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魔王軍倒産しました。〜領地は絶賛再建中・勇者は絶賛就職中〜  作者: 瀬大
第5話 マオリョー、防犯対策します
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マオリョー、防犯対策します⑧ 巣を、壊すな



「この小さな命もまた、過酷な環境の中で、必死に自らの『居場所』を作ろうとしているのだ」

ミィナは頬に手を当てた。

「その健気な営みを、己の食欲という打算だけで踏みにじるのは、強者の振る舞いとは言えん」

「……この城に身を置く者として、少しは寛容な心を持て」


ゼノのその言葉は、翻訳詐欺でもなんでもない、彼自身の本物の言葉だった。


その静かな響きに、俺は思わず息を呑んだ。


――そうか。


倒産して、明日どうなるかもわからないこの魔王城。


理不尽な寒さや飢えに耐えながら、必死に自分の生きる場所を確保しようとしているのは、俺たちだけじゃない。


この小さな鶏も、自分なりに必死に、ここを自分の『居場所』にしようとしているんだ。


強大な魔法も、偉大な権力も持たない弱い生き物が、ただ生き延びるために。


居場所を守るってのは、こういうことなのかもしれない。こいつらも、俺と同じように……。


「……って、納得するかああああああ!!!」


俺の魂のツッコミが、極寒の部屋に炸裂した。


「エモい空気にすり替えるな! 居場所を守るって、俺の飯を犠牲にして成り立ってんだろうが!」

俺は指を突きつけた。

「お前らみたいな無給のブラック企業に就職した俺の居場所とカロリーはどうなるんだよ!」

「寛容な心で俺の胃袋が膨れるのか!」


「……ふふっ。勇者様、照れ隠しですか? いつも文句ばかり言っていますけど、本当はとてもお優しいのですね」


「ミィナはおとなしくしてろ! そもそもお前が城を凍らせたからこの鶏が寒がってんだろ!」

俺は声を張り上げた。

「……いや、凍らせたのはアイシスか。とにかくお前らのせいだ!」


俺が喚いていると、リリがポンと俺の肩を叩いた。


「まあまあ、新入社員」

リリは丸メガネを押し上げた。

「ここはエリートのわたしが、ウィンウィンなスキームで解決してあげるわ」

「泥棒の正体もわかったし、防犯対策自体は成功したわけじゃない?」

「なら、あとはこの影の従者と、正式に契約を結ぶだけよ!」


「防犯対策は成功してねえよ、俺の一張羅が全損しただけだ!」


「ま、どうせまた言うんだろ。『今のノクテは過剰防衛するだけの危ない奴」

俺は天を仰いだ。

「でも契約魔法で繋げば、その影が会社の警備諜報になる』――だろ?」


俺が先回りしてリリの口調を真似てやると、リリは少しむっとした顔をしたが、すぐにドヤ顔に戻った。


「あら、完璧な要約じゃない。新入社員のくせに、わたしの仕事をよく理解してきたわね」

「ふふん、そういうこと。野良の力を、会社の機能に繋ぐ。それがわたしのお仕事よ」


「だんだんお前の自慢に付き合わされるのが板についてきた自分が嫌だよ……」


リリは俺の文句を無視して、バサッと羊皮紙を広げ、ノクテの前に立った。


「いくわよ! マオリョー人事担当リリの名において、あなたと契約魔法を結ぶわ! 結びなさい、警備諜報の契約魔法!」


リリの指先から、青白い光の粒子がふわりと放たれた。


光はノクテの黒装束を優しく包み込み、制限するでもなく、縛るでもなく、ただマオリョーという会社に繋ぎ止めるように、スッと彼の影の中へと溶け込んでいく。


「……(スッ)」


ノクテは無言のまま、俺とリリに向かって深く頭を下げた。リリの瞳孔に、ほんの一瞬、深い紫黒の蝙蝠紋様が浮かんで消えた。


契約成立。


これでマオリョーは、城内の安全を見張る警備諜報のプロを、正式に社員として迎えることになった。


「……うむ。ノクテはこう申しておる」

ゼノは重々しく頷いた。

「『無事契約も済んだことだし、ゼノ様への祝いの品として、最高級のワインとチーズの詰め合わせを要求する』……とな」


「だから最後まで翻訳詐欺すんなああああ!! お前のその私利私欲は絶対に許さねえからな!」


「……(グッ)」


「ノクテ! お前も無言でサムズアップして便乗すんな! 主従揃ってタチ悪すぎるだろ!」


俺のツッコミが木霊する魔王城。


足元では、ぴぃが俺の干し肉の上で「ぴぃ」と満足げに丸くなっている。


部屋には未だに、ノクテが過剰警備で仕掛けた影のトラップが所狭しと張り巡らされていた。


「……おいノクテ。契約したんだから、この過剰な罠、早く解除してくれよ……」


「…………(スッ)」


ノクテは無言で首を横に振った。


警備だけ、厳重に。


本日の収支。


収入:警備諜報の契約魔法(過剰)。


支出:干し肉、一張羅、安眠、部屋の出入り口。


差し引き――いつも通りの、大赤字。


飯は鶏の断熱材にされ、服はネットでズタボロになった俺の、極寒のサバイバル生活はまだまだ続くのだった。


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