マオリョー、新規事業を立ち上げます③ 響きが、命
「バカね! お客の心をくすぐる響きが必要なのよ!」
リリは胸を反らした。
「パッケージには『エリート人事リリプロデュース・奇跡のしずく』って金文字で入れるわ!」
「原価度外視で無駄に金かけんな! そもそもお前プロデュースしてねえだろ!」
俺は頭を抱えた。
「水出してんのミィナだぞ! パッケージ代で赤字になるわ!」
俺は頭を抱えながら、リリのトンデモ事業計画書を払い除けた。
「いいかリリ、商売ってのはな、いかにして原価を抑え、利益を最大化するかってのが基本だ」
「お前のやり方じゃコストがかかりすぎる」
「ふん、新入社員のくせにエリートに商売の仕組みを語る気?」
「ミィナの水は確かに極上だ。だが、あいつにドバドバ出させるのは危険すぎる」
「下手に大量に出させて、またアイシス絡みのスイッチが入って暴走されたら、村ごと吹っ飛ぶからな」
「あら、めずらしく慎重ね」
「だから、ミィナには樽一杯ぶんだけ静かに出してもらう」
俺は指を突きつけた。
「それを川の水で三倍に薄めて量を増やすんだ」
「これなら暴走のリスクは抑えつつ、売る量は三倍。儲けも三倍だろ!」
「これぞ究極の『水増し商法』だ!」
「うわ、悪どい……! 極上の水を薄めて水増しなんて、エリートのわたしのブランドに傷がついたらどうするのよ!」
「うるせえ、バレなきゃいいんだよ!」
俺は声を張り上げた。
「さらに、村で売る時は『飲めば万病が治り、宝くじが当たる』って誇大広告を打つ!」
「サクラも仕込むぞ!」
俺は、広間でつまみ食いをしていたゼルを指差した。
「ゼル、お前は客のフリをして『この水飲んだら腰痛が治ったでー!』って叫べ!」
「おっちゃん、俺まだ子供やから腰痛なんかあらへんで?」
「設定だよ! いいからやれ! よし、俺の手持ちの全財産を使って、水を詰める用の空き樽を大量に買ってくるぞ! 全ツッパだ!」
俺がなけなしの全財産を握りしめ、セコい皮算用でほくそ笑んでいた、その時だった。
突如として、極寒の大広間が、まばゆいばかりの黄金の光に包まれた。
「な、なんだ!? 敵襲か!?」
空から(天井はないが)大量の真紅の薔薇の花びらが舞い散り、キラキラとした謎の粒子が空間を舞う。
そして、その後光の中から、一人の男が優雅な足取りで現れた。
見目麗しい、圧倒的な美貌。自信に満ち溢れた不敵な笑み。
「……俺様の輝きに、焦がれろ」
男は、髪をかきあげながら、完璧なポーズを決めた。
「だ、誰だお前!? めちゃくちゃイケメンだし、オーラが半端ねえ!」
「ついに、ついにこのポンコツ倒産企業にも、まともな大物戦力が現れたのか!?」
「フッ……俺様か? 俺様は、マオリョー取締役副社長、ルシフ。この世界で最も美しく、最も罪深い存在さ」
「副社長!? ……いや待て」
ゼルは腹を鳴らした。
「この会社、CEOのゼノのおっさんがいるんだから、こいつはナンバー3か」
「微妙な立ち位置だな……。まあいい、それでも重役は重役だ!」
「アンタみたいな強そうな人がいてくれれば、俺の異世界サバイバルも安泰……」
「聞かせてもらったぞ、新入り。お前たち、新規事業を始めるそうだな。この俺様が、直々に手を貸してやろう」
「マジですか! 副社長の力が加われば百人力だ! どんな凄い魔法で商売をサポートしてくれるんです!?」
俺が期待に目を輝かせると、ルシフは麗しい顔立ちをさらに近づけてきた。
「フッ……決まっているだろう? この美しすぎる俺様自身を、商品の『広告塔』にするのだ!」
「……は?」
「そして、商品名は『あくありうむ』などという地味なものではない」
ゼノは重々しく頷いた。
「俺様の名を冠し、こう名付けるがいい。……『飲むルシフ』、とな」
「なんだその気持ち悪い商品名!! 誰がオッサンの名前ついた水なんて飲みたがるんだよ!! 完全に変態の飲み物じゃねえか!!」
俺の渾身のツッコミに、リリが割り込んできた。
「ちょっと待ちなさいよ! エリートのわたしが考えた『あくありうむ』をディスる気!?」
リリは丸メガネを押し上げた。
「却下よ!」
「飲むルシフなんて、お客さんの気持ちがしゅーんって冷めて、お財布がぎゅうって閉じちゃうに決まってるわ!」




