マオリョー、防犯対策します⑥ 縛られたのは、エリート
大広間の天井から、リリが、影のロープでぐるぐる巻きにされて、ミノムシのように逆さ吊りにされて喚いていた。
「お前も罠にかかってんのかよ! ポンコツ神が! 自分でなんとかしろ!」
俺がツッコミを入れると、今度は広間の隅で、鎖のような影に雁字搦めにされている古龍のゼルがもがいていた。
「んーっ! んーっ!!(アカン、火ィ出そう思たら口を影で塞がれとる! 息できへん! 死ぬでこれ!)」
「ゼルまで! 最強の古龍が、なんでそんなあっさり無力化されてんだよ! ちょっとは抵抗しろ!」
そして、大広間の中央には、巨大な水槽のような『影の牢獄』が設置され、その中でミィナが正座していた。
「……ふふっ。おはようございます、勇者様」
ミィナはうっとりと目を細めた。
「昨夜、夜食のお水を飲もうと廊下に出たら、気づけばこのような素敵な檻に入れられていました」
「……緊縛されるのも、また一興ですね」
「この檻ごと、アイシス様のお部屋に届けてほしいです。ふふっ」
「性癖を暴露すんな! なんでお前だけちょっと嬉しそうなんだよ! 全然防犯になってねえじゃねえか! ただの無差別テロだろこれ!」
俺がボロボロの一張羅を抱えながら絶叫していると。
「…………(スッ)」
大広間の暗がりから、ノクテが音もなく姿を現した。
「ノクテ! お前か! 全部お前の仕業だな!」
俺が指差すと、ノクテは無言のまま、堂々と胸を張り、俺に向かって力強く『サムズアップ』をした。
「ドヤ顔でサムズアップしてんじゃねええええええ!! どこがミッションコンプリートだ!」
俺は天を仰いだ。
「味方を全員捕縛して要塞化してどうすんだよ! 城の機能が完全に停止してんだろ!」
俺がブチギレていると、ノクテの後ろから、胡座をかいたまま宙に浮いて移動してくるCEO――ゼノが現れた。
「……うむ。朝から騒がしいな、新入りよ。見よ、我が従者ノクテの完璧な仕事を」
「完璧な仕事じゃねえ! 過剰防衛の極みだ! なんで味方のリリたちまで吊るされてんだよ!」
ゼノは、天井で喚くリリを一瞥し、やれやれと首を振った。
「……ノクテはこう申しておる。『防犯の基本は性悪説」
ゼルは腹を鳴らした。
「食料を狙う輩は、城の内側に潜んでいる可能性が高い」
「ゆえに、ゼノ様以外の怪しい挙動をする不審者は、すべて例外なく捕縛いたしました」
「完璧なセキュリティです、ゼノ様』……とな」
「だからお前が喋るなああああ!!」
俺は半目になった。
「っていうか、味方を不審者扱いして全員捕まえるって、それもうただのクーデターじゃねえか!」
「守るべき対象がいなくなってんぞ!」
「……うむ。さらにノクテはこう申しておる」
ゼノは重々しく頷いた。
「『新入りよ、これほどの完璧な要塞化と警備網を構築した私の働きに対し、当然、ゼノ様への追加報酬として、一等地の別荘と、年金型のリゾート会員権を要求する』……とな」
「要求がエスカレートしてんじゃねえかああああ!!」
俺はツッコんだ。
「誰が年金型リゾート会員権なんか払えるか! 今すぐこのクソみたいな要塞化を解除しろ!」
「俺の布の服の弁償もしろ!」
俺が氷漬けの廊下の床をガンガン叩きながら抗議すると、ノクテは再び、無言のままスッと手を差し出してきた。
「だからその手はなんだ! お前の無言はもう信じねえぞ!」
「……うむ。ノクテはこう申しておる。『解除してほしくば、まずは前金として、ゼノ様に最高級の肩たたき機をよこせ』……とな」
「どんだけ肩凝ってんだよおおおおお!! 自分で揉めえええええ!!」
俺の悲痛な叫び声が、捕縛された仲間たちの呻き声と共に、要塞化された魔王城に虚しく響き渡る。
夜な夜な食料が消える、という小さな事件。
それを解決するために頼ったプロの諜報員は、プロ意識と忠誠心を完全に空回りさせ、魔王城を『誰も動けない物理的監獄』へと作り変えてしまったのだ。
「……痛ぇ……寒ぃ……服が破れて風通しが良すぎる……」




