マオリョー、新規事業を立ち上げます① 金が、ない
マオリョー、新規事業を立ち上げます① 金が、ない
「……金が、ない」
アイシスの暴走によって永久凍土と化した魔王城の、まだマシな気温を保っている大広間。
俺は、朝飯の角ウサギの肉をかじりながら、深く、重いため息をついた。
魔王軍倒産しました。そして俺の異世界就職活動は、現在進行形でどん底を這いずり回っている。
「どないしたんおっちゃん。朝からシケた顔して。肉、マズいんか?」
古龍の幼体・ゼルが、不思議そうに首を傾げる。
「いや、肉は美味い」
俺は肉を口に運んだ。
「アイシスが『保存管理』でチルド状態にしてくれてるおかげで全然腐ってないし、お前の『火力供給』の火で中までいい感じに焼けてる」
「ふん。わらわの完璧な温度管理に感謝することね」
アイシスは冷たく目を細めた。
「……まあ、お前が腹を空かせて倒れられたら、魔王様が帰ってきたときに体裁が悪いからやってあげてるだけだけど」
広間の隅から、氷の魔族である執行役員アイシスがツンと顔を背けながら言った。
「はいはい、毎度ツンデレ助かります! おかげでマオリョーの社員たちの契約は、確実に機能して生活レベルは上がってる!」
俺は立ち上がり、すっからかんの財布をテーブルに叩きつけた。
「だけどな! 圧倒的に、決定的に、現金がないんだよ!」
俺はツッコんだ。
「食料はなんとかなってるけど、俺の一張羅はボロボロだし、シャンプーも石鹸も買えねえ!」
「このままじゃ俺たち、ただの野生のサバイバー集団じゃねえか!」
俺が叫ぶと、丸メガネをズレさせた白銀ツインテール――自称エリート人事のリリが、やれやれと肩をすくめた。
「新入社員はこれだから困るわ」
リリは胸を反らした。
「新興企業のキャッシュフローの枯渇なんて、よくあるリスクよ」
「もっとエリートらしいビジョンを持たなきゃ」
「ビジョンで腹が膨れるか!」
俺は頭を抱えた。
「大体お前が最初に言ってた『給料は弾む』って条件、あれから一銭も払われてねえだろうが!」
「完全に空手形じゃねえかこのブラック倒産企業!」
「エリートのわたしに向かってなんて口の利き方よ!」
リリは丸メガネを押し上げた。
「そもそも、キャッシュがないなら、自分たちのアセット(資産)を使って新しい事業を立ち上げればいいじゃない!」
「アセット? 俺たちにあるのは、凍った城と、すぐ暴走する厄介な社員だけだぞ!」
「失礼ね! わたしの『補助魔法』があるじゃない!」
リリは目を泳がせた。
「わたしが結んであげた契約を通じて、社員たちの力をちょっとだけ借りられるようになったのよ!」
「これでお金に換えればいいのよ!」
リリはふんぞり返り、自信満々に胸を張った。
「ほお? お前が魔法を? まあ、探索強化はともかく、他の力も商売に使えるなら……」
俺が少しだけ期待の眼差しを向けると、リリはドヤ顔で実演を始めた。
「いくわよ! まずは探索の補助! 『ぴぃ検知』!」
リリが指差した先。俺の足元で、干し肉の束にうずくまっていた鶏のぴぃが、「ぴぃ?」と首を傾げた。
「……で?」
「今、城内のどこにあの鶏がいるか、完璧にサーチしたわ!」
「ただでさえ足元で震えてる鶏を見つけてどうすんだよ! それでどうやって金稼ぐんだよ!」
俺は指を突きつけた。
「『はい、あなたの鶏はここにいます、百ゴールドになります』ってか! アホか!」
「次よ! 浄化の補助!」
ぽちょん。
リリの指先から、綺麗な水滴が数滴だけ滴り落ちた。
「……終わりか?」
「極上の浄化水よ! 喉が潤うわよ!」
「砂漠のど真ん中でも商売になんねえよ! スポイトかお前は! 出力が微弱すぎんだよ!」
「まだまだ! 火の補助よ!」
チチチチ……パチッ。
リリの指先で、数秒だけ小さな火花が散って消えた。
「線香花火か!! 夏の終わりのノスタルジーを演出してどうすんだよ!」
俺は声を張り上げた。
「ゼルなら城ごと燃やせるのになんでお前を通すとそうなるんだよ!」
「……冷気の補助!」
リリの手のひらの上に、うっすらと冷たい空気が漂う。
「……リンゴ一個ぶんくらいなら、ちょうどよく冷やせるわ!」
「局地的すぎんだろ! アイシスがいるんだからそっちに頼むわ! なんでピンポイントでリンゴ一個なんだよ!」
「最後よ! 影の補助!」




