マオリョー、新規事業を立ち上げます⑧ セコさで、首を絞めた
「俺が水増しなんかセコいこと考えなきゃ、みすみす大儲けのチャンスを逃した上に、村一つ水没させて死にかけることもなかったのか!」
俺はツッコんだ。
「! バカだ俺は! 救いようのないアホだああああ!!」
「自分のセコさで自分の首を絞めてただけじゃねえか!!」
俺が泥をバンバンと叩いて自己嫌悪に陥っていると、横でリリが丸メガネをクイッと押し上げ、ドヤ顔を炸裂させた。
「ふふん! さすがはエリートのわたしが手がけた『あくありうむ』ね! わたしの卓越した売り込みが都の商人の琴線に触れたのよ!」
「お前は何もしてねえええええ!! 全部ミィナの純粋な水の力だろうが! むしろお前の変な名前のせいで客が遠のいてたんだよ!」
「おおっ! 金貨五十枚! 確かに受け取ったぞ! これだけあれば、村の再建どころか、前より立派な家が建つわい!」
村長が、商人から渡された金貨の袋を抱きしめて号泣している。
「態度が手のひら返しすぎるだろ村長! さっきまで俺を炭鉱にぶち込もうとしてたくせに! 現金なやつだな!」
商人は、上品な笑みを浮かべて一礼した。
「では、後日また魔王城の方へ正式な取引に伺います。ああ、そうだ」
「あの素晴らしいポスターの『飲むルシフ』様にもよろしくお伝えください」
「あの強烈な個性のナルシストなポスター、都の有閑マダムたちの間でカルト的な人気が出そうでしてね」
「ポスター単体で売ってほしいという声が殺到しそうです」
「あいつのポスターも売れるのかよ!! どんだけ狂ってんだ都のセンスは!」
俺は頭を抱えた。
「広告塔としてまさかの大成功じゃねえか!!」
「あの役立たずのナルシスト副社長が、一番商売に貢献してんじゃねえか!!」
俺の渾身のツッコミを背に受けて、商人は豪華な馬車で颯爽と去っていった。
数時間後。夕暮れの道を、俺たちは魔王城へ向かってとぼとぼと歩いていた。
あれだけの大惨事だったというのに、俺たちの手元には、弁償金を差し引いてもなお余りあるほどの『黒字』が残されていた。
「……あーあ。ひどい目に遭った。服は泥だらけだし、全身筋肉痛だ」
俺がぼやきながら横を見ると、リリが大事そうに金貨の入った革袋を抱きしめて歩いていた。
「……ふぅっ」
ドヤ顔を崩さないリリだったが、その小さな肩は、微かに震えていた。
誰も見ていないと思ったのか、彼女は革袋の重みを確認するようにギュッと抱きしめ、心底安堵したような、素の表情で深いため息をついたのだ。
(……なんだ。こいつも、意外とビビってたんだな)
俺は、ほんの一瞬だけ、その光景を静かに受け止めた。
いつも偉そうで、ポンコツで、横文字ばかり並べ立てる自称エリート。
だが、その実態は、巨額の借金や炭鉱送りの恐怖に怯えながらも、必死に『エリート人事』という虚勢を張って頑張っているだけの、ただの不器用な奴なのだ。
倒産した会社を再建しようと、あいつなりに、必死に……。
「……まあ、今回は結果オーライだ。お前も、よくやったんじゃねえの」
俺が少しだけ声を和らげて言うと、リリはビクッと肩を揺らし、すぐにいつものドヤ顔を作り直した。
「な、なによ!」
リリは得意げに鼻を鳴らした。
「エリートたるもの、常に最悪の事態に備えて、胃に穴が開く思いで仕事を回しているのよ!」
「べ、別に炭鉱送りが怖くて泣きそうだったわけじゃないんだからね!」
「はいはい。わかったわかった。お前のエリートなマネジメントのおかげだよ」
「……! ふ、ふん! 当たり前よ! わたしがいればマオリョーの経営は盤石……」
「だからその手付金の金貨は、俺が全額管理させてもらうからな!!」
俺は、リリの腕から金貨の袋を力ずくでひったくった。
「きゃあああっ! やめなさい新入社員! これはわたしのマネジメント料よぉぉぉ!!」
「お前に持たせたら、また変な横文字の事業に投資して一瞬で溶かすに決まってるだろ!!」
俺は指を突きつけた。
「貸せ!!」
「これで明日は、美味い飯食って、絶対にあそこの温泉に骨休めに行ってやるんだからな!!」
「エリートの報酬を搾取する気!? 不当労働行為よぉぉ!!」
夕暮れの空の下、泥だらけの俺たちの叫び声が響き渡る。
俺のセコい商魂は全部裏目に出たが、なぜかマオリョーは救われた。
このすばらしい(?)異世界サバイバルは、まだまだ波乱に満ちている。
沈めたのに、黒字。
本日の収支。
収入:都の商人からの買付金(ただし、俺が薄めなければもっと儲かっていた)。
支出:村の弁償金、木っ端微塵になった樽の代金、俺の精神的疲労。
差し引き――まさかの、黒字。
俺の懐に入った初めての現金を握りしめ、マオリョーの明日は、待望の温泉旅行へと続く。




