マオリョー、社員旅行します⑥ 三人目が、一番ややこしい
「どっちもただの一般客だし、三人目が一番ややこしいわ!! 見栄を張り合ってないで、全員さっさとチェックインしろ!!」
俺は、承認欲求を共鳴させてロビーのど真ん中で無駄な演出合戦を始めた二人に向かって、喉が枯れるほど叫んだ。
「ほら見ろ!」
俺は指を突きつけた。
「周りのお客さんが『なんだあの痛い集団は』って完全に引いた目でこっち見てるじゃねえか!」
「俺まで同類だと思われるだろうが! お前ら全員、協調性って言葉を知らねえのか!」
「……ぴぃー♪」
ふと足元を見ると、極度の寒がりである鶏のマスコット、ぴぃが、暖房の効いた暖かいロビーでご機嫌な様子で羽を伸ばしていた。
だが、他のお客さんが逃げるように外へ出て行き、自動ドアが開いて冷たい風が吹き込んだ瞬間。
「ぴぃぃぃぃ……」と、再びガタガタと激しく震え出した。
「お前も忙しい奴だな! ほら、風邪ひく前に奥に行くぞ!」
俺は震えるぴぃを抱きかかえ、頭を抱えた。
まだ温泉に一歩も入っていない。部屋にすら通されていない。
それなのに、翻訳詐欺で最上級の部屋と酒を要求するゼノと、それに便乗するリリのせいで、俺の宿代の予算はすでに崩壊寸前だった。
さらにルシフとリリの承認欲求バトルで、宿中の客から白い目で見られている。
「……俺の初の黒字が、温泉に入る前に消し飛ぶかもしれない……」
俺は、まだ手つかずのはずの金貨五十枚が入った袋が、すでに空気のように軽く感じられる恐怖に打ち震えながら、深い絶望の溜息を吐き出した。
---
老舗の温泉宿『湯宿・風花』が誇る、広々とした石造りの大浴場。
俺たちは今、リリが「エリートのたしなみとして必須よ!」とどこからか調達してきた分厚いタオル地の湯あみ着を、首から下まですっぽりと着込んでいた。
もう一度言うが、首から下まで分厚いタオル地で完全防備である。湯けむりも相まって、お色気や露出など1ミリも存在しない、極めて健全極まりない空間だ。
男湯と女湯は立派な竹垣で仕切られているものの、上部は吹き抜けになっており、声は筒抜けになっていた。
「うおー! めっちゃ広いし、ええ湯やなー! プールみたいや!」
男湯の広い湯船のど真ん中で、古龍の幼体であるゼルが、バシャバシャと激しい水しぶきを上げながら犬かきで泳ぎ回っていた。
あろうことか、ほかのお客さんが端の方に置いていた木桶を勝手に拝借し、プカプカと水面に浮かべて戦艦ごっこまで始めている。
「おいバカやめろゼル! ほかのお客さんの桶を勝手にオモチャにするな! ここは公共の場だぞ!」
俺は声を張り上げた。
「魔王城の風呂じゃないんだからおとなしく肩まで浸かってろ!」
俺は慌ててゼルの首根っこを掴んで引き寄せると、周囲でドン引きしている一般の湯治客たちに向かってペコペコと頭を下げた。
「す、すいません! うちの子供がご迷惑をおかけして……ほらゼル、お前もちゃんと謝れ!」
「ほかのお客さんのリラックスタイムを邪魔するな!」
「ええー? 減るもんちゃうやんけ! おっちゃんも一緒に桶で遊ぼうや!」
「遊ぶか! ていうかお前、湯あみ着のまま泳いだら重くて沈むだろ! 大人しくしてないと風呂から上げるぞ!」
すると、竹垣の向こうの女湯から、リリの偉そうな声が響いてきた。
「ちょっとゼル! 幹事であるエリートのわたしが、温泉の正しい楽しみ方を講義してあげるわ!」
リリは目を泳がせた。
「いいこと? エリートの温泉の入り方はね、まず湯船の縁に優雅に腰かけて、それから……」
「ぷはーっ! おっちゃん、あっちの岩まで競争や!」




