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魔王軍倒産しました。〜領地は絶賛再建中・勇者は絶賛就職中〜  作者: 瀬大
第6話 マオリョー、新規事業を立ち上げます
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マオリョー、新規事業を立ち上げます⑦ 泥の沼が、できた


俺が指差した先では、ミィナが、泥だらけの広場の中央で嬉しそうに両手を組んでいた。


「勇者様、見てください。村の不浄がすべて洗い流されました」

ミィナは静かに微笑んだ。

「これでアイシス様のお名前も、この美しい泥海と共に後世まで語り継がれることでしょう」

「ふふっ」


「語り継がれるのは大災害の記録としてだよ! 慰霊碑が建つレベルの惨状じゃねえか!」

俺は頭を抱えた。

「どこが綺麗になってんだ、完全に泥の沼だろ!」

「お前のその重すぎる愛のせいで村一つ沈んだんだぞ!!」


俺が血の涙を流して叫んでいると、全身泥まみれになったリリが、半泣きで抗議してきた。


「エ、エリートのわたしが、こんな泥だらけの服で……! 完全な労働環境の違反よ!」

リリは目を泳がせた。

「新入社員が欲をかいて『もっと水を出せ』なんて煽るから、ミィナが暴走したんじゃないの!」


「お前がそれを言うなあああ!」

俺は指を突きつけた。

「お前の『あくありうむ』とかいう変なブランド戦略のせいでもあるだろうが!」

「大体、あのルシフのキモいポスターはどうなった!」

「あいつ結局ポスターだけ押し付けてどこ行きやがったんだよ!」

「広告塔どころかただの呪いのアイテムだったじゃねえか!」


「おっちゃん、泥の中から魚出てきたで! これ焼いて食おや!」


ゼルが、泥まみれの魚を掴んで無邪気にはしゃいでいる。


「呑気にサバイバルしてんじゃねえよ! お前の火で焼いたら泥ごと炭になるだけだろ!」


そんな俺たちを、鍬を持った屈強な村人を引き連れた村長が、ぐるりと取り囲んだままだ。


「逃がさんぞ。さっきも言ったが、畑も家も滅茶苦茶だ。被害総額、金貨五十枚は下らん。耳を揃えて弁償してもらうからな!」


「だから手持ちはゼロだって言ってるだろ! 樽代で全財産すっ飛んだんだよ!」


俺が泥だらけの地面に突っ伏して泣き叫んでいた、まさにその時だった。


「――おやおや。なんという大惨事かと思えば、とんでもないお宝が眠っていたようですね」


泥海の向こうから、豪華な馬車から降り立った、身なりの良い初老の男が歩み寄ってきた。


仕立ての良い服。指にはめられた宝石の指輪。どう見てもこの寂れた村には不釣り合いな、裕福な商人だ。


「誰だアンタ!」

俺は声を張り上げた。

「今こっちは人生のどん底の真っ最中で、一生炭鉱送りのカウントダウンが始まってんだよ!」

「ツボでも羽毛布団でも買う金はねえぞ!」


「私は都の商会に所属する商人です。先ほど、あちらの倒壊した塀の陰で、奇跡的に無傷だった『小さな樽』を拾いましてね」


商人は、懐から小さな水筒サイズの樽を取り出した。


「それ……俺が三倍に薄める前に、ミィナが最初に出した、原液の極上水じゃねえか! 奇跡的に残ってたのか!」


「ええ。勝手ながら一口味見させていただいたのですが……驚きました」

「これほどの純度、これほどの魔力を秘めた清水、都の貴族たちでもそうそうお目にかかれません」

「飲んだ瞬間に長年の疲労が吹き飛び、肌のツヤまで良くなりましたよ」


「ま、マジかよ……」


「ええ。これほどの奇跡の水ならば、都の富裕層向けに金貨を積んででも売れます」

「……どうでしょう?」

「この水を定期的に我が商会に大量に卸していただけるなら、今回の村の賠償金は私が全額立て替えましょう」

「さらに、独占契約の手付金として……金貨百枚をお支払いしますが?」


俺と、リリと、村長は。


泥まみれのまま、完全に動きを止めた。


「…………き、きんか」


「ヒャクマイ!?」


「マジで言ってんのかあああああ!? あのただの水が金貨百枚!?」

俺は天を仰いだ。

「こっちの感覚で言やぁ、ざっと一千万円だぞ!? ただの水が、一千万!」

「どんだけボロい商売なんだよ!!」


俺の絶叫が、泥海となった村に木霊した。


だが、次の瞬間、俺の脳裏にある残酷な事実が閃いた。


「……ってことは!?」

俺は半目になった。

「俺が『水で三倍に薄めて量を増やそう』なんてセコい小細工をしなければ、最初からその原液の水だけで大富豪になれてたってことかよ!」

「!」


「……ふふっ。おっしゃる通りですね、勇者様。薄めたせいで不純物が混ざり、価値が下がっていたようです」


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