼノとノクテのコンビ相手に疲労困憊していると——突然だった。
パチンッ。
大浴場全体に、場違いな指鳴らしの音が響いた。
次の瞬間、男湯の入り口付近から、目を開けていられないほどの強烈な黄金の『後光』が放たれたのだ。
どこからともなく真紅の薔薇の花びらが舞い散り、ただでさえ視界の悪い湯けむりを、無駄に神々しく照らし出す。
「俺様の威光に、灼かれろ」
分厚い健全な湯あみ着を纏った副社長のルシフが、完璧なポーズで仁王立ちしていた。
「ま、眩しい……!」
「なんだあの光は……目が……!」
のんびりと湯に浸かっていた一般の湯治客たちが、突然の暴力的な眩しさに耐えきれず、次々と目を押さえながら逃げるように大浴場から出て行ってしまった。
一方、湯船の奥で桶を浮かべていたゼルだけは、暢気に顔を上げてキラキラと目を輝かせた。
「うおー! まぶしいなー! おっちゃん、あの兄ちゃん、体から後光出しとるで! 縁日の電球みたいや!」
「……兄ちゃんではない。副社長だ」
後光を全開にしたまま、ルシフがすかさず地味に訂正する。
「電球扱いされて、そこ律儀に訂正すんのかよルシフ! ……って、ゼルも呑気に感心してる場合か!」
俺は湯船から身を乗り出し、ルシフを指さして怒鳴りつけた。
「だいたいお前が眩しすぎるんだよ!!」
俺は指を突きつけた。
「何が悲しくて公共の温泉宿の大浴場で後光と真紅の薔薇を全開にしてんだ!」
「癒やしのリラックス空間が完全に台無しだろ!」
「ほら見ろ! ほかのお客さんがみんなドン引きして逃げちゃったじゃねえか!」
俺は声を張り上げた。
「お前、宿の営業妨害で出入り禁止になるぞ! 早くその無駄な電源を切れ!」
ルシフは俺のジト目とツッコミを全く意に介さず、湯船の縁に足をかけて優雅に髪をかきあげた。
「フッ……結果的に、この広い湯を俺たちで貸切状態にしてやったのだ」
ルシフは前髪をかき上げた。
「俺様の圧倒的なホスピタリティと演出力に感謝するがいい」
「この神々しい空間を独占できるお前たちは幸運だ」
「客を追い出してどうすんだよ!!」
俺は天を仰いだ。
「旅館の人にクレームが入ったら、俺がフロントで土下座して回らなきゃいけなくなるんだろうが!」
「お前はただ自分が目立ちたいだけだろ、なんの役にも立たねえ過剰演出ばっかりしやがって!」
「お前のその無駄なオーラで、俺の精神力がゴリゴリ削られていくんだよ!」
相変わらずの、ヤバい面子である。
大浴場は貸切状態になってしまったが、あちこちで好き勝手にボケが展開され、俺は一人でツッコミを入れ続けてすっかり息が上がっていた。




