マオリョー、社員旅行します① 黒字を、五十枚数えた
「……ふふふ。四十八、四十九、五十。よし、ぴったり五十枚だ。何度数えても減らない、紛れもない現実だ」
永久凍土と化して久しい魔王城の自室。俺は、冷え切った机の上に輝かしい金貨の山を築き、一枚一枚、我が子のように愛おしそうに撫で回していた。
俺の手元にあるのは、金貨五十枚。
つい先日、あの村を大洪水で沈めた直後に現れた都の商人から、「極上の水」の独占契約手付金として受け取った金貨百枚。そこから村長への巨額の弁償金五十枚を差し引いて残った、正真正銘の、マオリョー初の『黒字』である。
「金貨一枚が元の世界で言うとだいたい十万円くらいの感覚だから……五十枚ってことは、約五百万円!」
俺はツッコんだ。
「? すげえ!」
「俺、異世界に召喚されてからこっち、ずっと貧乏のどん底だったのに、初めての大金持ちじゃねえか!」
俺は歓喜の涙を流しながら、金貨の山に頬ずりをした。
「これでやっと、毎日隙間風が吹き込んでくるこの壁の穴を直せる!」
俺は頭を抱えた。
「ボロボロになった一張羅の布の服も買い替えられるし、何より、異世界に来てからずっと我慢してた念願の石鹸が買える!」
「リリに騙されて前借りした形になってる理不尽な旅費の借金も返せるぞ!」
「長かった……本当に長かった!」
「俺の異世界生活再建計画が、ついに今日、ここから始まるんだ!」
足元で丸くなっていた鶏のマスコット、ぴぃが「ぴぃぃ……」とガタガタ激しく身を震わせた。
「おっと、すまねえなぴぃ。お前のためにも、あったかいストーブでも買ってやるよ」
「これからは俺たち、ぬくぬくライフの始まりだぜ」
「ちょっと新入社員! 会社のお金を前にして、朝からいやらしい顔でニヤニヤしないでよね!」
バンッ! と勢いよく扉が開き、丸メガネをクイッと押し上げながら、白銀ツインテールの自称エリート人事――リリがずかずかと踏み込んできた。
「いやらしい顔とはなんだ! この金は俺が管理するって昨日決めたんだよ!」
俺は指を突きつけた。
「お前に持たせたら、また意味不明な事業に全額投資して一瞬で溶かすに決まってるだろ!」
「俺の五百万円には指一本触れさせねえぞ!」
「失礼ね! そもそもそれ、あなたの五百万円じゃなくて会社のお金よ!」
リリは胸を反らした。
「エリート人事のわたしが、その使い道はもう完璧に決めてあげたんだから、ありがたく思いなさい!」
「ズバリ、福利厚生よ!」
「ふくりこうせい?」
「そうよ! この間あなたが言ってた温泉、ちゃんとした宿に行くわよ!」
「温泉宿だとぉ!?」
俺は声を張り上げた。
「ふざけんな、なんで俺が死に物狂いで手に入れたなけなしの金で、お前らを旅行に連れてかなきゃなんねえんだよ!」
「そもそも、お前福利厚生って言葉の意味わかって言ってんのか! ちゃんと説明してみろ!」
それまで勝ち誇っていたリリの顔が、一瞬で固まった。丸メガネの奥で目を泳がせ、しどろもどろに口を開く。
「え、えっとね……それは……みんなで、ぽかぽかして、ぎゅっと仲良くなって、明日もがんばろってなるやつ!」
「過程はぜんぶフワフワの擬音なのに、結論だけ合ってるのが腹立つんだよ! お前絶対意味わかってないまま雰囲気で使ってただろ!」




