マオリョー、新規事業を立ち上げます② 日傘を、させ
リリが手をかざすと、俺の顔の一部に、手のひらサイズの小さな影が落ちた。
「……どう?」
「日傘をさせ!!!」
俺は天を仰いだ。
「どいつもこいつも、お前の補助魔法を通すと絶妙に役に立たねえポンコツに劣化してんじゃねえか!」
「最強の社員たちの力を、なんでお前はそんな最弱の使い道しかできねえんだよ!」
「な、なによ! エリートだからエコな出力に調整してるのよ! 法令遵守よ!」
「そこはコンプライアンスでいいわ! なんでよりによって今だけ急に日本語にしたんだよ!」
俺は半目になった。
「普段あんなに横文字ぶっ込んでくるくせに!」
俺は深いため息をついた。
だが、リリの指先から落ちた『数滴の浄化水』を見て、俺の脳内にセコい商売のアイデアが閃いた。
「……待てよ。水だ。水なら、需要があるんじゃないか?」
「は? 水なんて、そこら辺の川で汲めばタダでしょ?」
「バカ言え。ただの水じゃない、『極上の綺麗な水』だ」
「この世界じゃ、安全で美味しい水ってのはそれだけで価値があるはずだ。……おいミィナ!」
俺が呼ぶと、広間の隅で正座していた深海色の髪の精霊、ミィナが「ふふっ」と微笑みながら立ち上がった。
「はい、勇者様。お呼びでしょうか? わたしをまた影の檻に縛り付けてくださるのですか?」
「性癖を漏らすな!」
ミィナは静かに微笑んだ。
「いいから、お前のその『浄化』の力で、この樽に綺麗な水を出してみてくれ。……いいか?」
「絶対に『アイシス様のため』とか考えずに、ただ無心で、落ち着いて出すんだぞ!」
「……承知いたしました。ただの、お水ですね」
ミィナは目を閉じ、静かに両手を樽にかざした。
チョロロロロ……。
いつものような、城を水没させる大瀑布ではない。
透き通るような、それでいて微かに魔力を帯びた極上の水が、静かに樽を満たしていく。
普段は「アイシス様のため」という重すぎる感情が暴走して厄災を引き起こすミィナだが、感情さえ高ぶっていなければ、こうして完璧に浄化を制御できるのだ。
俺は樽の水を一口飲んで、目を剥いた。
「……美味い! めちゃくちゃ美味いぞ! これなら、絶対に高値で売れる!」
俺のセコい商売根性が、カチッと音を立てて目を覚ました。
「よし! ミィナの水を商品化して、近隣の村で売るぞ! これでマオリョーはついに現金収入ゲットだ!」
「……ふふっ。勇者様のお役に立てるなら、光栄です」
ミィナが嬉しそうに微笑む。
その時、リリが丸メガネをクイッと押し上げ、ニヤリと笑った。
「なるほどね。自社のアセットを活用した新規事業の立ち上げ……」
リリは得意げに鼻を鳴らした。
「エリートのわたしが、このビジネスを完璧にマネジメントしてあげるわ!」
「……お前、なんか変なこと企んでないだろうな?」
「失礼ね! プロダクトの価値を最大化するシナジーを生み出すのよ!」
「商品名からマーケティング戦略まで、すべてわたしに任せなさい!」
「さっきから横文字の圧がすごいんだよ。その根拠のない自信、一体どこから湧いてくるんだ」
リリの瞳が、いらん商才にギラギラと輝いている。
俺の背筋に、冷たい嫌な予感が走った。
……まあいい。今は金だ。とにかく金が要る。
そう自分に言い聞かせて、俺はこの自称エリートの暴走に、自分から乗っかってしまったのだった。
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「さあ、お待たせしたわね新入社員! エリートのわたしが徹夜で考案した、完璧な販売戦略、"ストゥラァテジィ"を発表するわ!」
リリが、丸メガネをクイッと押し上げながらドヤ顔で言い放った。
「いま発音だけ無駄にネイティブにしただろ! 舌だけ巻いても、中身がスッカスカなら意味ねえんだよ!」
「徹夜ってなんだよ、昨日もいびきかいて爆睡してただろ! で、ミィナの極上の水、どうやって売る気なんだ」
「まずは売り出し方が肝心よ! 商品名は……『あくありうむ』に決定よ!」
「なんで水売るのに水族館みたいな名前つけてんだよ! 魚飼う気か!」
俺はツッコんだ。
「飲料水なんだからもっとシンプルに『清らかな水』とかでいいだろ!」




